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俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件  作者: ななお


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プロローグ

 桜の花びらが最後の舞い踊りを見せていた。

 俺——山田拓海にとっては、春の訪れなんてどうでもいいものだった。


 春休みが終わった。


 制服のネクタイはいつも通り曲がっていて、通学バッグの中身は教科書と文庫本とイヤホンだけ。昼食は購買のパン一つで、飲み物はペットボトルのお茶。授業中は一番後ろの席で誰とも目を合わせずにノートを取り続ける。


 友達なんて……数えるほどしか居ない。

 いや、本当に居ない。


 そんな俺にとって、クラス替えというのはまさに「死の宣告」だった。


「はぁ……せめて千春が居ればなぁ」


 ため息混じりにつぶやきながら、新学期のクラス表を確認する。

 去年と同じく、俺の名字は五十音順で一番後ろの方にある。つまり、席も自然と教室の隅になることが多いのだ。


 だが、運命とは時に残酷なものである。


 新しい教室に入った瞬間、俺は凍りついた。

 窓際の前列に座っていたのは、噂の絶世の美少女——白石澪だったのだ。


 清楚な雰囲気に整った顔立ち、それでいてどこか儚げな微笑み。

 クラスメイトたちは彼女の周りに群がり、まるでお姫様を守る騎士団のように取り囲んでいる。


「あれが白石さんか……」


 心の中でつぶやくだけで精一杯だった。


 そんな彼女が、俺の目の前を通る時——彼女と目が合ってしまった。


 一瞬のことだったけれど、確かに見られた。

 彼女の瞳には、驚きのようなものが浮かんでいた気がする。


(まさかな……勘違いだ)


 そう自分に言い聞かせながら、俺はまた教室の隅に向かう。

 しかし、その直後——


「あの……失礼ですが、山田くん」


 背後からか細い声が聞こえた。


 振り返ると、そこに立っていたのは——白石澪だった。


「は、はいっ!?何でしょうか!?」


 情けないほどに声が裏返る。


 彼女はにっこりと微笑むと、一枚の紙を差し出した。

 それは、明日行われる委員会の連絡表だった。


「これ、落としていましたよ」


「あ、ありがとうございます……!」


 受け取った瞬間、指先が少しだけ触れ合う。


 その刹那、なぜか俺の全身に電流が走ったような感覚があった。

 彼女の指は、信じられないほど柔らかくて暖かかった。


(なんだ……?これ)


 心臓の鼓動が速くなっていく。

 こんな感覚、生まれて初めてかもしれない。


 そしてこの時、誰も知る由もなかった——

 この些細な出会いが、俺の平凡すぎる高校生活を根底から覆す"モテ期"の幕開けになるということを。


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