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23話 世紀末都市「大宮市」 その7

「毎年毎年懲りたりしないんですかね、コイツら…。いや、これが初犯ってのが8割くらいでしょうけど」


2時間後。犯人を乗せ、去っていくパトカーを見送り、ため息をつく。

変態2割、子供に忌むべき衝動を抱いたボケ3割、やけっぱちになって子供を狙ったカス5割、といったところか。

私が内訳を推測している横で、恍惚とした表情の紫菜さんが身をよじる。


「きゃひひひひ…。こんなに肉を蹴ったのは初めてだわぁ…♡」

「さっきから思ってたんですけど、蹴りにこだわりがあるんですか?」

「ええ。蹴りの方が重いもの。まあ、必要に応じて拳も使うけれど」


言って、「きゃひひ」と笑う紫菜さん。

と、その瞳がふと、今しがたやってきたパトカーに向けられた。


「…パトカーが代わる代わる来てるの、シュールね。一度にまとめて捕まえたりできないのかしら?」

「前に中古のバスを安く買い叩いて護送車として使おうって政策できましたけど、さっきのわたあめみたいな特殊な変態が好き勝手暴れてとんでもないことになったんで見送られました」

「あぁ…、なんか、やけにしぶとかったものね」


その時は、バスに乗っていた警官の一人が大宮市の中でも強い方の人だったからなんとかなったらしい。ネットニュースで見たくらいで、詳しくは知らない。


「となると、大宮の警察って強いのかしら?」

「ピンキリですね。でも、パトロールするときは必ずバカ強い人が一人は乗ってるみたいですよ」

「へぇ…?」

「クロスカウンターの店内でもない限りは喧嘩売らないでくださいよ。あの人ら、物理的にも法的にも殴ってくるんで」


友人がしょっ引かれてしまうのは忍びない。

そんなことを思いつつ、ふと子供たちが集まる公園の方に目を向ける。

子供たちの手には、水風船のヨーヨーやスーパーボールが入った巾着、焼きそば、お好み焼き、たこ焼きと見慣れたものが握られていた。


「………へー。今年はチョコバナナもあるんですか。珍しい」

「夏祭りって普通チョコバナナないかしら?」

「ちっちゃい公園でやる、14時には終わる祭りですからね。私らん時はなかったんですよ。食べ物はたこ焼きとお好み焼き、あとはソースせんべいくらいなもので。

子供メインだから、スーパーボールすくい、ヨーヨー釣り、射的、輪投げと遊びの方に力入れてんですよ」


そこまで言って、私はふとあることに気づく。

食べ物…それも粉物を持っている子供たちの数が多い。日を見ると、ここに来たばかりの時よりも明らかに高くなっている。


「……今何時です?」

「正午前よ」

「やっぱり。ってことは、そろそろですか…」

「ご飯の時間かしらぁ?」

「いや、違います」


あいにく、昼食の時間は片付け含め、全部が終わってからだ。そこでようやく祭りの残り物にありつける。

私が指しているのは、もっと別のもの。

今年は来ませんように、と祈るも、それを裏切るように力強い足音が響いた。


「浴衣ー、浴衣はいらんかえーッ!!」


そんな頓珍漢な雄叫びが轟いたのは。

私たちがそちらを見ると、歪なシルエットが見える。


まるで翼のように広がる物干し竿。羽根のように並ぶ、夥しい数の浴衣。

そこにいたのは、イカロスよりも早く墜落しそうな出立ちのジジイだった。


「何あれ?」

「この夏祭りの風物詩、浴衣ジジイです。子供たちの着ている服を一瞬でひん剥いて浴衣を着せる妖怪です」

「妖怪ってか変態じゃないの」


この街の変態は妖怪の一種だと思った方がいい。アイツらを人類だと認識すれば最後、自分も同じ人類だということに絶望するあまり脳が爆発する。


「はい、ストップですよ浴衣ジジイー。まーた脱獄してきたんですか?」

「無ッ、君は7年ほど前に浴衣を着せた少女か!!綺麗になったな浴衣を着ろォ!!」


屈辱に塗れた記憶を掘り返し、一瞬にして姿を消す浴衣ジジイ。

奴が服をひん剥くのは、決まって下から。

くまちゃんパンツを天下に晒した過去が頭をよぎるも、意識を研ぎ澄ませ、音を聞く。


「そこっ!!」


私が拳を突き出すと、頬肉の感触が伝わる。

どうやら読みは当たったらしい。受け身を取り、距離をとった浴衣ジジイが伸び切った眉毛を上げ、瞳を光らせる。


()ッ、ただ見目麗しくなっただけではないということか…!」

「気をつけてください。あんなふざけた格好してますが、慣れてる私でもギリ反応できるかどうかのバカみたいな速度でこちらの服をひん剥きにかかってきます」

「どうしてナイフを持った通り魔より変態の方が強いのよ」

「そんなん私が聞きたい」

「隙ありッ!!」


私が反応するより先、浴衣ジジイが駆ける。

紫菜さんが抵抗し身を庇うも遅く、彼女のスカートが消え、過激なパンツが天下にさらされた。


「………………」

「抵抗すればそのような辱めを受けることになるぞ。大人しく、我が浴衣を受け入れろ」

「………………」

「わ、わぉ…っ、ちょっ、これ結んでください」


私の上着を腰に巻き、怒りに打ち震えているだろう紫菜さんの下着を隠す。

気持ちはわかる。すごく。俯く慰めようとした、その時だった。


彼女の姿が一瞬にして消えたのは。


「へっ?」

「何ッ…、がっ!?」


ハンマーを思いっきり金属板に叩きつけたかのような、甲高い音。

衝撃に負け、吹っ飛ぶ浴衣ジジイ。

彼が立っていた場所には、足を振り抜いた体勢の紫菜さんが立っていた。

後ろ姿しか見えないが、耳を見る限り、顔は真っ赤。頭からは絶えず湯気が溢れている。

羞恥と怒りで脳のリミッターが外れでもしたのだろうか。


「……あくまで捕まえるんですからね?」

「もちろんよ…」


忠告が耳に届いたかは怪しい。

姿が再び揺れ、体勢を整える浴衣ジジイに襲いかかる紫菜さん。


「きゃひひひひはははははっ!!!!その浴衣まとめて引き裂いてあげる!!」

「やめい、鬼畜めがッ!!浴衣とは夏祭りで輝く子供達を彩る唯一の宝石なのだぞッ!!」

「………紫菜さんって、足技ってよりか速度特化だったんですねぇ」


この街で浴衣ジジイと渡り合えるほどの速さを持つ人間は稀有だ。

割って入ろうにも、もはや戦いは私の目でも追いきれない領域にまで達してる。

ががが、と激戦を繰り広げる様に尻込みしていると、休憩時間に入ったのだろうクロエが姿を見せた。


「ももねー、おつかれー。何本かジュース持って来……、何あれ?」

「浴衣ジジイと私の友だちです」

「もうそんな時間かー…。あのジジイと渡り合うなんてすごいな、ももねーの友だち」

「スカートひん剥かれた直後にああなったんで、多分このまま行くと負けて浴衣にされます」

「ほーん…」


今はまだ勢いで押しているが、このまま行くと体力の消耗を突かれ、あっという間に浴衣にされてしまうだろう。

私の予想を聞いたクロエは手で筒を作り、口に当てる。


「わっ!!!!」

「っがぁあっ!?!?」


クロエが叫び、硬直するジジイ。

紫菜さんはその隙を逃すことなく、その腹に蹴りを決め、共に川に落ちる。

その一撃に川が大きく捲れ、ばしゃぁ、と水飛沫が降り注いだ。


「これでよしと」

「……何やったんです?」

「声版スタングレネードみたいなもん」

「相変わらず出鱈目な声してますね…。あ、戻ってきた」


気を失ったジジイを引きずり、川から這い上がる紫菜さん。

ずぶ濡れになった彼女に、私は申し訳なさを滲ませ、問うた。


「……あの、ストレス発散、できました?」

「余計に溜まったわよ!!!」

「ですよね」

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