第十話「五月の贈り物」
5月末。日差しは益々強くなり、制服の上着を脱ぐ生徒も増え始めていた。
そう言えば千春の誕生日が近かったことを思い出す。
***
放課後のショッピングモール。プレゼント選びは難航していた。
女の子向けショップの前で足踏みしながら店内を窺う。かわいいグッズはたくさんあるけどどれを選べば正解なのか皆目見当がつかない。
「これなんてどうですか?」
突然背後から声がした。振り返るとの白石澪が立っていた。
「し、白石さん!?」
「奇遇ですね。何をお探しですか?」
「ああ、千春の誕生日プレゼントで……」
白石さんは興味深そうに商品棚を眺める。
「なるほど。佐藤さんのために」
「そう。だけどセンスがないから困ってて」
「でしたら……これなんて素敵ですよ」
彼女が手に取ったのは小さなハンドクリームセットだった。優しい桜の香りが漂う。
「女の子らしいアイテムで嬉しいはず」
「ありがとう!助かるよ」
「あ……でも」
「ん?」
「私が勧めたってことは秘密でお願いします」
「なんで?」
「……ライバルですから」
そう言い残して彼女はスタスタと去って行った。呆気に取られて見送るしかない。
改めて手の中にあるハンドクリームセットを見る。
「ライバルの助言で選んだプレゼントは……バレたらヤバそうだ」
俺はハンドクリームセットを棚に戻す。
参考にはなったけど自分で決めた。結局、なんとなく良さそうなマグカップを見つけて購入した。
***
誕生日当日。学校では千春が友達に囲まれていた。
教室に入るなり友人たち千春は頬を染めて嬉しそうに笑っている。
(ああ……やっぱりここでは渡せないな)
授業が終わり、放課後になるのを待った。約束していなかったけど千春は来る。なぜなら幼馴染の俺たちは帰り道が一緒なのだ。
校門で待っていると千春が小走りで駆け寄ってきた。
「待ってくれたの?嬉しいな」
「誕生日おめでとう」
俺が言うと千春はパァッと笑顔になった。
「ありがと~!えへへ」
俺たちはそのまま帰路につく。プレゼントの袋をカバンに忍ばせたまま歩く。
「今日はいろんな人に祝ってもらっちゃった」
「よかったね」
「うん。でも一番うれしかったのは拓海が『おめでとう』って言ってくれたこと」
「そんなに?」
「だって高校入ってから付き合いなくなってたけど、私の誕生日のことこと忘れてなかったから」
彼女の言葉に胸が痛む。小さい頃からの幼馴染だったけど高校では疎遠気味だった。
そんな俺がちゃんと覚えてたってだけでこんなに喜ぶなんて……
電車に乗り込み席に腰掛ける。
人が多いせいか互いの肩が触れ合う距離だ。心臓の鼓動が加速する。何とか平静を装いながら話題を探す。
しかし彼女はこちらをじっと見つめている。その瞳がいつもより輝いて見えるのは気のせいじゃない。
千春は何か期待しているように思えた。
「あのさ……」
「うん?」
「千春の家行ってもいい?」
突然の提案。でも自然と出てきた。誕生日の思い出を作るならこの機会しかない。
千春は驚いた顔をしたあとコクリと頷いた。
「いいよ!久しぶりだね」
***
彼女の家に上がる。部屋は相変わらず可愛らしい雰囲気だった。壁にはキャラクターのポスター。机の上にはぬいぐるみ。女の子らしい空間に違和感を覚えながらもプレゼントを渡す。
「これ、誕生日プレゼント」
「開けていい?」
「うん」
マグカップが出てくると千春は歓声を上げた。
「わぁ!可愛い!使わせてもらうね!」
彼女は大切そうに包装紙ごと胸に抱きしめる。その仕草が何とも愛らしい。
「ありがとう拓海。ホントに大事にする」
「うん……喜んでもらえてよかった」
暫く二人きりで話し込んだ。学校のこと、部活のこと。
昔話をしたりして笑い合った。
楽しい時間はあっという間に過ぎる。そろそろ帰ろうかと思った時だった。
「拓海……」
「なに?」
瞬間、千春の顔がアップに。気づいたら彼女の唇が自分の唇に触れていた。
「んっ……」
驚愕のあまり動けなくなる。
キスの余韻が残る中で千春は頬を赤らめながら抱き着いてきて、俺は絨毯の上に押し倒された。
「ずっと……こうしたかった」
「ち……千春?」
「拓海が大好きなんだ」
涙声混じりの告白に言葉を失う。千春の温もりが全身に伝わってくる。柔らかな髪の匂い。鼓動。
「待ってくれ……急すぎる」
「拓海の答えは待つ……だけど、私の気持ちは知っててほしい」
そう言って、再び抱き着いてきて、もう一度キスをする。
胸も思いっきり押し付けてくる。この間の時とは違う。アクシデントではなく、千春が意図的にやっている。
心臓が爆発しそうなほどに高鳴る。
俺は何も言えず放心していた。
こんな状況どうすれば良い?
部屋の静寂だけが響く。外ではカラスが鳴いていた。俺はこのままどこかへ連れ去られてしまうような不安と幸福感の狭間で揺れ動く。
答えが見つからないまま時間が過ぎていった。
インターホンが鳴った。
びっくりして飛び起きる。
「あ……帰ってきたのかも」
千春の母親らしい。助け舟だと思った。今の俺は正常な判断ができない。
千春はそっと俺から離れた。瞳は潤んだまま。それでも微笑んでいた。
「ごめんね。びっくりしたよね?」
「う、うん……」
「でも本当のことだから……」
「……」
ドアが開く音と共に母親の声が聞こえてきた。
千春はパッと立ち上がり玄関へ向かう。
「今日はありがとう……それと、来年も再来年もその先も……ずっと祝ってくれる?」
「……今は、そのつもり」
「……じゃあ約束ね。今のままだったら祝って」
千春が小指を差し出した。
指切りげんまん。
そのやり取りだけで胸が締め付けられる。
彼女の本気度がひしひしと伝わる。
もうただの幼馴染ではいられない。
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