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第12話 決意

行軍中私は自分の率いる2万の兵を見やった。士官のほとんどに見られる表情、、それは不満と怯え。

前者は奴隷出身の私に向けられたもの、後者は迫り来る最強の軍隊に向けられたもの。そのどちらかでも残存させた状態では勝利は望めない。

私は腕を上げ軍の歩みを止めた。いぶかしげに見やる兵たちに私は伝令を飛ばしすべての小隊長を含む士官を集めさせた。

ほんの数分で百名ほどの士官達が集まった。その意外な手際のよさに私は少し驚いたがすぐに納得した。

ジュヌーン卿が私に与えた兵は決して弱兵ではないはず。なぜなら彼も私と同じくらい勝利を渇望しているから。するとこの兵たちは無能ではなく逆に有能すぎて扱えない難点があるのだ。

私の心に開き直りにも似た感情が広がる。ジュヌーン卿ですらもてあましたこの兵たちならもしかしたら勝利をつかめるかもしれない。

私は大きく息を吸うと叫んだ。

「この場ではっきりさせておこう!私がこの軍の指揮をとることに不満な者は前に出よ!」

私の叫びに真っ先に応じる形で一人の男が進み出た。その男は雲をつくような巨漢で私も思わずつばを飲み込んだ。

「不満だらけだ!」

その男が叫んだ。雷のように大きな声で男は手にした巨大な戦斧をどしんと地面にめり込ませた。

「俺達はジュヌーンの反乱を認めたわけじゃねえ!しかしこの国を捨てることも出来ねえからここにいるんだ!」

男はずいと私に歩み寄った。

「こんなちいせえ娘に俺達の命は預けられねぇよ!」

私は男の主張に耳を傾けた。この男は今私が奴隷だから従えないとは言わなかった?

「つまり私が奴隷出身だから従えないというわけ?」

私は確認の質問をしてみた。すると瞬時に雷の声が返ってきた。

「お前が何だろうと関係ねぇ!お前のような貧弱そうな子供に命は預けられんと言ってるんだよ!」

男の答えに私は思わず笑った。はじけるように笑い出した私に男はいきり立った。

「な、なにがおかしい!?」

「ごめんなさい、すごく気持ちのいい人ね、あなたは」

私の言葉に男は目を白黒させた。

「いいわ、じゃあ私が弱そうにみえて不満ならあなたより強いことを証明すればいいのね?そうすればあなたたちは私に命を預けてくれる?」

私の問いに男は少し考えて頷いた。

「こいつらは俺と同じ考えだ。俺がお前に負けたらこいつら全員お前に従うぜ」

満足のいく答えをえて私は破顔した。

「あなた名前は?」

「ジャック、、ジャック・ワイルダー!」

男はそう言うとゆっくりと戦斧を構えた。

「手加減はしねえぜ?お前が死んだら俺が軍を率いてハイランドと戦ってやる。」

「手加減はいらないわ、、きなさい!」

私はカミュ卿から頂いた長剣を抜き放った。膂力では彼と勝負になりそうにない。ならば技量で勝負する、、

ジャックが咆哮をあげ私の頭上に戦斧を振り下ろした。彼の人格をそのまま象徴するかのような愚直なまでの直線的な攻撃だった。

私は長剣を彼の斬撃に逆らわずに差し出した。焼け付くような火花と音をあげ、ジャックの斧はそのまま私の長剣の刃を滑り地面に食い込んだ。

「ぬおっ!」

間髪をいれず私は彼めがけて長剣を走らせたがジャックは意外な程の身の軽さでそれをかわした。ただし彼の武器である斧から手を放して、、、

降参するか?私がそう思った次の瞬間ジャックは驚くべきことに剣を持った私の間合いに一気に入り込んできた。

「!!」

信じられない衝撃が私の体を貫いた。ジャックはその怪力で私を殴り飛ばしたのである。咄嗟に衝撃を殺すため後ろに飛ばなかったら私の体は二つにちぎれ飛んだかもしれない。

「くっ!」

剣を拾ういとまを与えずジャックが更に私に襲いかかってくる。私は左袖を打ち振り彼の足めがけて鎖を走らせた。

いかな巨体といえどもそれを支えているのは足である。私はジャックの拳をかわすと同時に彼の足に巻き付いた鎖を渾身の力を込めて引いた。

これにはたまらずジャックは地響きを立てて倒れた。私は体をひねり剣をすくいあげると倒れたジャックの首に剣をつきつけた。

「勝負ありね、ジャック?」

「お待ち下さい!」

ジャックが斬られると思ったのだろう、一人の兵が私の前に飛び出してきた。よく見るとめずらしいことにその兵は女性だった。

印象的なのが背中に背負った異常なまでに大きな長弓。

「この男口ほどに悪い男ではございません!どうか許してやってください!」

彼女も士官の腕章をつけている。しかもこの軍では最上級の官位だろう。

「あなた名前は?」

私の問いに女性ははきはきとした声で答えた。

「レイチェル・キャンベルです。あなたがいらっしゃるまではジャックとともに暫定的にこの軍を統括していました。」

私は鎖をにぎる手をふっとゆるめた。ジャックの足を拘束していた鎖は嘘のようにその場にゆるみ落ちた。

「誤解しないでレイチェル。私はあなた達の仲間として認めてもらいたかっただけ。上官としての権威なんて振りかざす気は全くないわ。」

「気に入った!」

倒れていたジャックが雷のような大声で叫んだ。

彼は跳ね起きるとそばにあった戦斧を拾い刃を地面に突き立てた。この行為はローディス教国においては最高の敬意を意味する。

「あんたになら俺の命くれてやる!好きなように使ってくれ!」

ジャックの言葉にならいレイチェルをはじめとする士官達も次々と剣を地面に突き立てた。

その光景を見ながら私は思った。これで死なせてはいけない人たちがまた増えた。彼らは私を人間として認めてくれた。そんな彼らを私は守らなければならない。絶対に、、、


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