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第4話 簡単に書類にサインをしてはいけません

 

 暗いスタジオ裏。そこは、いろんな小道具や機器が乱雑に置かれていて、秩序を保たなくても良いという間違った常識が支配している空間。恐らく、幽霊の一人や二人潜んでいるのだろう。そう思えるほど陰湿な空気が漂っていた。そんなスタジオ裏に今いるのは、マサシ少年と酒飲吐苦二郎の二人だけ。


「時間がない。用件だけ手短に話すから、お前はYESかNOですぐに答えをだせ。いいな?」


 酒飲吐苦二郎は壁の隅にマサシ少年を押しやり、マサシ少年の目を睨みつけながら話を始めた。そんな、威圧的な酒飲吐苦二郎の態度にマサシ少年はただ頷くことしかできなかった。


「お前の超能力を邪魔したのは、俺だ。俺も超能力者なんだよ。まぁ、実際にお前のスプーン曲げを邪魔した能力者は観覧席にいる別のヤツなんだがな」


 マサシ少年は自分以外にも超能力者がいることに驚いた。


「お前は悪の超能力集団『へそ曲がり』を知っているか? 俺はそこの組員の一人なんだが」


 『へそ曲がり』という言葉を聞いてマサシ少年はさらに驚いた。『へそ曲がり』といえば、最近ニュースを騒がせている悪党集団である。『へそ曲がり』は小さなイタズラから強盗のような重犯罪まで、いろんな問題を起しており、世間一般には人々の反応を楽しんでいる愉快犯の集団であるという認識をもたれている。


「話は簡単だ。お前も『へそ曲がり』に入れ!」


 冷静さを失っているマサシ少年にも、『へそ曲がり』に入るということの重大さは理解できていた。犯罪組織に入るということは、真っ当な人間であればそれは良くないと考えるのは当然のことである。しかし、マサシ少年は良くも悪くもまだ何色にも染まっていない少年だ。多少は“悪”に心惹かれてしまうのも無理はない。いや、それ以前に何が悪で何が善かの判断すら付かないほど世界を知らないのだ。そんな、マサシ少年が下した決断は……


「嫌です。ママンに怒られます」


 マサシ少年は重度のマザーコンプレックスであった。善とか悪とかそんな小難しいことではなく、「ママンのために」とか「何となく有名になりたい」なんていう単純なことがマサシ少年の行動理由であった。複雑怪奇な思考を求められる大人には理解できないかもしれないが、世間知らずの少年の行動理由など、そんなもんである。


「断る気か? それも良いだろう。でもな、お前はこのままだと“嘘つき超能力少年”と言われて、世間から酷い扱いを受けることになるだろう。もし、お前が『へそ曲がり』に入ると考えを改めるのなら、俺がこの現状をどうにかしてやってもいい。どうだ? このままだと、お前の愛しいママンも悲しむと思うんだがなぁ……」


 威圧的な態度から一変、酒飲吐苦二郎は柔らかくゆっくりとした口調で、まるでさとす様にマサシ少年を説得し始めた。先ほどまでは緊張や酒飲吐苦二郎の威圧的な態度によって冷静な判断のできなかったマサシ少年だが、この酒飲吐苦二郎のみごとなチェンジオブペースにより、“考える余裕”ができてしまった。


「うーん、確かに言われてみれば……」


 多少の冷静さを取り戻した今、酒飲吐苦二郎の提案が理論的に思えてきたマサシ少年はそんな言葉を呟いた。そして、その呟きを聞いた酒飲吐苦二郎は「待ってました!」と言わんばかりに少し早口でマサシ少年の決断を後押しする言葉を発した。


「だろう? 悪いようにはしないから、なぁにお前はまだ少年だから難しい任務とか重犯罪に繋がるような危ないことはさせないよ。それに、普段は学校もあるだろうから、暇なときに『へそ曲がり』の活動に参加してくれればいいんだ。ほら、それに案外楽しいもんだぞ~。その超能力を使って、人生楽しく生きようぜ! 俺達『へそ曲がり』のモットーは『好き勝手に楽しく生きる』だからな!」


「…………そうですよね。わかりました。僕、『へそ曲がり』に入ります!」


 数秒の沈黙後、マサシ少年はついに『へそ曲がり』に入団する決意をした。


「よし! よく決断してくれた。今日からお前は俺達の仲間だ。俺は他人には厳しいが、仲間は別だ。これからよろしくな」


 酒飲吐苦二郎は先ほどまでの威圧的な態度からとてもフレンドリーな態度に豹変した。口調もかなりマイルドで打ち解けた感じに変わった。


「それで、スプーン曲げに失敗しちゃったのをどうにかしてくれるということでしたけど……」


「その前に、この書類にサインを書いてくれ」


 酒飲吐苦二郎は明らかに怪しい書類を一枚差し出してきた。


「これは……?」


 世間知らずのマサシ少年でも、その書類の怪しさを直感的に理解できた。


「なぁに、入団に必要なただのペーパーだよ。詳しいことは後で説明するから。ほら早くしないと番組の収集が付かなくなるぞ。急げ!」


“マサシちゃん、簡単に怪しい書類にサインをしてはいけませんよ“


 このとき、生きていくうえで大切なママンとの10の約束、いわゆる『ママン十ヶ条』の一つをマサシ少年は思い出していた。


「ほらほら! 早くしろ!」


 しかし、酒飲吐苦二郎に急かされたこともあり、マサシ少年はついに書類にサインをしてしまった。


“ママンごめん、『ママン十ヶ条』を破ってしまいました。有名になって必ずママンを喜ばせてあげるから、どうかダメな僕チンを許してください”


 マサシ少年はそんなことを考えながら、酒飲吐苦二郎にサインをした書類を差し出した。


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