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俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件  作者: ななお


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第六話「ゴールデンウィーク明けの嵐」

 大型連休が終わった翌週月曜日。

 登校するだけで疲弊してしまう。


 理由は明白――スマホの通知が止まらないのだ。


「ねえ拓海今日会える?」「日曜日の練習試合来てほしいな」「映画のチケット取ってあるのだけれど……」

 佐藤千春、天宮瑠璃、白石澪……そして意外にも冬月凛からも。

 それぞれが独立してメッセージを送ってくるため、一日100件超の通知に対処できない。


「……これが“モテ期”ね……」


 手のひらサイズの端末を眺めながら独り言を呟く。しかし画面に映るのは親切なメッセージではなく、無限に増殖する未読通知の恐怖図だった。

 特に喫茶店事件以来、千春と白石さんの雰囲気が急激に変化したのが気がかりだ。互いに牽制し合っているのだろうか?その渦中に自分がいると思うと胃が痛む。


---


 ホームルーム直前に教室に入ると、いつも通り静まり返った空間だった。

 ただし男女ともに奇妙な熱気を感じる。


 男子生徒たちの冷ややかな視線と女子たちの眼差しが交錯する。


(マジで勘弁してくれ……)


「おはようございます」


 白石澪が教室に入ってくる。

 教科書の隙間から覗き見た瞬間、教室の空気がピンと張りつめた。


 戸口に佇む白石澪はまさに女王のごとく荘厳だった。金糸が入った黒髪を今日も完璧にまとめている。すっと伸びた背筋と理知的な瞳――入学当初から敬愛を集め続けていたカリスマ的存在だ。


 だけど今の彼女はどこか違って見える。


「澪ちゃんおはよう!」


 隣の席から天宮瑠璃が飛びつくように挨拶する。屈託ない笑顔がまぶしい。


「おはようございます天宮さん」


 白石さんの声にはわずかに湿り気が混じっていた。

 俺は思わず固唾を飲む。


 彼女はゆっくりと俺の方に視線を移した。


「山田君……おはようございます」


 その目には期待と羞恥の入り混じった色が浮かんでいる。


 返事をする暇もなく先生が入ってきた。


 ざわめきが一斉に収まる。

 先生が出席簿を開く音だけが響く教室で、俺はちらりと確認した。


 白石さんが熱に浮かされたような頬と潤んだ瞳でこちらを見つめている。

 心臓が警報のように鳴り続ける中、俺はただ教壇を見つめることしかできなかった。



 昼休みのチャイムが鳴ると同時に椅子を引く音が教室全体から湧き起こる。

 みんな一斉に弁当箱を広げたり購買に駆けだしたり、いつも通りの騒々しい日常だ。


「……山田君」


 突然耳元で名前を呼ばれて跳ね起きる。

 視界に飛び込んできたのは白石さんの顔だった。


 距離が近いぃ。

 教室のざわめきが一瞬で遠のき、二人の間だけ真空状態になるような錯覚。


「ど、どうしたの?」


 反射的に答えながらも全身の毛穴が開く。彼女の吐息が前髪を揺らすほどの距離だ。


 白石さんは少し俯いた。

 長い睫毛が影を作り、血の気の無い頬が更に蒼くなる。


「お昼……一緒にどうでしょう」


 蚊の鳴くような声。

 しかしその内容に教室中の会話がピタリと止まった気がした。実際周りの男子たちが凍りついた視線を向けてくる。


(これはまずい)


「えっと……俺は弁当持ってきてないんだ」


 必死で言い訳を搾り出すと白石さんはぱっと顔を上げた。


「待ってます」

「え?」

「お待ちしていますので……」

「……」


 あまりの押しの強さに呆然としていると、白石さんが開いている俺の前の席に座った。

 お弁当は広げず、本当に俺を待つつもりらしい。


「わ、分かった。ちょっと待ってて……」


 俺は席を立ち購買へ向かうしかなかった。


 その道中何度も振り返ってしまう。白石さんが小さく頷きながら微笑んでいるのを見てはドギマギし、廊下を行く女子たちが怪訝そうな視線を投げるのも感じる。


 購買で手早くパンを買い教室に戻る。


 教室に戻ると白石さんは俺が教室を出て行った時と同じ姿勢のまま待っていた。

 

「待たせてごめん」


「いえ……それじゃあ頂きましょう」


 彼女がお弁当を開ける。彩り豊かで栄養バランスの整った完璧なランチ。

 一方俺はサンドイッチとお茶を机の上に置いた。


「いただきます」

「いただき……ます」


 白石さんは箸を手に取るとおかずを一つつまんだ。

 唐揚げ?鶏肉の衣が黄金色に輝いている。


「山田くん……」


「うん?」


「これ……美味しいからどうぞ」


 そう言って箸を差し出してくる。

 眼前に差し出される唐揚げ。

 教室中の視線がさらに鋭くなるのがわかる。


「いや……白石さんのだから……」


「美味しいんですよ?」


 畳み掛けるような微笑み。

 断れない圧力だ。


「そ、それじゃあ……もらう」


 口を開けると白石さんがそっと唐揚げを入れてくれる。

 鶏肉の味わいが口内に広がる。


「美味しい?」


「うん……最高だね」


 白石さんは心底嬉しそうに微笑んだ。

 その表情があまりにも可憐で鼓動が乱れる。


「じゃあ次は卵焼きを……あ~ん」


「あ、あ~ん……」


 拒否する勇気もなく卵焼きも食べる羽目になる。教室の男子からは殺意にも似た視線。女子は好奇心いっぱいに見守っていた。


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