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第5話 番組再開


「パチパチパチパチ!!」


 長いCMが終わり、はちきれんばかりの拍手によって番組は再開された。


「……みなさん、大変長らくお待たせして申し訳ありません。そして、番組再開早々恐縮ですが、残念なお知らせがあります。本日のびっくり人間であるマサシくんは、スプーン曲げに失敗してしまいました」


 観客席がどよめきだした。中にはマサシ少年のことを睨みつける観客もいた。しかし、酒飲吐苦二郎そんなこと意に介さずトークを続けた。


「マサシくんは、「今日は調子が悪い」と言っています。しかし、それはもはや言い訳にしか聞こえません。そうです、マサシくんは超能力者を語った嘘つき……」


「ここか!! 超能力者がいるスタジオはここなのか!!」


 酒飲吐苦二郎のトークをさえぎる大きな声と共に、一人のコックがスタジオに走りこんできた。


「おい! 今撮影中だ! 出てけこのタコスケ!」


 すかさずディレクターの一人がコックを追い出そうとした。


「ちょっとお待ちなさい! ……あなた、その手に持っているスプーン、どうしたのですか?」


 観客全員の視線がコックの両手に集中する。コックの両手には、10数本の曲がったスプーンが握られていた。


「お、お、おまえの仕業か! どうしてくれんだよ! これも、これも、これも! ぜ、全部、曲がっちまったじゃねーか!」


 ちょび髭を生やしたコックは酷く動揺した様子で、マサシ少年に向かって叫んだ。その目は怯えていて、超能力という得たいの知れない力に対して畏怖していた。


「ちょっと落ち着いてください。少し冷静になって。そのスプーンはどうしたんですか? ちゃんと説明してください」


 酒飲吐苦二郎は冷静な口調でコックをなだめた。酒飲吐苦二郎の冷気を感じるほどの冷静さにより、コックは自分が酷く興奮していることを相対的に意識した。そして、少し落ち着いた様子で状況を説明し始めた。


「……ちょうど5分くらい前に、急に、突然、スプーンが……スプーンが曲がったんだ。全部だよ、全部。もう、ほんとビックリして、怖くて、どうしたらいいかわからなくなって、それで……今日はスプーンを曲げることのできる超能力者が来るって話を聞いていたから、どうにかこの超常現象の原因を突き止めて、恐怖心を払拭したくて……」


 コックの言葉は途切れ途切れでわかりにくかった。それでも、“スプーンが曲がった”という事実だけは、観客や視聴者の心に深く突き刺ささった。そして、まるでスープをスプーンでかき混ぜるように、人々の心を淀ませた。


“本当に超能力の力でスプーンは曲がったのか?”

“手の込んだやらせではないだろうか?”


 いろんな憶測が人々の心を支配した。


「これはもしかして、マサシくん、君の超能力ですか?」


 酒飲吐苦二郎の問いかけに、マサシ少年は無言でうなずいた。


「みなさん、これはやはり超能力です! マサシくんはほんとうに超能力者だったのです!!」


 酒飲吐苦二郎は、今度はかなりのオーバーアクションと大声でマサシ少年がまごうことなき超能力者であると主張した。根拠などどこにもないことは皆重々承知だが、酒飲吐苦二郎のオーバーな言動によって、「もしかして、本当に超能力なのか?」と多くの人が思い始めた。そんなとき、観客席の後ろの方に座っていた一人の中年男性が急に立ち上がり、声を上げた。


「嘘だ! そんなのやらせに決まっている! 5分くらいずっとCMだったんだ。その間に仕込んだんだろ? そこのコックだってこのテレビ局の人間だ。つまりグルってことだ! なぁ、みんなもそう思うだろ?」


 一目も気にせず声を荒げる男性『暮伊無言蔵くれいむいうぞう』は今年で40歳。低身長、低収入、低学歴、と3拍子そろったコンプレックスの塊人間である。当然、独身である。そんな彼の生きがいといえば、わずかな賃金を使って行う賭け事。それと、人にクレームを言うことくらいしかない。そんな寂しい男暮伊無言蔵くれいむいうぞうは、マサシ少年という絶好のカモを見つけて生き生きしていた。


「た、確かにそうかもしれない……」

「そうだそうだ! やらせだろ!」


 暮伊無言蔵の言葉に数人の観客が便乗し始めた。この状況に「シメタ!」と思った暮伊無言蔵はすかさず観客席から降りて、スタジオ中央のカメラの前へ向かった。そして、酒飲吐苦二郎に負けず劣らずのオーバーリアクションでクレームをいい始めた。


「おい! この嘘つき野朗! お前は国民の皆様に嘘をついた最低野朗なんだ。ちゃんと謝れ! ほら! はやく頭を下げろよこの野朗!」

 

“みんな、俺は正論を言っている賢人だ。俺はお前らの代弁をしてやっているんだぞ。ありがたく思えよ”


 そんな自己陶酔の感情に完全に支配された暮伊無言蔵は、品の欠片もない感じられない態度でマサシ少年を罵倒し、謝罪を強要した。しかし、マサシ少年は一向に謝ろうとはせず、むしろ敵意むき出しで暮伊無言蔵のことを睨んでいた。


「あぁ? なんだよその反抗的な目は! こんなスプーン一つ曲げられないくせに! いきがってんじゃねーよ!!」


 自分の思い通りにならない現状に怒りをあらわにした暮伊無言蔵は、近くにあった純銀製のスプーンを手に取り、マサシ少年の目の前に突きつけた。


「ボボンポパレ」


 マサシ少年がポツリと呟いた瞬間、純銀製のスプーンはひとりでに曲がりだし、キレイにお辞儀をした。


「ひ、ひぃいいいいいいいいい!!!」


 暮伊無言蔵は驚きのあまり手に持っていたスプーンを投げ出し、頭を抱えてアホみたいに叫びだした。…………というところで、『びっくり人間ドン☆ドドン』の放送時間は終了し、お茶の間のテレビには次の番組である、『水着でお届け! アイドル天気予報』が映し出された。


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