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5話 世紀末都市「二雲町」

民俗学期末課題レポート

〜地元の歴史『二雲町』〜


学籍番号:G2XX031

氏名:姫咲(きさき) 春香(はるか)


その1.はじめに


私の地元、「二雲町」は「世紀末都市」である。


というのも、この町はネット上で「神隠しの町」と揶揄されるほどに行方不明事件が多発している地域なのだ。

20XX年6月7日にナノハナ出版株式会社より出版された「恐怖の町〜全国各地のヤバいスポット〜」12ページによると、「その件数はざっと数えるだけでも1都道府県を遥かに凌ぐ値だ」という。加えて、そのほとんどが未解決。たまに「行方不明者が帰ってきたことを報告する記事もある」とのだが、私が調査した限り、そのような記事は見つからなかった。

一方で、二雲には私のように神隠しに遭わず、19になるまで育つ若人もいれば、80年もの間暮らしている高齢者もいる。

一見すれば、ただの田舎町だ。とても「神隠しの町」などと呼ばれる場所の様相ではない。

だが、記事になる、または本に取り上げられるような奇妙な事件が起きているのはれっきとした事実。


この論文では、町の歴史に触れていくことで、どうして「神隠しの町」とよばれるようになったのかを探っていこうと思う。


♦︎♦︎♦︎♦︎


「………やだなぁ…」


レポートを手に、がっくりと肩を落とす。

現在、私は電車に揺られていた。

向かう先は、観光名所で有名な古都…そのはずれにあるという『二雲町』。

「姫咲」という生徒が書いたレポートの通り、「神隠しの町」なんて恐ろしく不名誉な異名を持つ田舎町だ。

いくら単位を得るためとはいえ、気が進まない。そんなに関わりのない同級生の故郷だというから余計に。


「あのカス、よりによって調査当日に風邪ひきやがって…」


今日、二雲町に向かっているのは私だけ。依頼した本人はどうやら風邪をひいてしまったとかで、現在は寝たきりなんだとか。

連絡を受けた時は引き返して「なんにもない田舎でしたよー」で済ませようかと思ったが、そんな考えなど見透かされていたのだろう。チャットアプリで釘を刺されてしまった。


─────成果なかったら単位なしね。


今見返してもムカつく。「サボったら単位なし」でいいだろうがよ。

そんな文句を堂々と吐けるはずもなく、私は「OK!」と書かれたスタンプを送る。


『次は、川質(かわだち)、川質〜』


単位のため、単位のため、と自分に言い聞かせていると、乗り換える駅に着く。

おちおち寝てられない。電車で貪る惰眠はまた違った味わいだというのに。これだから乗り換えは嫌なんだ。

心の中でぼやき、電車を降りる。

中心地からは離れてるとはいえ、栄えた地域の中だ。広告やビル群がここからでも見える。

今しがたスマホで調べ直したところ、次はバスに乗り換えないといけないらしい。

辟易しながらホームを出ようとした、その時だった。


「んー…?んー……」


同い年くらいの女性が眉を顰め、スマホと睨めっこしてるのに気がついたのは。

染めているのだろうか、それとも元からなのか、白く艶めく髪。

シルエット大きく見えがちな着物の上からでもわかる、すらっとしたボディライン。

肌も作り物のようにきめ細やかだ。

横からしか見えないものの、顔たちもかなり整っている。元から開く範囲が狭いのか、糸目のように見えるタレ目。細く切り揃えられた眉毛に、高い鼻。薄いながらも潤いが伝わる唇。


どれをとっても完璧な美少女だ。バッサリフッて男の心を砕いてそう。


しかし、やけに服装が古めかしい。話題の漫画で見たことがある。大正、明治くらいの時代のものだ。

純然たる趣味か、それともミーハーなのか。

私には関係ないか、と思い、通り過ぎようとする。


「んー…?」

「………」

「んー……」

「………………」


めっちゃ見てくる。もしかして、知り合いだったりするのだろうか。

…だめだ。何度思い返せど見当たる美少女がいない。確実に初対面だ。


「もしや、榎代かや?」


苗字を知られてる。誰だ、誰なんだ。

パニックになり、私は慌てて言葉を返す。


「え、あ、はぁ。榎代、です」


答えちゃったよ。問答無用で襲われることばかりだったから、確認をとった上での応酬に慣れてないんだよな。

その答えを聞き、女性は不思議そうに私の出立ちを見る。


「やけに質素な服を着ておるのう。

派手なのが好みじゃなかったかや?」

「………えっ、と。榎代、誰のこと言ってます?」

「む?榎代 初音(はつね)じゃろ、お前」


初音というのは私の妹の名前だ。

姉妹とは言っても、私と初音は似ても似つかない。似てるのなんて癖っ毛と目元くらい。

性格も真逆だ。人当たりが良く、私みたいに捻くれてない。

それなのに勘違いするのか、と呆れ、私は首を横に振った。


「……私、初音の姉の百華です」

「ほぉ。どうりで目元が似とるわけじゃ。つい間違えてしもうた」

「人のこと目元しか見てないんですか?」

「すまんすまん。よく似ておるから、『いめちぇん』したのかと思うての」


はて。そんなに似てるだろうか。確かにどちらも目つきは悪いが。


「初対面のようじゃし、自己紹介しようかの。

ワシは久遠寺(くおんじ) (かなえ)という。

えのし…、いや。初音が『ばいと』しておる古物商の店主じゃ」

「は、はぁ。それは、どうも」

「ここで会ったのも何かの縁。少し時間はあるかや?」

「い、いえ、急いでるんで…」


確かに、初音は駅の近くにある古物商でバイトしてる。

なら尚更間違えるなよ、と呆れながらも、私は断りを入れ、ホームを出ようとする。


「二雲に行くなら、乗る電車が一本遅かったな。40分ほど待たんと、バス来んぞ」

「へっ?」

「つい先月、運行数が減ってのう。

この時間にあったバスがなくなってしもうたんじゃ」

「な、なぁっ!?」


嘘だろ。そんなん書いてなかったぞ。

…いや、それよりもだ。どうして私の行き先が二雲だと知っているのか。

怪訝に思っていると、叶さんは私が握るスマホを指差した。


「そう警戒せんでよい。携帯で二雲の行き方を調べておったのが見えただけじゃ。

あそこは明治初期に山を切り拓いて出来た住宅地で、交通の便が悪うての。

「なんでそんなこと知ってるんです?」

「孫夫婦とひ孫2人が二雲に住んどってな。

下のひ孫はお主と同い年くらいじゃ」

「……………………は!?!?!?」


うっそだろおい。私と同い年くらいのひ孫がいるって何歳なんだよ、その見た目で。

流石に冗談だろう、と思い直すと同時、叶さんが「あ、そうじゃ」と声を漏らした。


「実はの、奇遇なことにワシも二雲に行く用事があってな。孫に迎えを頼んでおるんじゃ。

よければ、お主も乗ってくかや?」

「………じ、じゃあ、お言葉に、甘えて…」


どうやら冗談じゃないらしい。

戦慄を隠すように、私は苦笑を浮かべた。浮かべられていたと信じたい。


♦︎♦︎♦︎♦︎


数分後。叶さんのお孫さんだという女性が眉を顰め、助手席に座る彼女を睨め付ける。

化粧で隠してはいるものの、それなりに老けてる。側から見れば、叶さんが娘で、お孫さんがその母のようにしか見えない。


「ちょっと、おばあちゃん。お客さん連れてきてるんなら早めに言ってよ」

「すまんすまん。成り行きでの」


お孫さんというのは本当らしい。脳がバグりそう。

美魔女にも程があるだろうがよ、と呆れていると、お孫さんが怪訝そうに問うた。


「にしても、あなたみたいな子が二雲に来るなんて珍しいわね。何か理由があるの?」

「えっと、大学の教授に調査を頼まれまして」

「調査…、神隠しの?」


普段から神隠しの調査に乗り出す人間が来ているのだろう、複雑な表情を浮かべる彼女。

それを前に馬鹿正直に「はい、そうです」と答える気になれず、私はつい誤魔化してしまった。


「えっと、名産とか風習とか、地域の特色を調べてこいと言われて…」

「ああ!民俗学ってやつ?」

「あ、はい」

「息子もこないだまで調べてたわー。

なんでも、大学の期末レポートの題材が『地元の歴史』だったらしくて。ぐちぐち文句言ってたわ」

「ウチの大学も同じ題材でしたよ。流行ってんですかね」


こんな偶然あるのか。どこの民俗学教授も似たようなものなんだな、と呆れていると。

怪訝そうな顔をしたお孫さんが、恐る恐る私に問いかけた。


「…もしかして、窟真大学の子?」

「あ、はい」

「すごい偶然!私の息子も窟真大学なの!

『姫咲 春香』って名前なんだけど、知ってる?」

「…………………同じ授業取ってました。交流はありませんでしたが」

「あら、そうなの」


こんな反応に困る奇跡あるんだ。

私は教授から預かっていたレポートを取り出し、もう一度名前を見る。


『姫咲 春香』。


間違いない。このレポートは、叶さんのひ孫が書いたものだ。

これから会うと思うと気が重い。勝手にレポート読んだ上、手元にありますなんて言ったらどう思われるか。

教授が事前に言ってくれてたらいいけど、と思っていると、叶さんが思い出したように問いかけた。


「そういえば、昨日から春香と連絡がつかんのじゃが、なんかあったんか?」

「それが、昨日から帰って来てないのよ。もう心配で心配で…」

「ふむ…。探っておく」

「お願いね」


実家暮らしなのか。それなら帰宅時間は正確に伝えておくべきだろうに。

よく知らない同級生に呆れていると、ミラーに映る叶さんの目が開かれていることに気づいた。


「おばあちゃん、お客さんの前」

「………忘れておったわ。ウチのバイトに似ておるから、つい」


見間違いだろうか。…いや、いくらミラー越しとはいえ、見間違えるわけがない。


叶さんの目、明らかに強膜が真っ黒に染まっていた。


とんでもなく面倒くさい予感がする。

なんて面倒な依頼を引き受けてしまったんだ。今更ながらな後悔を乗せ、私は深いため息を吐いた。

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