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第二王子の場合

 はあ……昨日の今日でこれは無いわー

 昨日の今日じゃないけど……


 今、謁見の間には、王妃と第二王子、その他のお偉方。目の前の圧倒的な存在にどうしようもない宮廷魔術師がいた。

 宮廷魔術師は、私なんだけどね。


 

 事の始まりは、王族の? 貴族のたしなみとして、第二王子がこれでもかとお供を従え、狩りに行きましたとさ。

 ところが、一向に獲物を見つけることが出来なかった第二王子は、無神経にも、無自覚にも、無謀にも、単身獲物探しを始めたそうだ。

 そりゃそうだよね。大勢で行ったら、狩りの対象となる野生動物は、そこから逃げるか、息を潜めて動かなくなるのは当たり前でしょ?

 そんな中、単独行動をかましたボケ……機転にとんだ第二王子は、早速獲物になった。

 獲物を探すなら、自分を餌としようとする魔物も見つけろよ。もう。

 ころんでも第二王子。勇敢にも一声を上げたらしい……

『者ども。我を守れ!』

 一人で……

 で、守ってくれる者もなく逃げだしたが、あっさりと追いつかれ、これで王位継承問題が楽になるかなーというところで、助けれらたらしい。

 

「チッ」


 失礼、本音を飲み込めなかった。

 

 それで、帰ってくるなり『女神に会った』とか、『お供は、皆クズ。死刑!』とか、のたまいやがった。たしかに、こんなぼんくら王子にまかれるようじゃ、錬度の低さを問題視せざるをおえない。分かっているのか若手筆頭触手騎士。

 しかし、貴様が死刑とかほざくかボケ! 我が王に具申し、王妃様は当然のように私に“ヤレ”と、私の具申に眉をひそめる演技をしながら目力(めぢから)を私へ放射する。

 はいはい、私は悪役ですよ。

 翌朝、第二王子は私への返事に『イエス! マム!』と返すようになった。

 私は、あなたの母ではない。それに独身だ!

 翌々朝、第二王子は私への返事に『は! 軍曹殿』と返すようになった。

 私は、魔術師です。

 これ以上の修正は、あらぬほうへ行きそうなので、しぶしぶ現状を容認。


 さて、謁見の時間が迫ってきた。

 私は、すでに口を開け、両の耳を手で押さえている。周りの目は気になるが、我が身かわいさの前ではどうでもいい。

 

 来た!


 巨大な何かが近づいて来るのを感じ、とっさに身を固くする。

 ……あれ?

 何も起きない事に疑問を覚えると、扉の向こうから客人の入室を願う衛兵の声が聞こえた。

 弱小国とはいえ、それなりに歴史あるこの国。歌劇の一幕のような、形式に則ったやり取りの後、客人を迎え入れた。


 あー。これはしょうがないな。が、私の第一印象。

 私でも、この女とは言えなかった。この彼女(ひと)だった。

 

 まず美人。そして美人。最後も美人。

 スタイル良し。色気も十分。でも、それよりもその透き通るような気品に心が奪われる。

 王妃様に対し、ひざをつき頭を垂れ、拝謁の礼を述べているその光景は、上下の関係確認ではなく、上位者があえて(へりくだ)った姿勢を取ったようにしか感じさせない。

 しかも、その口上は決して格調の高い言葉遣いではなく、市井(しせい)の者が、丁寧に丁寧に話しているだけなのだ。

 それなのに、彼女の口調と声質は、神託を告げられているような神聖さを纏わさせている。


 一通りの挨拶が終わり、王妃様が第二王子への救済に感謝を述べ始めた。

 和やかな、やり取りが行われる。

 彼女に釘付けかと、さりげなく第二王子を観ると、以外にもその視線は別のところをさしをていた。

 一言で言うなら、羨望。

 第二王子は、王妃と言葉を交わす彼女の後ろ、今も黙したまま静かに控える彼女の逆ハー要員――男達に向けられていた。

 男色に目覚めたのでは、ないだろう。そう思いたい。主に説教くれた私のために。

 ちょっと内側に向かっていた私の視界の隅に、鋭い刃が映った。

 朗らかに会話を楽しむ王妃様が、私にしか捕らえられぬ速さで、眼光を刃に変えて投げ放ってくる。

 心の中で首をすくませると、私は意識を大きく開いた。


 やばい!


 殴りつけられたように、頭を大きく後ろに跳ね反らすと、私はそのまま前かがみになり、大きく息を乱した。

 王妃様が『大丈夫ですか?』と、ゆっくりとした口調ながら、私たちの間だけで、通じる危機感を添えて気遣ってくれる。

 

「す、すみま……せん。ちょっと、下がらせて、頂きます。ただ、の、立ち眩みです」


 宮廷魔術師として、精一杯の強がりを総動員して、何とか背筋を伸ばし、王妃様の許しを待つ。

 第二王子は『軍曹殿!』とか言ってるが、かまうことも出来ない。

 王妃様は、衛兵に椅子を用意するよう指示すると壁際に設置させ、そこで休むことを許した。

 宮廷魔術師として、王妃様は厳しくも責務を果たさせるため、退室を許さなかった。

 一見。

 しかし、本音は目の届くところに私を置いて、容態の悪化した場合すぐに対応出来るようにしたかったのだろう。

 大丈夫ですから、そんなに心配しないで下さい。王妃様。

 私は力なく、謝罪を含む返礼をすると、椅子へと腰を下ろした。

 あれはやばかった。もう少し意識を閉ざすのが遅ければ、私の心は焼き切れていただろう。

 『女神様』ね……

 第二王子の言葉を思い返す。

 同じ失敗はしない。今度は慎重に意識を開いていく。存在を観た。

 強大な彼女がいた。

 先程も彼女を観た。今顕在している彼女をモデルにしたような巨大な存在が、彼女の背後に存在した。瞳を閉じたアルカイックスマイルを浮かべ。

 そこまでは何とか保てたが、巨大な彼女の興味を引いたらしく、まぶたを薄く開かれた。危うく視線が絡みかけた私は、先ほどの醜態を晒すことになってしまった訳だ。

 また私に気がついたのだろう。巨大な彼女の口元に開口の動きが始まった。

 やめて! 死んじゃう!

 心の中で、絶叫を上げた。ほぼ反射的に。


 高位次元体


 私は、そのように観た。

 背後の巨大な彼女が本体で、今この場にいる存在は、彼女の一部が顕在化したモノ――形代(かたしろ)なのだろう。

 神の一柱と呼んで差し支えない存在だ。

 私の心の中の問いかけに、巨大な彼女は無言のまま、幾つか教えてくれた。

 異世界からの転生者なのか……不老不死? 人にとっては無限に等しい魔力? 規格外の技能? そりゃ人の“カタ”には納まらんよね。

 人の身で不老不死であったなら、生れ落ちた時から成長はない。人の身体的成長と老化は同意である。はずだ。

 どんな存在が彼女にチカラを与えたのやら……高位次元体に自身を押し上げなければ、この世に存在出来ないほどって。与えすぎじゃね?

 このような来訪者に会ったのは初めてだ。興味が尽きない。

 私との意思交流の最中も、形代の彼女は別人格のように王妃様達とやり取りを続けていたので、もうちょっと探求意欲を満たさせてもらおう。

 顕在限界? なにそれ? 実演してみるからって……実演? おお!?

 彼女が自身の形代へ吸い込まれるように、その存在を希薄にさせていく。

 ぐにゃ

 形代の彼女の周りに歪みが生じ始めた。

 世界が壊れていく?

 その歪みは、感覚では分かるが、認識が出来ない。何を言っているのか自分でも支離滅裂だが、そうだとしか表現が出来ない。

 歪みの淵が、甲高い破砕音を立てながら、弾け始める。

 これってまずくないの? まずいの? いやいやいや! 微笑んでないで早く戻ってよ! 私のおまんまの種を壊さないでよ!

 私の狼狽する姿を楽しんだかのように、初めの状態へと彼女はシフトした。

 で、これが安定状態って、分かったから……以外に茶目っ気のある存在だな。元が人だから、存在としてのチカラに精神が干渉されていないのか……時間的概念が人の尺度では短すぎてまだ影響が出ていないのだろうか。そうすると、今は人の概念に従った行動原理があるけど、いずれは超自然的な見地から……

 私の楽しい思考検証は、残念ながら強制終了させられてしまった。

 は? 『生意気』? 私が懲らしめる? 何言ってんの君。

 自分の世界にどっぷり中に、第二王子が求婚した――のではなく、従者とでも言うべき取り巻きに加わりたいと申し出たところ、やんわりと断られたみたいだ。

 話を聞く限り、そこに無礼なところはなく、第二王子だけでなく、王妃様の立場も損なわないすばらしい言葉のチョイスであったのに、内の若手魔術師(貴族出の典型的な第二王子ラブ娘)が、脳内補正により第二王子が愚弄されたと思ったらしい。

 で、なんで私にお鉢をまわすかな~。やだよ私。仲良くしてもっと知識を引き出す……得るのだから。

 ちょっ、王妃様! 無理ムリむり! 試しとかありえないから! 

 いたずら心を発動させた王妃様が『どう?』とか言ってくれやがりましたので、笑顔で必死に懸命にマジで拒否。

 

 

 高位次元体になった転生者か……リンクを残してもらったし、深遠の知識をもっと……グヘヘヘヘ。

 そうそう、内の若手と彼女の勝負は――彼女の精神は一女性であることを証明したとだけ伝えようかな。くわばらくわばら。


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