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三大貴族の場合

「誰? このおっさん」

 その時、謁見の間は寒波に襲われた。一人の宮廷魔術師の不用意な一言で。

 まあ、その宮廷魔術師、私なんだけどね。



 小国の我が国にも、有力貴族と呼ばれる存在はあり、その中でも特に家格・力がある三家は、三大貴族と称されていた。

 ……うちって、十も貴族があったっけか?

 その中の一貴族に、“神童”が現れたと昨今評判になっていた。

 優秀な人材は強国の礎となるが、優秀すぎる人物は傾国の脅威となる。

 スペックの高い人物は、優秀な統治を行ってくれると、周囲が勘違いするのは世の常か……

 で今回、噂を耳にしていた我が王が、余興としてその神童を召喚した――表向きは。

 本音は、『その神童が現王家を直接間接問わず、脅かす存在となるのか観極めよ』と、私に命が下ったわけだ。

 噛み砕けば、野心家して成長をするか、頭でっかちのほだされ易い高級傀儡として刃を向けるか。

 ひょんな事から知人となった特別な彼女のおかげで、私は可能性を観ることが出来るようになっていた。検証項目を単一に設定し、思考上にて得られた結果を像として観るといった具合だ。そこで確認出来る結果は、実現性の一番高いものを観ることになる。

 普通にいったらこうなるんじゃね? 程度の先観(さきみ)なのだが。

 さて、そろそろ時間か。

 私は、謁見の間の所定位置にて、来室を待った。

 今回は爆音の心配は無い。

 それにしても、我が王のあのようなお顔は、いつぶりだろうか。

 相変わらず、どこか威厳にかける風体であるが、内面は害か利かを見極める商人の目つき。

 我が王は、お金儲けがお上手だからなー。豪商になったほうがよかったのだろうけど……あんな事があったせいで……

 気まぐれに、宮廷魔術師らしく心中で我が王を案じていると、来室の一幕が始まった。

 さてさて。

 目の前に現れたのは、貴族らしい雰囲気を纏わせた子供だった。幼さ上の中性的な可愛らしさがある。ともなければ、個人として女の子のような顔立ちだからか。なんとも穏やかな空気を振りまいている。

 うえー。キモ……

 神童の呼び名に違わず、同席した現当主に負けぬ振る舞いを披露し、周りのお偉方は感嘆の声を漏らしている。

 そんな中、思わず言ってしまった。

 誰が? 私が――


「誰? このおっさん」


 失礼、本音が飲み込めなかった。

 謁見の間に吹き荒れる吹雪。私の声は以外に通るようだ。

 私の言葉は、同席した現当主へと向けられた“侮蔑”と捉えられたようだ。

 あ、なんか怒ってる。現当主殿。

 我が王は、露骨に口を開けた顔を私へと向けて来る。

 王妃様は、私の言葉の真意を測っておられるようだ。

 沈黙が怒声へと変わりそうな時、かの神童が慌てたように現状打破を敢行した。胡散臭い子供らしさで。

 そのまま魔術に興味があるとか脈絡のない話題を振り、私との会談を望み、早々に謁見は終了した。

 

「で、なに? おっさん」


 私の客室(隣室に王妃様及びその隠密部隊が控えた)のテーブルに神童が着くなり、私は開口した。

 本音を飲み込むの無理。

 私にはずっと観えていた。

 この愛くるしい神童に重なるように立つ、脂ぎったおっさんの姿が……

 私には、神童の一連の行動が、倒錯した幼児プレイにしか観えていなかったわけだ。

 キモ。

 腹の探りあいが面倒になった私は――けっして、幼児プレイを少しでも長く見たくないというわけではなく――『気づいているのだろけど』と切り出し、今日の召喚理由を告げた。

 おっさん……神童は……もう、彼でいいか。

 彼は、ため息をつくと自身の境遇を話し始めた。

 『信じてもらえそうだから』とは言わず。

 『殺されそうにないから』と、暗い光を目に宿して。

 そういえば、現当主は彼の祖父だった。氏族の召喚に当主が同席するのは自然だが、この年の子供なら親が来るはずだ。出奔した者がいると聞いた記憶は無い。

 彼の口から語られた内容は、私に十分な納得を与えた。

 一通りの話が終わると、“公言しないことを我が名に誓い”というとカッコイイのだが、真実は互いの利害が一致したため黙すことにして、お茶を終えた。

 『異世界の知識もほどほどに』と釘を刺すことも忘れずに。


 

 思念構築の転生者……か



 後日、私は自身の仮説と推測が正しのか、彼女に連絡を取った。

 『わ!』じゃない! あんたの場合、単に驚かすじゃなく、精神が焼かれちゃうでしょ! 

 え、そろそろ“声”を聞いても大丈夫だろうって?

 私は、そんなスパルタをお願いした覚えはないわ!

 吠える私を楽しそうに、巨大な彼女が見下ろしてくる。

 んったく。変に人間身があるんだから……


「でね、この前ね――」


 彼女にわざわざ声で話す必要は無いのだが、心で話すと人の身の私では、ノイズが多分に含まれやすくなるのであえて会話をする。

 神の補填? 構築された思念をベースに転生を成す? ふーん。

 あのナメクジ野郎とは違い、この世界に生を受けたことで、この世界の要素で構築された存在となる。

 ここまでは、彼女も同じだ。

 では、違いは? 与えられたチカラの置き所が、内か外かの違いか。

 あ、合ってる? そう。

 じゃあ、前世の記憶を所持したまま転生させる高位次元体の目的は?

 私は確認したかった二つのうち一つを尋ねた。


「選択の簒奪?」

 

 私の仮説とはまったく違った返答があった。

 私は、異世界の知識を流入させることで、良くも悪くも世界に変化をもたらす事だと考えたのだが、高位次元体にとっては世界も個人も変わらないようだ。

 人には無限の可能性があると言った賢者がいたが、選択もその可能性であると彼女は言う。

 赤子が成人するまでに、ある程度の変化に富んだ経験の中から選択を重ねる事で自身を確立させていく。

 なぜ成人までか? 成人する頃には、新しい経験は変化では無く、既存の経験に付加させる形で消化されることが多い。

 彼は二十五で他界したといっていた。

 二十五で、あのおっさん臭って……

 彼の世界の成人が何才を指すか知りえないが、私の常識では、十分個人として確立した精神を形成していると判断する。

 つまり、彼女は初めから確立した精神を所持させることで、変化ある選択を故意に奪い、変化済みの選択をさらに突き詰めさせた選択を行わせると言うのだ。

 分からん。

 実証実験としても、その成果とは何かさえ見えない。

 思考をクリアに。

 聞きたかった残りの質問を彼女にした。

 彼女は、わずかにあごを引く。

 

「そう」


 私は彼女の肯定に、知らずに声を発していた。

 こうして、巨大な彼女とのお話は、お開きとなった。



 今、私はどうやったら彼女に驚かす悪戯を仕掛けられるか思考実験中だ。

 そうそう、私が彼女にした二つ目の質問。

 それは――


 

 彼が二十五になった後、彼は凡人に成り下がるのではないか。



 生まれた段階で二十五才。二十五年の成長で、精神は五十才……とはいかない。

 大人じみた子供がいるように、いつまでも子供から抜け出せない大人もいる。

 彼は、二十五才までは年齢よりも成熟した精神を持つ大人なのだろう。

 でも、それ以降は彼にとって未知の時間だ。

 彼が算学の結果のように、その時に五十才の熟成した精神を得ているためには、同等の環境の中にその身を置き続けなくては成せない。

 ただ、周りも五十才の精神の中では、彼は普通であり、彼を特別とする環境ではない。それにそれでは、“実年齢以上の達観をみせる”という、彼の魅力が薄れてしまう。

 彼は、ちょっと人生を予習していただけ。

 今は復習中。

 そして、予習も復習も彼は二十五才までしか出来ない。

 人外のようなチカラも、彼の精神の熟成には何の影響もない。むしろ悪影響があると私は考えている。

 精神は肉体に影響され、肉体は精神の干渉を受ける。

 肉体以上の時間を既に経験した精神は、その齟齬を齟齬として認識出来るのだろうか。

 見た目は子供、中身はおっさん。

 彼もまた、世界を謀り、理に沿っているように見せている者。

 世界を騙す者――その一人だった。

 

 

 何です。我が王? はあ? 孫が男か観ろ? って、あんたのお子様方、婚約さえしてないじゃないですか? 王妃様と賭け? なんでまた? ちょっ、そんな赤裸々な枕語りは聞きたかないわ!

 夢でお告げ……分かりました。分かりましたよ。

 今度気が向いたら、御下命受けたまわりますよ。



 さてさて、今度はどんなのが観れるのやら。

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