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第16話 歯車

その日の夜・・・


私は眠れず城内の庭にたたずんでいた。

ガルフと特殊訓練を受けているであろう二人の侍女が毎夜訪れる場所・・・


それはシェリー様が閉じ込められている場所に他ならない。

それを思うと私の気ははやるばかりだった。


しかし失敗は許されない。もしも私の真の目的がジュヌーンの知るところとなった場合、シェリー様の命はそこで容赦なく奪われるだろう。

ジュヌーンの信頼を得つつある今、下手な動きは見せられないのがもどかしかった。


と・・・その時私はすぐそばに気配を感じ、とっさに飛びすさった。

私が感じたものは間違いなく殺気だった。


そこには15歳ほどの少女が立っていた。気配を全く私に気取られることなく私のすくそばに降り立ったこの少女に私は正直驚いた。

「ジュヌーン様がお呼びです」

「・・・・・」


少女はぼそりとそう言うと私の先に立って歩き始めた。まるで感情のないうつろな人形のような目・・・

しかしそれでいてその立ち位置、視線の配り方・・・間違いなく特殊な訓練を受けている・・・


「あなた名前は?」

私は試みに少女に問いかけてみた。

「リン・・・」

「・・・・・」


なるほど・・・確かにこの少女がシェリー様の元を訪れているとしたら気取られずに後をつけるのはかなり難しいだろう・・・


リンの案内で訪れたのはジュヌーンの屋敷だった。一瞬入るのがためらわれたが、ここで私と話をしようとしているのは何か状況に進展があったからだろう。

屋敷の応接間でジュヌーンは私を待っていた。


「来たか・・・」

「何の用?」

「まぁそう言うな・・・座れ・・」


やむを得ず私はジュヌーンの正面に腰を下ろした。その後にリンが音もなく移動するのを感じる。

「気にするな。俺の護衛だ・・・」

「・・・・腕がかなり立つようね。わかるわ・・」

「ふん・・・俺の諜報部隊でも一二を争う腕だからな・・・」


ジュヌーンはにやりと笑った。

「で・・・?」

「これを見ろ。妙な事が起こった」


ジュヌーンが私の前に投げ出したのは、ジュヌーンの辺境守備軍からの報告書だった。

「赤鳳師団がとまった?」

「そうだ・・・やつらは王都郊外で進軍をとめた・・」


ジュヌーンの目がじっと私に注がれるのを感じた。

「まるで何かを待っているかのように・・・」

「・・・・・」

私はゆっくりと目線をジュヌーンのそれに合わせた。

「何が言いたいの?」

「お前・・・何を企んでいる?」

「質問の意味がわからないわ」


私の背筋に冷たい汗が流れた。

「何故ここにきてやつらは進軍をとめた?お前と何かを示し合わせているとしか思えん・・・」

ジュヌーンの目に残忍な光が宿る。

「俺を裏切ったりしてみろ?殺してやるぞ?」

「・・・・・・」


私は声をあげて笑った。これはかけだった。ここでジュヌーンを信じさせられなければ計画はすべて失敗する。

「何がおかしい!」

ジュヌーンは立ち上がり剣に手をかけた。

「何が?おかしいに決まってるでしょう?」

私はジュヌーンを見据えて言葉を続けた。

「あらかたガルフからの讒言でしょう?あいつが言いそうなことだわ・・・」

「・・・・」


ジュヌーンの沈黙はすなわち肯定を意味した。

「赤鳳師団だって馬鹿じゃない。王都をごり押しに囲んだところですぐには落ちないのは百も承知してるわ。それに攻城に時間をかけると彼らにとって不利なんだからね・・・」

私は背負っていた長剣をジュヌーンの前において見せた。

「彼らは持久戦に持ち込みたいのよ。今赤鳳師団が待機しているのは海上封鎖を待ってるだけよ?そんなこともわからないで私を斬ろうというのならやりなさい?」

「・・・・・」

「ただはっきりと言っておくわ?今あなたの力になれるのはガルフじゃなく私よ?その私をあなたに殺させようとたくらんでるガルフは果たして信頼に値するかしら・・・?」


私のこの言葉はジュヌーンの追い詰められた心に毒を注ぎ込むには十分だった。

「気を付けたほうがいいわよ?私は唯一ハイランド軍を撃退したのよ?いわば私はみんなにとってハイランドと戦う唯一の希望って事。私が死ねばみんなあなたを見限るわ。そんな私を殺そうとしている男を側近にしていると寝首をかかれるわ。」

私はジュヌーンに笑みを浮かべて見せた。

「ちょうど誰かさんがやったみたく・・・・ね?」


そういうと私は長剣を拾い上げジュヌーンの屋敷を後にした・・・



うまくいった・・・

私はほっとため息をついた。私の疑惑をそらせただけでなく、ジュヌーンの中にガルフに対する大きな不信と疑惑を植えつける事に成功した。

反乱を起こして長になった者が一番恐れるもの・・・それは下からの反乱である。

きっとジュヌーンはガルフを殺すだろう・・・・そうするとジュヌーンはシェリー様を自分が管理するためにより近くに移すはず。

その時がチャンスだ・・・


「!!」

突然耳元をしゅっという鋭い風切音がかすめた。

とっさに体をひねり飛んでくる短剣をかわした。この気配・・・・リンだ!

闇の中から音もなくリンが飛び出してきた。その手には抜き放たれた暗殺者特有の抜き身の短刀が握られている。

「ち・・!」


私は長剣を抜き打ちにリンめがけて走らせたが彼女はふわりと身をかわし後方に着地した。

「何のまね・・?」

「・・・・・」

リンのうつろな目は何も答えない。

「ジュヌーンが私を殺すように命じたの??違うわよね・・・」

私は長剣を構えなおした。暗殺者の剣は私たちのような将の剣とは違う。百戦錬磨の武将が敢え無く暗殺者の手にかかる事は決してめずらしいことではない。

「お前・・嘘をついてる・・・」

リンがうつろな声を発した。

「お前・・・今安心してた・・・嘘をついてる・・・」

「・・・・・」


生かしてはおけない。私は長剣を構え今度は攻勢に出た。

突進する私めがけてリンが両手を大きく打ち振った。うなりをあげて私の顔面めがけて飛んできたそれを私は長剣ではじきかえした。

鉄鎖!?


一瞬ひるんだ私の足にリンのもう片方の手から伸びた鎖が絡み付き私を引きずり倒した。

「!!」

仰向けに倒れた私が見たものはすでに短刀を振りかぶって跳躍しているリンの姿だった。


殺られる!!


自分の敗北を悟り私は思わず目を閉じた。

が・・次の瞬間横合いから飛び出してきた影がリンを跳ね飛ばした。


ゴキ・・という嫌な音を立てリンは地面に倒れ込んだ。

「・・・・!」


リンの腰骨を蹴り砕いたその影は身動きができずもがいているリンの側に歩み寄った。

「お・・まえ・・」

リンの言葉は最後まで続かなかった。


絶命と共にリンは剣で胸をさしつらぬかれ息絶えた。


体を起こした私は注意深くその影を見やった。私を助けたところを見ると敵ではないらしいが・・・

月明かりに照らされたその影は女性だった。


その女性はリンの死体を軽々と背負い立ち上がった。

「ちょっと待って・・!」

歩き始めたその影を私は慌てて呼びとめた。

「あなたは・・・・」

「お気をつけ下さい・・・愚か者は弁舌でだませても暗殺者は心を読みますゆえ・・・」

女性はそれだけ言うとリンの死体と共に夜の闇に消えていった。



ジュヌーンが作り出した王都の闇・・・

その闇の中で動いているのはどうやら私だけではないようだ・・・


狂った歯車の回転はもはや私自身の運命をも狂わせていくのかもしれない・・・


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