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第11話 運命

もともと教皇ウルバヌスは特に善政をしいていたわけではなかったからジュヌーン卿の反乱を王都の民はすんなりとうけいれた。

王都にはジュヌーン卿の直属兵と反乱に荷担、恭順した兵を合せればかなりの数の兵力が残ったことになり、辺境諸侯も表上はほとんどが恭順の意を表明した。

国とは脆いものだ。私はそう思う。圧倒的な力を前にしては皆人としての誇りを捨て非道を受け入れてしまう。

もっとも反乱に荷担したことになっている私もそのおぞましい輩の同類であるが、、、

「・・・」

私は心の闇を無理に追い払い、シェリー様のことを考えた。

反乱以来シェリー様は幽閉されている。ジュヌーン卿からすれば私を対ハイランドの武器として使うための切り札なのだから。幸い私の要求できちんとした扱いは受けているようだが今の私には会うことは許されていない。

「それにしても、、、」

私は自分の部隊のことを考えた。あの後サーム率いる奴隷部隊がジュヌーン卿の兵と交戦したという知らせは全く入っていない。ということはミスカ卿をともないハイランド帝国に走ったか?

サームは冷静な人だ。絶対に判断を誤ることはない。彼を私は信じている。

「クラン殿」

私を呼んだのはジュヌーンの参謀役のガルフという男だ。この男が今回の反乱の計画を立てたと私は思っている。

「ジュヌーン様がお呼びだ。」

「私はジュヌーン卿の部下ではありません。呼び付けられるいわれはないわ。」

私はそう言い捨て立ち去ろうとしたがガルフにきつく腕をつかまれた。

「お忘れかな?あなたにはジュヌーン様の命令に従う義務があることを?」

シェリー様のことを暗示しているつもりなのだろうか、この男は自分を相当の策士と思い込んでいるようだが実際は思慮の浅い愚かな男だ。

「わかったわ。」

私はガルフの手を軽く払った。

「ガルフ殿、一つ覚えておくといい。」

私はわざと背中に背負った長剣の鞘を音高く鳴らした。

「確かに私はジュヌーン卿に荷担せざるをえない。でもジュヌーン卿も私の力を必要としているはずよ?例えこの場であなたを殺しても彼は私を咎められないわ。」

「!!」

蒼白になったガルフを残し私はジュヌーン卿の元に向かった。


「何か?」

王座に座ったジュヌーン卿を見るたび私はたまらなく不快になる。私に彼を斬る力があれば、、、何度そう思ったことか、しかし彼の武力は私のそれを大きく上回っている。ここでジュヌーン卿に殺されるわけにはいかない。

「ハイランドの軍隊が国境を越えた。」

ジュヌーン卿は伝令がもたらした報告書を私の足許に放り出した。

「国境守備軍は降伏、、、」

是非もないことだ。もともと自分の命の危険を感じおこした反乱だ。ジュヌーン卿に先を見通す目が少しでもあればこうなることは簡単に予期できたはずだ。しかし、、、

「何故こんなに侵攻が早い?反乱からまだ5日しかたっていないぞ?しかも討ち取ったはずの赤鳳将軍が陣頭にたっているとか、、」

「あなたが討ち取ったと大喜びした人は影武者。きっと顔がそっくりなだけの侍女だわ。」

私は皮肉を込めて言った。

「ハイランドの伝令制度はこの国よりもずっと進歩してるもの。きっと反乱のその時から伝令が飛んだのよ。」

ジュヌーン卿は目の前の燭台を荒々しく蹴り倒した。

「ふん!王都の兵は10万を超える!撃退してくれるわ!」

「確かに兵はそれだけの数はいるわ。でも辺境守備軍は一戦もしないで降伏したのよ?王都の兵にそれがないと言い切れるかしら?」

私はジュヌーン卿が広げた地図に歩み寄った。

「敵の数は?侵攻してきたのは赤鳳師団だけ?」

「おい、、」

ジュヌーン卿が血走った目で私を睨んだ。

「何様のつもりだ?お前は俺の命令を聞いていればいいんだ!対等の口をきける身分ではあるまい!」

「じゃあ自分で作戦を立てるといいわ。それとも自称名軍師のガルフ殿にでも頼む?」

私はジュヌーン卿を見据えた。

「これは運命よ。あなたが反乱を決めた時点であなたは死んだ。あなたに荷担した私も、、」

「そのような運命など俺が蹴散らしてくれるわ!」

ジュヌーン卿はそう叫ぶと私に更に報告書を手渡した。

「作戦を立ててみろ、シェリーの命を守ることにつながるぞ?」

違う、、私の役目はあなたを破滅に導くこと。シェリー様を救いそしてあなたは私と一緒に地獄へ落ちるの、、

その言葉を飲み込み私は報告書に目を通した。

「先鋒がミスカ卿率いる赤鳳師団5万、後詰めに銀狼師団7万!?」

皇帝ライアが親征してくるとは、、、しかし私はジュヌーン卿の信頼を一時的にも得る必要がある。そのためにせめて一度は華々しい勝ちをおさめなくてはならない。

「先鋒の赤鳳師団を私が迎撃する。王都を囲ませてはだめ。」

「ほう、お前が行くのか?」

「王都近郊の諸侯達は今揺らいでいるはず。緒戦で勝利を飾れば彼らは全面的に私たちに味方するわ。」

私は地図を指差した。

「王都に攻め寄せるには必ずここサラミス平原を通る。私に4万の兵をちょうだい。ここで赤鳳師団を迎撃するから。」

「だめだ。」

予想通りジュヌーン卿は拒否の姿勢を見せた。私を信頼していないのにそこまでの大軍を与えてくれるとは私も思ってはいない。

「与えられる兵は2万だ。」

「わかったわ、、」

予想通りの答えに私は立ちあがった。

「装備は好きに選ばせてもらうわ。」

そう言うと私はジュヌーン卿の部屋を後にした。

この国を滅ぼしてください、、、

私はミスカ卿にそう言った。それでいいと思う。しかし私にはまだ守るべき人がいる。私は敢えて運命に少しだけ逆らう。そして最後には運命をあがらうことなくうけいれるだろう・・・

反乱から6日後、私は2万の兵を率い王都ザナドュをあとにした。

確実に訪れる破滅という運命に一時だけあがらうために、、、




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