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第14話 死戦

車軸を覆すような雨・・・東方の国でそういう形容があると聞いたことがある・・・まさにそんな豪雨だった。

豪雨は一気に私たちが作り上げた炎の壁を消し去った。

「まずい・・・」

私は剣をうちふり兵たちに密集隊形をとらせた。

ハイランド軍にみるみるうちに指揮系統が戻っていくのがわかる。そして再び『悪魔の嘲笑』が雨で暗くなった空に響いた。ハイランド軍の突撃だ・・・


「クラン様!」

一人の伝令兵が私の前にひざまづいた。

「ジャック様からの口上!ここはわが部隊がひきうけるゆえ王都までひかれよとのこと!」

「!!」


見るとジャックの部隊が突撃陣形を取りハイランド軍を迎え撃とうとしているのがわかる。

「だめ・・・駄目よ!!」

私は叫んだ。もう誰も死なせない・・・!!


「王都まで撤退する!レイチェル隊に伝令を・・・」

私は副官をみやっていった。退却の指揮はレイチェルに任せられる。あとはジャックの部隊を無事に撤退させられれば・・・


副官にレイチェル隊に合流するように命じると私はジャックの部隊にむかって馬を走らせた。


「大将!何で来た!」

ジャックが馬を乗り入れてきた私を見て吼えた。彼の体はすでにハイランド兵の返り血で真っ赤に染まっている。

すでに交戦は始まっており、ハイランド兵の突撃を懸命にジャックの部隊が防いでいる。


「あなたを死なせるわけにはいかない!」


私は長剣を抜き放った。

<・・・シェリー様・・・お許しを・・・>

私は撤退がほぼ不可能であることを悟った。すべてが狂ってしまった。普段の生活では気にもとめないただの大雨で・・・


「大将!」

ジャックの声で我に返った私は、自分の首めがけて繰り出された斬撃を紙一重でかわした。

「ち・・・!」

私はつづけさまに打ち込まれてくる斬撃を避け、いっきに馬を後退させた。

そして剣を握りなおすと、攻勢に出た。ハイランド騎兵の剣を音高くはじきとばし、私はハイランド騎兵の肩から袈裟懸けに斬りつけた。

ハイランド兵の絶命とともに血飛沫が私の頬を赤く染める。

「・・・・!」

手ごたえが浅い・・・これがヤールの鎧の守備力か・・・

私の横ではジャックが怪力に任せ、馬ごとハイランド兵を戦斧でなぎ倒している。まさに豪勇という言葉がふさわしいジャックの活躍で、ハイランド兵の突撃の速度が一瞬ゆるむ。


でも・・・退却できない!一瞬でも隙を見せたら全滅する!

私の体を絶望がわしづかみにする。


その時私の前に先鋒部隊の大将らしき将が馬を躍らせた。兜をかぶらず素顔を雨にさらしたその将は私とほとんど変わらない年の青年だった。


そうだ・・・敵将を討ち取れば混乱に乗じて退却できるかもしれない・・・

「私はクラン!ハイランド軍の主将ね!?」

私は長剣を一振りし身構えた。

「君が有名なクランか・・・僕はルイ・・」

青年はおよそ戦場に似つかわしくないさわやかな笑顔を浮かべた。

「一騎打ちかい?僕は構わないけど君・・・」

次の瞬間さわやかな青年の全身から信じられないくらいの殺気が私にふきつけた。

「死ぬよ??」


「・・・・!!」

青年の剣がすさまじい速さで私を襲った。私はその斬撃を跳ね返したが,手のしびれで剣を取り落としそうになった。

「くっ!」

目で追いきれないほどの速さで打ち込まれてくる剣を私は懸命に防いだ。この青年の細い体からジャックに匹敵するほどの重みのある斬撃が繰り出される。

「大将!」

私の不利を見てジャックが割って入ろうとした。

次の瞬間私はルイの剣圧を支えきれず落馬した。地面に自分の背中が激しくたたきつけられるのがまるで他人事のように認識できた。

・・・もう終わりか??・・・

脳裏をよぎったのは、カミュ卿の優しく厳しい叱咤だった。そうだ・・・私には守らなければいけない人がいる。この命にかけて守ると誓った・・・!!


私は瞬時に跳ね起き、襲いかかってきたハイランド騎兵の馬に後ろから飛び乗った。予期せぬ反撃にハイランド騎兵が慌てて私を振り落とそうとしたが、それより前に鎧の隙間を私の懐剣が刺し貫いていた。


絶命をあげ落馬するハイランド騎兵をルイは静かに見やった。

「聞きしにまさる力だね。君にはずっと会いたいと思っていたんだ。」

ルイは静かに剣をおろした。

「僕の名前はルイ・ロックハート・・・」

「ロックハート・・まさか・・・」

私の脳裏に師の顔がよぎった。そういえば似ている・・・優しく強い光を持った瞳・・・

「そう・・父だよ。君に出会い,自分の人生を意義あるものにしたクラウザ・ロックハートは僕の父だ」

「・・・・」

私は青年から目をそらせた。今私がしていることは絶対に師が喜ばないことだ。師がくれた力を私は運命に逆らうために使っている・・・


「クラン・・・」

ルイが何か言いかけたとき,突然ハイランド軍の攻勢がとまった。

「・・・・!?」

私はルイの隣に馬を進ませてくる人影を見て、息を呑んだ。燃えるような赤い髪・・ハイランドの赤き鳳凰、ミスカ卿だ・・・


「ご苦労様、ルイ・・・」

「いえ・・・」

ルイは静かにミスカ卿に微笑みかけた。ミスカ卿は優美な仕草で地面に突き刺さっている私の剣を馬上からすくいあげた。

「クラン・・・」

「ミスカ様・・・」

何もいえずうつむく私にミスカ様はそっと私の剣を差し出した。

「あなたの狙い通りハイランド軍は、一度退却する。やりたいことがあるのでしょう?」

「!!」

私は息を呑んだ。私の考えていることを知っている??

「いい副官をもったわね。彼が全部説明してくれたわ・・・」

「サーム・・」

ミスカ卿の後ろに馬を進ませてきたサームを見て私は涙ぐんだ。

「クラン様・・ご一緒すべきなのはわかっています。しかし自分がそちらに戻るとジュヌーンに疑われることになり、かえってご迷惑をおかけしてしまいます。」

サームの言葉に私は頷いた。

「いいの、これは私の戦いだから。」

私はミスカ卿の差し出した長剣を受け取った。


「クラン・・・死んではだめよ。あなたは新しい時代をみなきゃいけない・・・」

ミスカ卿はそういうと、よく響き渡る鈴のような声で全軍に叫んだ。

「退却!!」


命令は速やかに行き届き、ハイランド軍はいっせいに退却をはじめた。



サラミス平原の戦い・・・

長い歴史の中で数少ないハイランド軍の敗北・・・


しかし私は知っている。この勝利は私を理解してくれた人たちが生み出してくれたものだということを・・・



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