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恋薫る季節

作者: sachi




冬の乾いた冷たい風から花の香りを含んだ暖かい春の風に変わりゆく頃、私は必ず一人の男を思い出す。


すらりと伸びた身長に、いつも私に見せてくれた暖かい笑み。


懐かしい母校の制服に身を包んだあなたは今年も私の元へ思い出とともにやってくる。










私と彼が付き合っていたのはわずか二年。


けれど一生の中で一番早く過ぎゆく高校生活の中での二年は当時の私にとっては決して短くは無く、そしてその中の思い出も決して少ないものではなかった。


先に好きになったのは彼の方。けれど更に好きになったのは私の方。そして先に気持ちがさめたのはどちらが先か… もう今ではわからないけれど。


別れのきっかけを持ち出したのは私。でも別れの言葉を言ったのは彼。


今から思えば私は彼に辛い役目を押しつけてしまったのかもしれない。今ではもう遅すぎる後悔だけれど。


未練が残ったのも私。結局は自業自得。


別れてから一年。また彼を思い出した。けれどもその時にはお互いに別の相手が隣にいた。


もちろん連絡もとってはいなかった。私は共通の友達から彼の消息を聞いていた。


別れてから二年。彼の隣は空白になり、私の隣はまた別の誰かが埋めていた。


そしてもう一年経つと状況は逆になり、更にもう一年が経つと彼の状況はわからなくなった。


別に彼が初めての恋人だったわけではないし初恋でももちろんない。


だけと私は確かにあの時初めて人を好きになった。好きという感情を学んだ。


後に私は伊崎和義という男で愛を学ぶけれど、愛は恋を学ばなければ、やっぱり学べない。


毎年、彼と出会い別れたこの季節に思い出す。いや思い出さずにはいられないのかもしれない。


高校という淡い青春という時期に経験した恋心は、きっといくつ年を重ねても消えるものでもないのだろう。


私が彼に想う「好き」という気持ちは家族に対するものよりも薄く、けれどもとても生命力のある頑丈なものだ。


夫の和義や我が子に対する愛とも違う、家族とも違う、親友とも違う、どこか懐かしさや照れくささを含んだ淡い想い。それが彼に対する感情そのものなの。


私は妻、伊崎真紀子として夫、和義を愛しているし、我が子ももちろん愛しているわ。


けれど私の心の小さなところで息づく、名前のまだ変わらない青春時代その時の香坂真紀子は、彼、高島光樹を想っているの。そしてその心の隅に隠れた恋心が、春の爽やかな風が運び、そして連れ去っていくの。


だから今日だけは、まだ気温の上がらない空気に似合わない花の香りが漂うこの日だけは、私を香坂真紀子のままに彼を想わせてちょうだい。


そうすればきっと明日は伊崎真紀子が良き妻良き母となり家族の輪を繋ぐから。


今日だけは香坂真紀子でいさせて頂戴な。















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