餓鬼は人の死に心を望む
それは貫くような快晴の中での出来事
「おい!飛び降りるぞっ!」
視界に蔓延る悲鳴の様なノイズに混じって、その言葉は周囲に響き渡った
「あっ……」
そこにいた全ての人間が息を呑んだ
――グシャ
と、そんな滑稽にも聞こえる音が、耳に残る
血飛沫
数瞬遅れて、周囲から湧き上がる絶叫の嵐
そんな惨憺たる景色の中、彼の口元は
誰が
どう見ても
微笑んでいるようにしか見えなかった
それが終わり
一つの終わり
或いは、始まり
☆
廃材から作った様な襤褸い机、椅子。決して広いとは言えない教室。そこに鮨詰めにされ、呻き声を上げる猿の様な生徒。教科書をなぞるしか能の無い、いや、時にはそれすら出来ぬ木偶の教師。
学校とはまるで豚小屋のように薄汚い施設だ。
「で、あるからして――」
今も頭の禿げ掛かった教師が何か喋っているが、その言葉が生徒側に届いているとは到底思えない。
教師側も伝わっているなんて思っていない。与えられた仕事のみをこなし、金を受け取るだけの、何でも無いただの作業だ。
――僕は一体、こんなところで何をしているんだ?
たまに考えるが、考えても面白くない。
僕にとって日常とは、決まりきったルーチンワークの事であり、そこから得る物など無いに等しい。
ただひたすらに忘却を重ね、意識を食い潰し、時が流れるのを待つ作業。
例えるならそれは死者の所業だ。
――それでも高卒なんて学歴を欲しがる辺り、僕は完全に餓鬼だってことだよな。
そんな事を頭の中でのたまいながら、ひたすら時の中に自分の存在を埋没させる。
今日という一日にも変化はない。ない。ない――ないと思っていた。
☆
視界が歪んだ。それはパレットの上で幾つかの色を無差別に混ぜ合わせているかの様で、酷く気味が悪い陰鬱な光景だった。
「ねぇ、嘉定君。」
声を掛けられていた。
勿論気付いている。
でも僕は返事をしない。意味がない。何より、気持ちが悪い。
「嘉定君ってば……」
女子生徒だ。クラスメイト。クラスの委員長を務めていたような気がする。名前は、知らない――が、別にそんな事はどうでも良い。
彼女は、嫌な事を、嫌々ながら、押し付けられた仕事をこなすかの如き心境で、僕に話しかけている。
それが分かってしまうから、僕は返事をしたくない。
「嘉定、君っ!」
だからと言って、肩まで掴まれては反応をしないわけにはいかない。
仕方なく僕はその声の主の顔を見る。
「何か……用?」
「あの、こ、これ。」
彼女は明らかに嫌々ながらといった風体の歪んだ表情でもって僕に一枚の紙を手渡してきた。
「これ、何?」
見れば分かる事をわざわざ訊く。
自分でも自分の事を馬鹿なんじゃないかなんて思ってしまう。
「進、路調、査、票だよ。」
彼女はまるで絞り出すかの様な弱々しい声音でなんとかそう告げた。
「ふーん。進学が就職か、選べってことね。」
僕が納得した声音で返事をすると、彼女は安心した表情を作り、それで自分の仕事は終わったとばかりに僕に背を向けて去って行った。一秒でもこんな場所には居たくないと言わんばかりに。
殺してみようかな、なんて行動に移すわけがないのに、素直にそんな風に思えた。
☆
「死後の世界って奴、信じてる?」
クラスのお調子者が何かわけの分からない事を語っていた。
誰かが返事をしてくれれば良いと言う様な、不特定多数に話しかけるそんな口調。
だが今回に限れば、それは僕に向けられた言葉だった。
「いきなり何?」
確かにクラスメイトだが面識は無いにも等しい。
ただ同じ部屋の中にいるだけの赤の他人。そんな距離感だったはず。
「いや別に、死んだような顔してるからさ。ちょっと訊いてみたくてね。気に障った?」
そんな失礼な事を宣いながら、そいつは馴れ馴れしく僕の対面に腰を落とし、体だけをこちらに向けて来る。
『今からじっくりお前と話し合う』とでもいう様な、そんなスタンスが感じ取れる。
「嘉定だったよな。下の名前知らねぇや。何ていうの?」
僕も彼の名前を知らない。彼と違って姓も名も。
「……哲也。」
自然と口調は堅くなる。
僕にわざわざ話しかけて来るなんて、こいつはどういうつもりなんだろう。
「ふーん。嘉定哲也ね。意外と普通の名前なんだな。」
こいつはどんな名前を想像していたんだろうか。
「俺の名前知ってる?」
「知らない。」
本当に文句なく知らない。
出席番号が何番だったのかさえ記憶していない。
「即答かよ。ハハ、なんだ面白い奴じゃねぇか。皆、勘違いしてんじゃねぇの?
俺はさ、雄太っていうんだよ。館川雄太。普通だろ?」
そう言って雄太は快活に笑う。
それだけでこいつが本当に良い奴なんじゃないかと思えてしまう程に、その仕草は自然に様になっていた。
それだけにいけ好かない。
「さて、自己紹介も済んだ所でさ、物は相談なんだけど……」
雄太は僕に顔を近づけて来る。
内緒話がしたい。と、そんな雰囲気。
信頼に足る友人に事困っていない様な奴が、こんな僕にわざわざどんな用があるというのか――そんな事が気になって、僕は彼の話を聞く事にした。
「今晩、俺の家に遊びに来ないか?」
その言葉をそのまま言葉尻通りに捉える事は出来なかった。
☆
人が死ぬ様子を見た事がある。自殺だった。高いビルからの飛び降り自殺だった。
それは醜悪で劣悪で、そして極悪で、何より凶悪だった。
悪寒が走るというのはこの事なんだと、その時初めて知った。
気味が悪い、それに気持ちも悪い。
吐き気がした。吐いてしまいそうだった。
食道まで競り上がって来た吐瀉物を何とか嚥下し、言い知れぬ嫌悪感を強引に引き払う。
――なんで自殺なんてするんだろう?
――僕みたいな餓鬼だって、死にたいわけじゃないのに。
ふと、唐突に、何の前触れもなく、そんな事を思った。
特に意味の無い思考。ありえない考察。それでなければ、ただの妄想。
――死んでみたら何か分かるかな?
死んでみれば、或いは何かが分かるかも。
もしかしたら人はだからこそ死ぬのかも。
今死んだ人も自殺する理由が知りたくて自殺したのかも。
――そんなわけ、ないよな。
――それとも、殺してみたら何か分かるかな?
――殺してみれば、自分を殺す理由だって少なからず分かるかも。
頬の端が釣り上がる感覚を僕はこの時初めて知ったような気がした。
☆
時刻は既に午後の八時を回り、人通りの減った街路。夜空には疎らながら星は煌めき、下弦の張った月がその存在を示すかの如く君臨している。
雄太が指定した時間は午後の七時だったが、僕はあのいけ好かない男の予定通りの行動をするのが嫌でわざと時間を遅らせた。あの爽やかな男は大して気にもしないだろう。
予め伝えられていた住所はすぐに分かった。『館川』の表札も確認した。間違いない。
呼び鈴を鳴らして暫く待つ。バタバタという足音が聞こえ、やがて扉が解錠される音が響いた。
「よ、来たか。まあ上がれよ。」
雄太は遅れてきた僕を一切咎めることなく家に招き入れる。
玄関を潜るとすぐに食欲を刺激する良い香りが僕の鼻腔を掠める。どうやら食事中だったらしい。
「ほら、お前の分も用意したんだ。まあ食え、な?」
リビングの机の上には所狭しと料理が並べられている。二人どころか、数人でも食べきれるかどうかという量だった。
僕の分という割には、まるで僕がこの時間に来る事が分かっていたかのようにどの料理もまだ湯気が立ち昇っている。僕の性格などお見通しと言わんばかりだ。
「いらない……よ。そんな事より、誰もいないの?親は?」
ダイニングキッチンにリビングまで付いた二階建ての立派な一軒家、その中からは雄太以外の人の気配が感じ取れなかった。
「んーあぁ、知らないのか。まあいずれ話すけど、とりあえずはいないってことで。」
どうにも思わせぶりな言い方だったが、この場では納得しておいた。
「それに、要らないなんて言うなよなー。まあ良いじゃん。
腹減って無くてもさ、目の前に料理が並んだら食えるもんだろ?食えって。」
それは雄太の好意なのか判別し辛かったが、かと言って断り続けても雄太はずっと付きまとって来そうだったのでここは僕が折れた。
強引さに嫌味を感じさせない所も、また気に入らない。
「そうこなくっちゃ!」
結局、僕は少し口をつけただけで、後は信じられない食欲で雄太が残り全てを平らげた。
「なんだよ、そんだけで良いの?力出ないぞ。」なんて言うのは雄太が野球部の主将を務め上げるほどの体育会系人間だからであろうか。
「片付けるからさ、先に部屋に行っててくれよ。」
雄太はそう言いながら僕に部屋の場所を示し、自身は食器を抱えて台所の方へ引っ込んだ。
僕は言われた通りに雄太の部屋を訪れる。
一言で表現するのならば雑多という印象。床は畳で壁の一角に襖がある。高校生男子の部屋という割には片付いているようにも見えるが、部屋の隅には読み捨てられた漫画雑誌が積み上げられており、本棚の中には巻数が揃えられないまま漫画や小説などが適当に詰め込まれている。立派な勉強机があるが、その上にはデスクトップ式のパソコンが我が物顔で鎮座し、この部屋の真の主が誰なのかを主張しているかのようだ。
僕は本棚の中にある大衆小説を適当に一冊手に取り、勉強机のところにあった椅子に腰掛けて読み始めた。
「やーやーお待たせ。」
暫くして雄太が入って来る。
僕は椅子を譲ろうと立ち上がりかけるが雄太が手で制してきたのでそのまま座る。
雄太は畳の上にそのまま腰を下ろした。
「……」
「……」
暫くお互い無言。
僕は別に雄太と友達じゃない。今日初めて名前を知った仲。会話した覚えもないし、この先会話する事もないだろうとすら思っていた相手。
そんな相手と会話する術を僕は持っていない。
「哲也さ、お前嫌われてるよな。」
雄太はそんな言葉から語り始めた。
何が気に入らないかって、馴れ馴れしくも下の名前を呼び捨てられた事がまず気に入らない。いちいち指摘しないが。
「委員長にまで嫌われてる、ってか怖がられてるよなー。何したの?」
何もしていない。僕は何もしていない。
僕が誰かに何かをするなんて考えられない。
「別に、何も。」
正直に応えた。
「ほんとか?」
強いて言えば思い当たる節もあるが。
「多分。」
「多分って何だよ?何かあんのかよ。」
雄太はケラケラと笑いながらそう会話を続ける。
本題に入るための雑談、それ以上の意味はなさそうだ。
「別に、ただ……話す相手全員に対して、『殺してみようかな』とか『殺したらこいつはどう思うんだろう』とか考えてただけ……だよ。」
今も勿論、雄太に対してずっとそんな事を考え続けている。
「充分過ぎるだろ。そりゃ嫌われるわ。」
そう僕が考えている事を知ってか知らずか、雄太はその爽やかで軽快な笑みを崩さない。
ケラケラ笑うという表現がこうも似合うというのも珍しい。
「本気で殺したい、とか思ってんの?」
「まさか。」
思うだけ。考えるだけ。行動に移すだなんて想像するだけで吐き気がする。
「これでも平和主義なんだよ。」
「プッ、アーッハッハッハッハ!!冗談きついぜ!!」
僕の言葉を聞いて雄太は快活に笑う。何が面白いのか僕には全く分からないが。
「あー腹いて。でもまあそんなお前だから、俺は話しようと思ったんだけどな。」
それだ。こいつが僕に話しかける理由が分からない。
昼間にも思ったが、雄太には充分に信頼に足る親友の一人や二人いるだろう。
相談ならそいつらにすれば良い。悩みがあればそいつらに打ち明ければ良い。
全く何の関わりもない僕のような人間を態々家にまで招き入れて、こいつは一体どういうつもりなんだろうか。
「あのさ哲也。」
「……何?」
そこで雄太は一度言葉を溜める。勿体ぶっている。
何のつもりか知らないが、それは悪戯を仕掛けた子供のように楽しげな表情だった。
「人を殺してみないか?例えば、委員長とか。」
何となく、こいつがそんな事を言い出す様な気がしていた。
「馬鹿……なのか?人なんか、殺すわけ……ないだろ。」
僕はただ考えているだけ。
本当に人なんて殺すわけがない。殺したいなんて、考えてない。
「実はさ、俺、あの時の飛び降り自殺の現場にいたんだよ。」
唐突に脈絡もなく告げられた雄太のその言葉に僕は背筋が冷たくなる物を感じた。
そう、雄太の言う「あの時の飛び降り自殺の現場」は間違いなく僕がいたあの場所と同じ場所を示していたから。
「そこにさ――お前もいただろ?」
僕がその場所にいた事はどうでも良い。
多分僕の他にだって、いた奴はいる筈だ。
なのに雄太は、“僕が”現場にいた事を言及してくる。
その意味が、僕に分からない筈が、ない。
「あの場にいた人間の中で、お前だけさ――」
言うな……言わないでくれ……僕は、僕は……
「人が死んだ様子を見て笑ってたんだ。」
こいつを殺そう、と思った。殺さなければならないと思った。殺すことこそが義務に思えた。
言いふらされたって別に困らない。単に僕の性格が悪いと言うだけの話で終わるだろう。元々気持ち悪がられている――嫌われている僕にとってそんなもの痛手でも何でも無い。
なのに、それが僕という一己を形作る芯に触れているようで、酷く気味が悪くて、雄太を殺さないといけないと思った。
「だからさ、お前と話してみようと思ったんだ。」
僕が何を考えているかなんて興味が無いとばかりに雄太は話を続ける。
こいつは、たった今初めて僕が実際に人を殺す決意を固めた事にも興味は無いのだろうか。
「もう一回言うぞ。人を、殺してみないか?」
ああ殺すよ。どうなろうと知った事じゃない。
雄太は殺す。恨みも嫉みもないけれど、そうしなければいけないと僕の魂が叫ぶから、殺す。
「俺を殺すのも良いが、そいつはちょっとだけ待って欲しいな。」
無意識に僕の指は雄太の首元に伸びていた。
雄太は両手で防ぐように僕の腕を掴んでいたが力は入っていない。まだ話を聞いて欲しい、そういうジェスチャーとして受け取った。
「言って、みろよ。」
「ありがとよ。」
雄太は殺されなくて安心したというよりも、話を聞いてくれる事が嬉しいと言わんばかりに破顔する。
「俺は、まあクラスでは人気者だろ?」
自分で言いやがった。
「そういうキャラを演じてきた、ってまあ俺の本質的に向いてるキャラだから一概に演じたっていうのも変なんだが――兎に角演じてきたんだ。
俺が俺である人間像っていうかな、分かりやすく言うと。求められてる人間性?まあそんな感じ。」
確かにこの狭い一室で僕と喋っている雄太からは、クラスでのあの飄々としたお調子者の雰囲気は感じない。
真剣な話だからなのかと思っていたけれど、案外こちらが素なのだろうか。
「嫌気が差したとか言うと語弊があるんだが、何だか最近『俺はこうじゃねぇ』って思う事が増えたんだよ。
どいつもこいつも薄っぺらく思えてさ。思えてっつーか、実際に薄っぺらいつーか……
閉塞した日常っていうかさ、自殺したがってる人間と一緒に暮らしてる気分、うんそんな感じだ。」
その例えの意味は僕には全く分からなかったけれど、雄太は言い得て妙といった表情で納得している。
まあ僕にはどうでも良い。
「そんな時にさ、あの自殺の現場に出会って、なんか俺の中の何かまで一緒に死んだような気になったんだ。」
それは、分かる。僕にも分かる。
あの飛び降り自殺で僕の中の何かが死んだから、僕はここまで人を殺す事を考えるようになった。
「人が死ぬってスゲーことなんだって思った。
なんかこう、不謹慎かもだけどピシャってキレーでさ。血飛沫っていうのか?人の体ん中にはあんなにも血が詰まってんだなーって思えたよ。
人間なんて血液の入れ物でしかない、みたいな事を言った人がいるらしいけど、あの時ほどその言葉の意味が分かった時はなかったね!」
話しているうちに雄太は少しずつ興奮してきたようで、段々と語調が軽快になって行った。
「あの時は思わず気分も悪くなったけど、よく考えたらむしろ全然凄い事だって気付いたんだ!
だってそうだろ?人が死ぬんだ。生きていた人が死んだんだ。
それって実は凄い不思議な事なんじゃないかってあの時思えたんだ!」
僕も大概だと思うけれど、雄太もかなり頭のネジがトんでいる。率直にそう思った。
でも、そんな突飛な話にどこか共感している自分がいて、気付けば僕は雄太を殺してしまおうという気概が消えていた。
殺さなければならないという意志自体は消えてはいないのだが。
「もっと人が死ぬ様子を見たいと思った、なんて言ったら猟奇殺人犯みたいで――ってまあ猟奇殺人犯その物なんだけどさ。
人が死ぬって事を哲学的にじゃなくて、物理的に考えてみたくなったんだ。」
そんな事を平気で宣うこいつは疑いようもなく精神異常者だ。
どう考えても社会に適合できるような思考じゃない。
どうしてこんな奴が、お調子者として人気もあるクラスの中心人物になれるんだ?
「最初は自殺する事も考えたけど一回限りだろ?充分な検証が出来ないかも知れないし、そもそも死んだら検証できないよなって思って考え直した。
次に自殺してくれそうな人を探したんだけど、これまた上手く行かない。
じゃあもう殺すしかないって思ったんだけど、上手く殺さないと検証してる暇もなく捕まっちゃうし、捕まったら次の検証には入れない。
知ってるか?人を一人殺すには協力者がいないと絶対に上手く行かないんだぜ?」
知らなかったし、知ろうと思った事もなかった。
ここまで前向きに人を殺そうと思った事もない。
「そんな時にあの現場にお前がいた事を思い出したんだよ。
あの時はただ『気持ち悪い奴』なんて思ったお前をさ。
俺は分かっているんだぜ?」
ここまで来て、何が分かっているのか、なんて疑問を挟むまでもない。
僕は雄太の首筋に手を添えたまま、次の言葉を聞いた。
「そうだろう?哲也、お前も、人を殺したいって本気で考えていたんだろう?
人を殺せば、きっと自分を殺す理由が分かるって、死ぬ理由を検証したいんだろう?」
また僕は固まる。
「どうして、それを……」
生唾を飲み込んで、何とかそれだけを言葉にする。
「分かるさ。だってお前――
ずっと死にたそうな顔、してるじゃないか。」
殺したそうな顔、でなくて、死にたそうな顔。
言葉の意味はよく分からなかったのに、何故かその言葉は僕の中に抵抗なく入ってきた。
そして思う。
ああ、こいつが人気なのは、こうして人の心に優しく斬り込んで来るからなんだ、と。
「だから、一緒に人を殺さないか?」
その言葉に僕は押し黙る。
返事が出来なかった。
僕を僕としている何かが崩れそうで、とてもじゃないけれど即答できる物じゃなかった。
雄太も僕にすぐ返事を求める様な事はしなかった。
「まあ考えといてくれよ。」
そう言って、雄太は話を打ち切った。
僕の手は雄太の首元から……外された。
雄太は満足そうな笑顔を僕に向けていた。
気に入らなかったけれど、だからと言って僕にできる事は無かった。
☆
気付けば深夜とも言える時間。そんなに長い間話していた感覚は無いが、時間を忘れさせるほどに雄太が話上手だったと言う事なのかもしれない。
「良い時間だし泊って行けよ」という雄太を制して僕は家の外に出る。
雄太の様な人間と一晩を共にするなんて御免被る。
――人を殺す、か。
――いつも考えていたようで、考えた事もなかったな。
本気ではなかった。ただ殺したらどうなるだろう、と考えていただけ。
殺したらどうなるとか、殺すためにどうするとか、細かいことなんて一度も考えた事は無かった。
そんな僕に対して雄太は本気だった。
本気の本気で人を殺すために画策し、殺したらどうなるか、殺すためにどうするか、を考えていた。
僕より社交的で、僕より頭脳明晰で、僕より運動抜群で、僕より人望があって、僕より成功者で、僕より――本気だ。
――確かに、そんな話は信頼してる近い人ほどできないな。
――僕みたいな孤立してる人間の方が話しやすい、誘いやすいってわけか。
仮に僕が今日の話を一切合切暴露しても、僕みたいな人間の言う事は誰も信用しない――というか、そもそもそんな話をする相手が僕にはいない、という保険付き。
「全く、完璧だ。」
そんな風に嘆息して僕は家路に着いた。
正確にはもう僕の住まうアパートの入口の辺りまでは来ていた。
「何が……完璧なの?」
そこに一人の人間が立っていて、あろうことか僕に話しかけてきた。
日に三度以上話しかけられるなんて、僕の人生で初めての事だったかも知れない。
「こん……ばん、わ。」
絞り出すような声音で話しかけてきたのは、昼間僕に進路調査票を手渡した少女――クラスの委員長だった。
☆
僕は愛されない幼少年期を過ごした子供だった。
そもそも僕が生まれるずっと前から、両親間の仲は「何故まだ夫婦という関係が維持されているのか」というレベルであったと聞く。
そんな冗談のようでいて、冗談じゃない程決定的に仲違していた二人の男女の子供が僕で、実際に僕が生まれた事が引き金だったかのように二人は離婚した。
僕は母方に引き取られる事になったが、その母も随分と精神を病んでいたようで、未だ離乳もしていなかった僕に「死んでしまえば良い」と毎日のように呪詛を吐き続けていたのだという。
そのせいか僕が最初に発した言葉は「ママ」でも「飯」でもなく「死ね」だったと後で教えられたが、本当かどうか定かではない。
物心ついた頃から母と会話した記憶は無い。忘れているだけとか、ほんの少しはとか、そんなレベルでなく“無い”。
だから僕の育ての親は母方の祖父祖母という事になるのだが、その二人も母の様子に憔悴し切っていて、僕にまで気を回す余裕は無かったようだった。
事務的に幼稚園へ通わせ、小学校へ送り出され、中学校に押し込まれた。
そんな家庭で育った僕の性格は陰鬱で、友達と言える人間もいなくて、教師にも気味悪がられ、一切の味方がいない人生を送ってきた。それが普通だった。
中学生活も終わりに差し掛かり、かと言って働く自分なんて全く想像もできず、高校への進学が普通らしいということで、僕は祖父母に高校進学――実家から通う事の出来ない遠くの進学校、つまり、一人暮らしを――願い出た。
高校を卒業し、場合によっては大学を卒業した後、働いて得た金を祖父母に還元することを約束に了承された。
そうして僕は何者にも縛られない自由を手に入れた。祖父母との約束なんて守るつもりは毛頭ないのだけれど。
「お、邪魔……します。」
生きるために必要な最低限度の家具以外全てを排他した殺風景の部屋に彼女を招いた。
六畳一間の裸電球。トイレは共同。風呂は外のシャワーか銭湯。家賃は二万を下回る。そんな一室に、招いた。
人生は何が起こるか分からないが、まさか僕の様な餓鬼の部屋にクラスメイト女子を招く事があるとは思わなかった。思えなかった。
これでは一夜の間違いが起こらないとも限らない。ただでさえ、雄太の話を聞いた後なんだ――間違って、殺してしまうかも知れない。気をつけた方が良い。
「……」
「……」
雄太と過ごしたのとは種類の違う沈黙が訪れる。
どうも委員長は僕の事を嫌っていて、気味悪がっていて、そして怖がっているらしい。俯いたまま何も喋らない。
そもそもこの状況は何だろう。雄太と同じで僕は委員長の名前も知らないし、ろくな会話もした事が無い。
今朝、委員長にプリントを手渡されたのが初めてなような気もする。
それにしてもこれは偶然なんだろうか?
委員長は雄太との会話で殺してみる人間の例として挙げられた。雄太が個人的に委員長に恨みを持っているとも思えないが、雄太には委員長を殺害対象として選ぶ理由がある。
その雄太の家からの帰りに件の委員長が僕を訪ねてくる、だなんて、偶然で片付けられる問題なのだろうか。
「こんな時間に、何か……用?」
埒が明かないので仕方なく僕から水を向ける。
委員長はそれにすらビクッと竦んでいたが、何か応えなければとでも思ったのか顔を上げた。
「嘉定君と……話したい事が、あったから……」
相変わらず絞り出すような声音。それだけ言ってすぐに俯いてしまう。
しかし、そんなの事よりも「僕と話したい事」なんて、ね。
雄太といい委員長といい、僕みたいな餓鬼に何なのだろうか。
「嘉定君は私の名前、知ってる?」
「知らない。」
即答する。これは雄太と話したときと同じ。
「そう……だよね。私も嘉定君の名前、知らないし……
え、と……私の名前は白崎鈴菜……です。
あの、鈴菜って呼んで、ください。」
委員長……鈴菜の声は尻窄みだったが、名前は何とか聞き取れた。
「ふーん。」
僕は特に興味も無く適当に相槌を打つ。
なるほど鈴菜は美人だろう。短めに切り揃えられた黒髪は艶やかで、造形の整った容姿に奥ゆかしい態度。制服の上からでも分かるそのボディラインは豊満とまでは言わぬ物の視線を引き付ける程度には発達している――と、それが僕から見た鈴菜の外見の評価。餓鬼な僕の欲情を煽るし劣情も催す。僕は別に枯れ果てた老人という訳でもないのだから。
そんなクラスメイトの女子に下の名前で呼ぶ事を許されるとは光栄なのかも知れないが、僕にはその価値がどうにも分からない。せいぜい、僕がこの場で殺したら彼女はどう思うだろうかと感じる程度だ。
所詮餓鬼な僕に一端の恋愛感情を理解する心など無いのだろう。
「嘉定君の名前も……教えて欲しいな。」
鈴菜は控えめながら、そう僕に言った。
恥ずかしがっているのか分からないが、俯いて僕の方を見ないようにしながら。
「哲也。」
「え?」
聞き取れなかったらしい。
俯いたまま話をしようとするから、僕の話し始めるタイミングが分からなかったのだろう。
「だから、哲也。嘉定哲也。」
そんな失礼な態度に苛立った、という訳ではないけれど、自然と語気が強い言い方になった。案の定、鈴菜はビクッと肩を竦ませた。
どちらかと言えば、そんな怯えた様な鈴菜の態度の方が苛立つ。
「ご、ごめんな、さい。」
「いや別に。」
ふと思うが、彼女はクラスの友人と話している時、このような怯えた様な話し方をしていただろうか。
僕とは違い当然鈴菜には友人も多い。雄太程ではないのかも知れないが、気軽に話す事の出来る友達ならば何人もいるだろう。
その友人と会話している時、鈴菜は今の様な態度だっただろうか。
クラスの人間なんて碌に見てもいない僕の記憶には無いけれど、そうではなかったようなイメージならある。
「あ、ありがとう……哲也君」
何に対する感謝だったのか僕にはいまいち分からないけれど、そこで初めて見せた笑顔には好感が持てた。
「それで話したい事ってのは、結局何?」
雄太の小気味良い会話のリズムと違って、鈴菜はどうも自分から話を進めていくのが苦手らしい。
僕だって苦手だけれども、だからといってこのままではいつまで経っても鈴菜が態々僕を訪ねてきた理由が分からない。
分かる必要もないが、自分の領域と定めている場所に他人が侵入してきているという事は思いの外に不愉快で、だからこそさっさと要件と聞いて早急にお引き取り願う事にする。
「殺して欲しいの。」
その言葉の意味を理解するには時間がかかった。いや、意味は分かる。殺して欲しい――なるほど、“誰を”かは知らないが、『殺す』という言葉の意味は至ってシンプルだ。
だから、分からないのは意図。理由と言い換えても良い。
僕にそんな事を言う理由が分からない。
「私を、殺して。」
主語が付け加えられる。
それでも、その真意が僕には全く伝わらない。
「なん……で?」
僕の中には雄太の言葉がずっと犇めいていた。
雄太は何故「人を殺してみないか?例えば、委員長とか」なんて言ったのか。
まるで鈴菜が殺して欲しがっている事を知っていたみたいじゃないか。
「私も、あの、自殺の現場にいたんだよ?」
私“も”――か。
「哲也君も……いた、ね。」
鈴菜も僕の姿を見ている。
雄太がいた事は知っているのか。
雄太はどうだったのだろうか。もしかして、雄太も鈴菜がいた事には気付いていたのか。だから、あの場で鈴菜の事を例に挙げたのか。
「あれを見て、私も、もう死んじゃおっかなって、思ったの。」
人が死ぬ様子を見て、自分も死にたくなるなんて、分かりやすい自殺の理由なのかもしれない。
でも、それは僕が知りたい自分で自分を殺す理由とは、少し違う気がする。
「私は……」
僕の反応が芳しくないからか、そこから鈴菜はポツポツと自分の事を語り始めた。
概ねは、鈴菜はクラス内に求められる人間性を演じていたが、最近になってこれは違うと思い始めたのだ、という話。
脈絡も無く僕には理解できない悩みだったが、総括して鈴菜が人間関係に疲れたという事は分かった。
それは雄太に聞いた話と酷く似通った話で、僕には鈴菜と雄太がどこか似ているようにも思えた。
「私は、雄太君と付き合ってたんだよ?あの自殺の日まで。」
そして、その言葉で僕の中の何かが噛み合った気がした。
雄太と鈴菜の関係が偶然あの場に居合わせた僕という人間を挟んで複雑に絡み合っているように思えた。
似た者同士が交際関係を結んでいて、似た様な事を考えていて、同じ現場に遭遇し、同じく死について考察し、違う結論に――いや、広い意味では同じ結論に至ったという事。
片や他人を殺したくなり、片や自分を殺したくなった。それじゃあ、僕は……?
「あの日から雄太君は何だか変になっちゃって……そのまま別れ話を持ち掛けられて……」
鈴菜の言う事は支離滅裂で、意味不明だ。何が言いたいのか僕にはさっぱり分からない。
結局鈴菜はフられたことにショックを受けてただ自殺したいだけなのか。それとも何か別の理由があるのか。分からない。僕に鈴菜を殺させようとする理由がまったく分からない。
「何が言いたいのか、全く分からないよ。」
だから僕は正直に告げる。
「人が……死んでる様子を見て雄太君が変わっちゃったけど、私には全然その理由が分からないから。
死ぬって事がどんな事なのか、分かんないから。死んでみたら……何か分かるかも、って思って、それで……
だってもう、私には雄太君しかいなかったのに……」
鈴菜が自殺を望む理由なんて究極のところは僕にはどうでも良い。
――だから雄太は、例として鈴菜を挙げたのか……
何が「自殺してくれる人間が見つけられなかった」だ。いるじゃないか、ここに。
それとも雄太は本当に『自殺して欲しい』のではなくて、『人を殺したい』のだろうか。
「話は分かった、けど、それがどうして、僕に殺して欲しい……なんてことに、なるの?」
それが一番分からない。そんな理由なら、さっさとどこでなりと自殺すれば良い。
その死から、僕は人が自分を殺す理由を知る事はないのだろうけれど、だからと言ってそんなどうでも言い理由に僕が関わる言われは無い。
「自殺の現場で、哲也君、笑ってた……から。」
それは雄太と同じ言葉。僕の本質を言い当てる様な、脳髄の奥の奥まで沁み渡る、魔法の様な殺し文句。
「哲也君って笑うんだ、って思ったらなんだかね……哲也君になら、殺されても良いかな――って。」
雄太の様な心の奥底へ切り込んでくるような言葉ではない。しかし、雄太の言葉には無い心の奥深くまで響くような、そんな感覚が鈴菜の言葉にはあった。
だから僕は――
「分かったよ。殺せば、良いんだろ。」
僕のその言葉に鈴菜は光明を見たと言わんばかりに破顔する。何がそんなに嬉しいのか、僕には全く分からない。
「うん、私を――」
「違うね。雄太を、だ。」
「え?」
一つの確信。鈴菜という人間を形作る構成要素の一角。
結局鈴菜は雄太の事が――
「雄太への当てつけに自殺するだなんて、意味無いよ、そんなの。
それより、二人で雄太を殺そう。殺してしまおう。」
僕には十分に雄太を殺害するに足る動機がある。だからこの提案について問題は無い。
鈴菜は戸惑った顔をしているが、僕には鈴菜が断らない確信があった。
「鈴菜の手で雄太を殺してしまえばいいさ。
人を殺すって、結局自分を殺すのと大して変わらないだろう?」
「……」
最後の一言が決め手になったのかは分からない。
鈴菜は言葉を発さなかったが、数秒の逡巡の後、控え目に頷いたのだった。
所詮どんな御託を並べようと、鈴菜はただ雄太を恨みがましく思っているだけなのだろうと思えた。
☆
それからいくつかの言葉を交わした後、鈴菜は僕の家を後にした。
見送りまでするつもりもなく、鈴菜も特に見送りを求めたりしなかった。
僕の家を出る際に一度だけ僕に向かって微笑んでみせたが、それが家まで送って欲しいサインというわけでもないだろう。
鈴菜だって僕のような餓鬼が隣を歩くなど反吐が出るだろう。僕だったら反吐が出るし吐き気がする。気持ち悪い事この上ない。
――どうして僕は、こんなにも、無駄な事ばかり考えているんだろう。
多く話し過ぎたかららしくも無く感傷に浸っているだけ。そう思っておく事にした。
「だからここでは――」
翌日。それは結局いつもと変わり映えのしない日々。数秒後には記憶から削除されるであろう感動の無い無駄の連続。それらを積み重ねるだけの日常。雄太の言う閉塞した日常。
意味なんて、ない。
――だから、殺そう。
僕は密かにただ考えた。
☆
「どうだ?」
昼休憩。昼食時。前置きも何も無くいきなり雄太が僕にそう声を掛けてきた。迷惑だ。
「何、が?」
雄太の言わんとする所が本当に分からなくて、僕はただそう問い返す。
「何って事は無いだろう?昨日の件だよ。考えてくれたか?」
昨晩はまだ余裕があって暫く待つと言った風体だった雄太だが、何か心境の変化でもあったのか、やけに切羽詰まった様子で僕に詰め寄って来る。
いや、切羽詰まっているんじゃない。これは、楽しんでいる、楽しみにしている様子だ。まるで僕がもう結論を出していることを見抜いているかのように。
「さて、ね。何の事だか。」
僕はとりあえず曖昧にはぐらかす。
このいけ好かない男の思い通りというのがやけに気に入らない。
「意地が悪いなぁ哲也。」
そんな僕の行動は想定通りとばかりに雄太は購買で買ってきたであろうパンを机の上に広げ、そのまま前の席に身体だけをこちらに向けて座り込んだ。
――まさか、このまま僕と昼食を摂ろうと言うのか。何を考えているんだこの男。
「それで?決まったんだろ?詳しく聞かせろよ。」
雄太は僕の韜晦など始めから無かったかのように、広げたパン類に手をつけるでもなく僕に顔を寄せ、内緒話のトーンで僕に再び問い掛けて来る。
正直に言えば、殴ってしまいたい。が、僕如き非力な人間が拳を振りかざしても、雄太は笑顔を崩さずに受け止めるのだろう。そんな事には意味がない。
「そうだな。ああ、考えたよ。」
そして僕は決定的な一言を口にする。密かに、静かな声で。
「白崎鈴菜を――殺そう。」
☆
昨日と同刻。雄太は再び僕を自宅に招いた。昨日と同じように食事の香りが僕の鼻腔を擽る。
今回もどうやら食事を用意しているらしい。
「よ、来たな。まあ、とりあえず飯食えよ。」
歓迎もそこそこに雄太は僕をリビングに招き入れる。
昨日と同じように所狭しと料理の並ぶ豪勢な食卓となっていた。
その食卓に雄太は当り前のように僕を誘う。
「いらない、よ。昨日も言った……よな?」
理由もないけれど、僕はそれがどうにも気に入らなくて、今回も断る。
「昨日は言ったけど、今日は腹減ってるかも知れないだろ?
まあ良いじゃねーか。座れって。」
そう言って雄太は強引に僕を座らせる。本当に良い奴で、だから本当に気に入らない。
「そういや、俺に親がいないって話はしたっけか?」
豪快に料理を口の中へかき込みながら不意に雄太はそんな事を言い出す。
「いないって事しか聞いてない、かな。」
それも昨日の話。いずれ話すとだけ言っていたのは覚えている。
「うん……まあ良いか。」
雄太は厚く切られた肉を飲みこんでから、納得したように頷いてこちらを向く。その表情は真剣だった。
「鈴菜を殺すって、昨日何かあったのか?」
急な話題の変換。まるで昨日何かがあったことを確信しているかのようだ。
まるで脈絡がなかったが、もしかしたら雄太の中では繋がっているのかもしれない。
僕は昨日の事を正直に話す事にする。僕の様な餓鬼が正直にだなんて、とんだ欺瞞ではあるが。
「昨日、鈴菜が僕の家を訪ねてきた。」
「ああ、なるほど。」
雄太はそれだけで全てを理解したかのような顔をする。
それらが雄太の差し金であったかのようで、酷く気分が悪い。
「委員長はどうせ死にたいとか言ってたんだろ?それを叶える事にしたわけだ。」
正確にはそうではないけれど、雄太の言う事もそれほど的外れでも無い。
「クックック……それにしてもなぁ。」
やけに雄太はニヤニヤしている。それでも爽やかさを崩さないのは流石というべきだろうか。
「いやー委員長は絶対哲也好みだと思ってたぜ?
さすが俺だな。」
「邪推だ。」
しかも何が流石なのか全く分からない。
「それじゃ計画を練ろうか。」
雄太は僕がどんな経緯でそういう考えに至ったのかはどうでも良いらしい。
極論、雄太の殺人計画に僕が加担する事のみが雄太にとって重要なのだろう。
やはり、良くも悪くも人の心が分からない奴……雄太もひょっとして、僕と同じ餓鬼なのかも知れない――なんてそんな事を心中で呟いた。
――僕の中に心なんて、そんな大層な物がある筈もないのに。
☆
雄太の立てた計画は極めてシンプルな物だ。
「犯人を誰かに偽装するとか、自殺以外あり得ないシチュエーションを作るとか、意味ねーよな。
推理小説じゃないんだから事件自体が発覚しないのが一番だろ?」
とは雄太の談。僕もそう思う。
「とは言っても、事件が発覚しなくても人が一人失踪すればそれが既に事件だ。
警察だって動くし、どんな巧妙に隠したつもりでもどこかでバレる。そういうもんだ。」
最も、僕はその推理小説すら読んだ経験も碌に無いので、雄太の言う事が『そういう物』である事すらよく分からないのではあるが。
「となれば次善の策をとるしかない。
あえて発覚させ、それを俺達とは全く関係の無い誰かの犯した殺人に見せかける。もしくは、ただの自殺に見せかける。そのパターン。」
次善と言うよりは次悪だろうと、僕は雄太には聞こえないよう呟いた。
「まあどちらでも良いが、自殺に見せかける方が簡単だ。なんせ他に殺人犯を用意する必要がないからな。
幸いにして鈴菜は自殺志願者だ。自殺に見せかけるのは他の奴よりも簡単だろうさ。」
ここまでくると、本当に何から何まで雄太の差し金に思えて来る。
こうも全てが雄太にとって都合の良いように動くなんてありえるのだろうか。
――ありえているから、仕方がない、のか。
「簡単に言ってしまえば、寝ているところを吊るす。それだけ。殺人だし、自殺だ。
それでも、万が一何かしらの事態があった時、最終的にはこれを使う。」
雄太が自室の机から取り出したのは黒光りする金属の塊――まさしく、その異形は拳銃だった。
浅学な僕にはその拳銃の名前など分からないが、警察の持っている銃と似た様な形をしているように思えた。
「なんでこんなもん持ってんだ?って顔してるな。まあ、分かるぜ。日本で銃器を一般市民が持ってるなんざ余程ありえねぇなんて事は、今時小学生だって知ってる。
だけどさ、今時じゃなくても常に拳銃を持ち歩いている存在がいるだろ?日本にはさ。日本にはって言うか、大概の国はそうだろうけど。
手に入れた経緯は、そうだな――まあ後で聞かせるよ。」
僕にはそんな経緯などどうでも良いけれど、聞かせてくれるというなら聞くことにする。それを覚えておくかどうかはまた別の問題だけれども。
「というわけで、計画の始動は明日だ。明日俺達は、白崎玲奈を、殺すぜ。」
と、雄太は締めた。
――これで僕は人が自分を殺す理由を知ることが出来るのか……
「ああ、楽しみだ。
俺はついに死ぬって事を知る事が出来るんだな!」
雄太は大層興奮した様子でそんな事を宣ていた。
☆
「俺の親父はさ、警官だったんだ。」
その日、僕は雄太の家に泊まった。泊まる事にした。
雄太は大層嬉しそうな顔で部屋にある襖の中から布団を一式取り出して敷き、しかし雄太本人はその布団を使わず畳の上で雑魚寝し始めた。どうやら、布団は僕が使えということらしい。
「解雇されたっていうか、自分から辞めたって言うか、その中間って感じ。
公務員解雇されるとか、何やってんだよって感じだろ?」
夜も更け、明日に備えて睡眠をとるという段階になって、雄太は静かな口調で話し始めた。
「ある事件の捜査中だったか、何者かに拳銃を奪われたんだよ。まあ色々あってクビ。名目上は『責任を取って辞職』だったかな?笑っちまうよな。
で、親父はやさぐれて、酒に溺れて、お袋はそんな親父に絶望して離婚して、最後に親父は首吊って自殺。以上が俺の悲劇の家族崩壊の顛末ってわけだ。遺書もあるぜ?見る?あんま楽しいもんでもないけどさ。
あぁ、思えばあの時から俺って人の死に触れてみたいなんて思ってた様な気がするな。」
なんて、僕でも気が触れてるとしか思えない内容をなんとも楽しそうに雄太は語る。
「去年くらいだな。当時は結構な大ニュースになってたし、今も拳銃強奪犯は捕まってない、ってか足取りも掴めてないから捜査は続行中――って、今でも時々ニュースで言ったりしてるけど、知らないか?」
当然、僕は知らない。
家にテレビも無ければ、新聞も無い。見る気も起きない。誰ともコミュニティを形成していなかったから噂話すら耳にはしていない。もしかしたら、連絡事項として集会などで伝えられていたのかも知れないが、興味も無く聞き逃していた。そもそも集会に参加していた記憶も無い。
――となれば、僕が把握している道理も無い。
「まあ分かると思うけど、その犯人は俺。
普通身内なんて真っ先に疑われてさっさと捕まりそうなもんだけどな。
なんせ俺ってば当時は悲劇の子だったわけよ。まあ今もだけど。
自分で言うのもなんだが、俺って真面目勤勉品行方正を絵に描いたような人間だろ?そういうキャラを演じてきたから当然だよな。で、成績優秀で運動も抜群。野球部ではキャプテンを務め、人当たりも良い完璧超人。
――そんな俺が犯人だと、世間が疑うと思うか?疑われなかったんだよ。むしろ、理想とも言えるサクセスロードを歩いてきた俺に悲劇が訪れた、みたいにマスコミは面白おかしく仕立てあげてたし、可哀想な子扱いだったんだよね。
天才は得だな。ハッハッハ!」
そんな風に快活に笑う雄太は確かにイカれているのだろう。
どう考えてもそれは人間の感性じゃない。それは餓鬼の感性だ。
「ああそうだ。施設にも入れられそうになったぜ。なんか孤児とかが集まるとこ。適当に綺麗事言って、同じ生活を一人でも続けて行きたい、みたいなこと言ったら、よく知らないおっさんは涙流して援助を約束してくれたよ。笑っちまうだろ?」
僕は確信する。雄太も僕と同じ餓鬼なんだ、と。
人の心が分からない餓鬼。人の皮を被ることのできる餓鬼。でも、どこか決定的に、絶望的なまでに人間とは違う、だから餓鬼。
到底人とは、同じ価値観を共有できない。
「そんな世間的には可哀想な子、でも健気に頑張る天才少年である俺に粘着して捜査するなんて警察としても対面が悪い、とかだったのかな?知らねぇけど。
まあ兎に角、そういう訳で、俺は大して捜査もされずに見逃され、こうして手元には拳銃があると、そういうわけだ。」
最後に雄太は「どう思う?」と僕に問うた。
僕は少しだけ考えてから答える。
「どう考えても非現実的、だよ。まずもって、警察に調べられない状況ってのがありえない――作り話だろう?
あまりにも不確定要素が多過ぎる。それら全てをクリアするなんて偶然じゃあ片付かない。
未来が読める、とか、そうでなくても人の心が分かる、とかそんな力があったとして、あらゆる場面で完璧な行動を取り続けなきゃそうはならない。いや、普通の人は完璧な行動を取っていてもそうはならない筈、だ。」
僕には珍しい多弁さだ。喋り過ぎて喉が痛い。慣れない事はするものではない。
「クックック。なんでだろうな。哲也ならそう言うと思ったし、何より、そう思うと思ってたよ。」
雄太は意味深に笑ってそう言った。
まるで自分は人の心が分かるのだと言いたげに。
――人の心が分からない餓鬼のくせに
「でもさ、これ全部本当の事なんだよな。」
その言葉を最後に雄太は話すのをやめた。
その内に静かな寝息を立て始める。寝に入ったらしい。
「そうか、よ。」
本当でも嘘でも、僕にはどうでも良い。
ただ僕は、殺したいだけ。殺す理由が知りたいだけ。自分を殺す意義を確かめたいだけ。
――なら、便利な道具がある事は、僕にとって悪い事ではないのだろう。
やがて雄太が大きな鼾を掻き始めたのを横目に見ながら、僕も両目を閉じた。
当然ながら、僕は雄太の狸寝入りに気付いていなかったし、雄太はきっと僕の狸寝入りに気付いていただろう。だから、どうと言う事も無いのだけれど。
☆
鈴菜が帰宅する前、僕達は既に雄太を殺す計画を話し合っていた。
僕も鈴菜も長く話す事は苦手だけれども、この時だけは話すことが苦痛ではなかった。
それだけ僕も鈴菜も興奮していたのだろうか。
「雄太には鈴菜を殺すと伝える。だから僕と雄太は鈴菜を殺す、その為の計画も立てる。
そして、僕達は雄太を殺す。その為の計画を練る。
どちらが成功しても僕にとってはどうでも良いし、どちらが失敗しても僕にとっては悪くない。」
そしてそれは鈴菜にとっても悪くない結果となる筈。
鈴菜は自分が殺されても良いし、逆に雄太を殺しても良いのだから。
「そこで、雄太を殺すにあたって、何か有益な情報は、ある?」
あってもなくても、別に良いのだけれど。
「雄太君は、睡眠薬を飲まないと、夜眠れないの。正確には眠れるけれど、凄く魘される、んだよ。
去年くらいに、お父さんが亡くなってから、ずっとそうだって――言ってた。
私といる時も、寝るときはそうだったから、間違い、ない、よ。」
雄太は人の死を検証したいと言っていた。その発想が既に気が狂っているとしか言いようがないけれど、雄太が人は殺せば死ぬのかを確かめたいのは、案外『死』という物が大した物ではない事を確かめたいだけなのかも知れない、とこの時は思った。
「だったら、全ては明日の夜。深夜。雄太の家の雄太の部屋、きっとその時僕はそこにいる。
雄太が睡眠薬を服用してると言うなら、そう簡単には目を覚まさない、だろう。簡単に殺してしまえるさ。」
人を殺すのも自分を殺すのも、そんなものは大して変わらない。
結局のところ、人を殺す理由なんてものは相手の存在が自分にとって許せないからに他ならない。
相手がいなくなれば良いのなら、それは自分がいなくなっても同じ。
――それが、僕が鈴菜に自覚させた自殺したい理由だった。
だからこそ、鈴菜にとって自殺する事と雄太を殺す事は同意義であったし同価値であったのだろう。
所詮人の心の分からない餓鬼だが、同じ餓鬼の価値観ならば少しくらい把握もできる。理解しようとは、思えないけれど。
――ただ、この時僕は、人が自分を殺す理由に限りなく近付いていたように思えた。
☆
僕は両瞼を閉じながら鈴菜との会話を思い出していた。
雄太が玄関の鍵を閉じていなかったのは確認した。
恐らく、数分後には鈴菜がその扉を開けて家の中へ入って来るだろう。
果たして、雄太は今日僕との会話から就寝までの間に睡眠薬を服用していたか。無論、していなかった。
キィ――と、蝶番のずれる音がする。
鈴菜が、来た。
「哲也、君?」
不用心にもそのまま僕の名前を呼ぶ。
酷く不安気で、痛く悲観的で、甚だ不穏なそんな声音。今さらながら、全てを投げ出してしまいたい、とでも言いたげな恐怖の入り混じった声だった。
「ああ、起きてる。」
目を開けた。
既に闇に慣れた視界には鈴菜の姿が映し出される。
震える手に握られているのは包丁。雄太の台所から拝借したものだろうか。
ガタガタと震えているが、そんな動揺の中でも指紋を残す事に対する程度の配慮はあるのか鈴菜はビニルの手袋を嵌めていた。
後は簡単。その包丁を雄太の首筋にでも突き立てるだけ。それだけで簡単に終わる。
なんなら、雄太の持っていた拳銃を使ったって良い。その方が、より雄太の自殺として見せかける事も出来るだろう。
それらが上手く行かない事を、この時点で僕は分かっていたのだけれど。
「待ってたぜ。」
「え!?なん、で?」
雄太が体を起こした。
鈴菜は呼吸が止まるかと言う程に驚いた声を出した。
「何だよ哲也。反応がつまらねぇよ。もっと驚けよってなぁ、無理な相談か?」
これから殺されようとしていた。そんな事は分かっているだろうに、雄太は相も変わらず快活な口調で僕に声を掛けて来る。
「分かってたよ。」
僕はただ一言、そう返した。
「あーあ。やっぱり睡眠薬とか失敗だよな。
哲也って、飯食わねぇんだもん。」
意味が、分からない。
僕が雄太の作った飯を食わなかった事と睡眠薬とに何の因果関係がある、のか。
「意味分かんねぇって顔してんな。そりゃそうだろ。
なんせ、今日ここで俺はお前ら二人を殺すつもりだったんだからさ。」
まだ、分からない。分からない、と思っている。
「その顔は納得した顔だぜ?
言ったろ?俺は人は殺したら死ぬのかを確かめたい。
鈴菜を殺し、寝静まっていた哲也を殺して、最後に自分を殺して、俺は俺の目的を達成する。
悪くないだろ?」
雄太はずっと僕を殺す機会を窺っていた、ということか。
今朝も昨晩も、例の自殺の現場に遭遇した時から――ひょっとして、もっと前から。
「ま、哲也が鈴菜を殺してくれて、その感想を聞いてから哲也を殺すってパターンが一番理想だったけどな。贅沢は言ってらんねぇさ。」
雄太は、いつの間にかその手に握っていた拳銃を鈴菜に突き付けながらそう言った。
鈴菜は未だ衝撃から立ち直っていない。
「自殺、他殺、そして殺人。最後に、俺自身の自殺。人が死ぬパターンを四種類。
人が死ぬって事を、俺は十分に見る事が出来る筈だったんだけどな。」
そして雄太は撃鉄を起こす。カチリ――と、明確な音が僕の耳に残る。
「俺が二回殺しても大して変わりゃしないだろ。」
そして雄太が引き金を引く、その刹那――
「う、わ、ああああぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!!」
「鈴菜っ!」
鈴菜が、その性格からは考えられないような叫び声を喚き散らしながら、唐突に包丁を振り被り雄太に襲い掛かって行った。
鈴菜がこの状況で何を思ってそんな暴挙に出たのかは分からないけれど、しかしそれは確かな生き延びるチャンスと言えた。
――生き延びるチャンス……だって?
急峻に湧き上がってくる違和感。それは餓鬼な僕にとって見過ごせない物だった。
まるで世界が止まったようにも感じる。包丁を振りかぶる鈴菜がやけにスローモーションに見えて滑稽だ。雄太はまるで予定調和と言った表情で悠々と鈴菜に照準を合わせている。
僕は――僕みたいな餓鬼だって――死にたくない。生きていたい。だから、人が自分を殺す理由を知りたい。そんな意味の無い行動をする理由が知りたかった。でも、僕は一瞬思ってしまった。
――人が人を殺す理由も、同じくらい滑稽で無意味な行動じゃないのか?、と。
人を殺した程度で、自分を殺す理由が得られるのか。
人に殺された方が、自分を殺す理由も分かるのではないか。
僕は雄太に殺された方が良かった、のかも知れない。
――僕は本当に生きていたかったのか……
考えても分からない。分からないから考えない。
「私は雄太貴君のこと、本当に好きだったよ。
――死にたいくらい。」
「俺はずっとお前のこと、殺したいと思ってたんだ。
――まあでも、好きだったんじゃねぇの?やっぱり殺したいくらい、さ。」
誰も言葉を発していないのに、そんなやり取りが聞こえた気がした。
――かくて凶刃は振り降ろされる。
――かくて凶弾は撃ち出される。
☆
貫くような快晴。雲影は一つもない。
あの日から数年が経とうとも、何も変わりはしない。
「ほら哲也。こっちだぜ。早く来いよ。待ってんだからさ。」
「哲也、君。こっち、だよ?ほら、早く。」
あの後、どうなったのかよく覚えていない。
あの時僕は何を得たのか――或いは、何を失ったのか、曖昧としていて漠然としていて、全ては無意味だったようでもあり有意義だったようでもあった。
「ああ、そうだ、な。すぐ――行くよ。」
僕はずっと渦中にいた様で、蚊帳の外にいた様で、僕の知りたかった事は何もかも雄太にはお見通しだったのだろう。或いは、鈴菜にすらも。
全ての答えは最初からそこにあって、雄太も鈴菜も、だから僕に関わってきた。
――僕はずっと死んでしまいたかった。
ただひたすらに忘却を重ね、意識を食い潰し、時が流れるのを待つ作業。例えるなら死者の所業。
雄太の言う閉塞した日常に埋没する自分の存在を消し去ってしまいたかった。或いは、他の全てを消し飛ばしてしまいたかった。
だから殺したかった。
人を殺すのも、自分を殺すのも結局のところ変わりない。
他者の存在が気に食わないならば、他者を消す、又は、自分が消える――それしか選択肢は無いのだから。
「最初から俺は言っただろ?『死にたそうな顔してる』ってさ。自覚しないもんだから、最初は呆れたもんだったぜ。」
その通り過ぎて本当に呆れる。全く救いの無い話だ。
「考える事はそれで全部か?自分を殺す理由も分かって万々歳ってとこじゃね?」
そう急かさなくても、もう全て終わり。
これで僕も――
☆
それは貫くような快晴の中での出来事
「おい!飛び降りるぞっ!」
視界に蔓延る悲鳴の様なノイズに混じって、その言葉は周囲に響き渡った
「あっ……」
そこにいた全ての人間が息を呑んだ
――グシャ
と、そんな滑稽にも聞こえる音が、耳に残る
血飛沫
数瞬遅れて、周囲から湧き上がる絶叫の嵐
そんな惨憺たる景色の中、彼――嘉定哲也の口元は
誰が
どう見ても
微笑んでいるようにしか見えなかった
死に心を望んだ心無い餓鬼が
ただ死ぬだけの
それが終わり
或いは、また始まり
人間誰しも一度くらい誰かを殺したいだとか、自殺してしまいたいだとか考えるものだと思います。実際にそれが行動に移される事は少ないわけですが、何故かと言ったら、それは行動する事によるリスクや個人の倫理観などが邪魔をするわけですね。
普通の人にとっては殺人も自殺も基本的には馬鹿げた行動であるわけで、どんな理由があろうと大抵の場合はそんな行動を取る人間は頭の悪い人間か精神異常者だと世間からは烙印を押されます。
この作品にはそんな精神異常者しか登場しません。彼らは自分自身の価値観を持って自分の行動を正しいとしか思っていませんが、どうか貴方自身の正しい価値観を持ってして「それは違う」と思いながら読んでいただければ幸いと存じます。
この作品に何度か登場する『餓鬼』という言葉はこの作品の中では『普通の人とは価値観を絶対に共有できない人間』という意味です。
『餓鬼』をそんな風に置き換えて読んでみたら、また違った雰囲気があるかも知れませんね。
今回はオチを明言せず、どんな展開かどうとでも解釈できるといった手法を取ってみました。決して、オチを考えるのがめんどかったとかそんな理由ではありません。本当です信じてください(ぉぃ
ここのシーンの意味はこうなんじゃないかとか、考えていただけたら嬉しいです
今回はテーマ短編として『心の読める一人ぼっちの男子高校生』をテーマに作品を作らせていただきました。
テーマを頂いたフォロワーさん(名前は伏せさせていただきます)にはこの場で感謝申し上げます。ありがとうございました。そして、テーマを貰ってから作品を完成させるまで時間を掛け過ぎて申し訳ありません。
中途色々とありまして初期のテーマからはかなりかけ離れた作品となりましたがご愛嬌と言うことで←
感想、評価、アドバイス、誤字脱字の報告などあれば是非よろしくお願いいたします。一言でも残していただければ非常に嬉しいです。ツイッターの方でも受け付けておりますのでそちらもどうぞ→ツイッターID:yanagi8270
それでは、ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。忙しくて投稿も滞り気味ですが小説は書いていこうと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします