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22話 世紀末都市「大宮市」その6

「ちゃーっす。警備に参加しに来ましたー」

「こ、こんにちは…」


集合住宅地用に作られた、小さな公園にて。

夏祭りの準備をしていた人たちに向け、声を張り上げる。

その何人が軽く会釈する中、作業中だった弟妹たちが驚愕する姿が見えた。


「コアラ来た」

「ほんとだ、コアラ来た」

「コアラじゃん。寝なくて大丈夫?」

「誰がコアラじゃ愚弟妹。人類だわ」


確かにコアラみたいな生活リズムはしていたが、人類を卒業した覚えはない。

それに、最近は不本意ながら早寝早起きが習慣になっている。コアラ呼ばわりされる謂れは今の私にはない。

揶揄う弟妹たちに文句を垂れ、私は近場にいた初音に問いかけた。


「んで、どこの警備すればいいです?」

「地図出すね。えーっと…、ここお願い」


初音が指したのは、公民館の死角。子供狙いの悪党が好んで潜む、一番きつい場所だ。

元の担当は誰だったんだろう。私がその疑問を抱いたことに気づいたのか。初音が苦笑を浮かべ、情報を付け足す。


「本当だったらここにおじちゃんたちが来る予定だったんだけど、お店が半壊したから…」

「あー…、まあ、ちょうどいいですね。わかりました」


今日は紫菜さんのフラストレーションを解消しに来たのだ。犯罪者に当たらないと困る。

紫菜さんに「行きますよ」と促し、担当場所へと向かう。

まだ準備中なのに手伝わないことを疑問に思ったのだろう、紫菜さんが不安気な声を漏らす。


「え、あの…、準備は手伝わないんです?」

「手伝わなくてもいいんですよ、私たちは警備が仕事ですし」

「いや、でも…」

「大丈夫ですって。むしろ、ここで手伝ってたら『警備ほっぽって何やってんだ』って怒られますから」


納得がいってないのだろう。位置につき、見えなくなった公民館の方へと何度も視線を送る紫菜さん。

私は彼女の不安を宥めるべく、彼女の背を軽く撫でた。


「不安にならなくても、誰も文句言いませんよ。

なにせ、ここは『バカみたいに事件が起きる大宮』です。準備の人手が足りなくても、警備に穴が開くのは絶対に避けたいんですよ。特に、今回のように子供がメインターゲットのイベントなら尚更ね」

「いや、こんな…その、小さい夏祭りをわざわざ狙ってくる悪党なんて…」


はっきりと「しょぼい」って言ってもらって構わないのだが。

そんなことを思っていると、私たちの間に歪な形の影が差し込む。

私たちがそちらを見ると、そこには。


「ふへへへへへぼくのわたあめで子供たちを喜ばせてあげるんだふへへへへへ」


褌一丁で頭と四肢に家庭用のわたあめ機を括り付けた太っちょの変態が、怪し気な笑みを垂れ流していた。


「いましたよ、子供を狙う悪党」

「ただ性癖がおかしい変態じゃないですか」


私もそうとしか思えない。可能性は限りなく低いだろうが、夏祭りの魔力に惹かれてやって来たわたあめ機の精とかだったりしないだろうか。

私のささやかな祈りは、わたあめの甘いに混じってただよう加齢臭によって否定された。

私はため息を吐き、ふらふらと公民館へ向かおうとするわたあめ機の妖怪へと歩み寄る。


「はいそこのわたあめ機と合体したバカストップー。町内会の出店許可証ありますー?」

「子供への善意をこの身で表すことがその代わりさ」

「出てけ」

「なっ!?子供達の笑顔を奪う気かい!?なんて鬼畜だ!!目も死んでるし!!ぼくのわたあめをお食べ!!」

「食う前にそのわたあめの材料見せてみろ」

「いいよ!!」


思わず語気が強くなってしまった。

私に押し付けようとしたわたあめをキャラものの袋にしまい、懐から材料らしきザラメと、謎の液体が入った瓶を取り出す。

ザラメはわかるが、この液体は着色料かなにかだろうか。そう思い、差し出された瓶を少し嗅いでみる。

…この匂い、覚えがある。

私は顔を歪め、瓶を差してわたあめ機の妖怪に問いかけた。


「………おい。コレなんだ?」

「子供たちが笑顔になる不思議な調味料さ!これで作ったわたあめを食べればあら不思議!頭脳明晰スポーツ万能の大天才になれちゃうおまけ付き!まさに魔法の調味料だね!」

「ふんっ!!」

「おぽっぽぉ!?!?」


思いっきり腹を蹴り、その体を倒す。

予想外の衝撃に驚いたのだろう。珍妙な声をあげ、ザラメやらなんやらをぶちまけて転ぶ変態。

と。私も変態のやり取りを見守っていた紫菜さんが、慌てて声を張り上げた。


「ちょっ、なにやってんですか!?」

「この変態、使っちゃいけないモンわたあめに混ぜてやがったんですよ」

「………はい?」

「あの瓶、多分ですけど、違法薬物のブレンドです」

「っ!?」


間違いない。瓶越しだが、何個か嗅いだことのある匂いがした。

これまで薬物を悪用する犯罪者は何度か出会したが、わたあめに混ぜるなんて奇行を働いたのは目の前の変態が初めてだ。

紫菜さんが愕然とする横で、変態がゆっくりと立ち上がる。


「な、なんて悪党なんだ…!子供の笑顔の邪魔をするなんて…!!」

「子供の笑顔守る前に法を守れ」

「法なんていう難しい言葉が並んでるだけのもので子供を笑顔にできる訳ないじゃないか!」

「余裕でできてるわタコ」

「ええいうるさい!!ぼくのわたあめを…子供達の笑顔を否定する悪党め!!」


頑なに自分を正当化し、私の主張を跳ね除ける変態。

悪党はどっちだよ、とツッコもうとした、その矢先。

変態は左腕につけた金ピカのわたあめ機から金の糸を飛ばし、私の右腕に巻きつけた。


「え、榎代さん!?」

「いった。なにこれ」

「どうだ、必殺『金のわたあめ糸』!この腕のわたあめ機には砂金を溶かして入れてるんだ!それを使えば君を拘束することもできるってわけさ!!」

「もったいない使い方すんなバカ」


私の指摘などもはや聞くつもりもないのだろう、次々と金の糸を放ち、私の四肢を拘束していく変態。

もっと別のことにこの技術を使え、と文句を垂れる暇もなく、私はあっという間に動きを封じられてしまった。


「さぁ、君もぼくのわたあめの虜にしてあげるよぉ!!」


好機だと思ったのだろう、先ほど袋にしまったわたあめを取り出し、伝説の剣のように構える変態。

どすどすと肉を揺らし駆けるそれを前に、私は声を張り上げた。


「紫菜さーん。この変態、いじめてもいいですよー」


その一言が合図となり、紫菜さんの瞳から光が消える。

私の開いた口にわたあめが突っ込まれる直前、独特な笑い声と飛び蹴りが変態の頬を穿った。


「きゃひゃひゃひひひひははははっ!!!」

「わたあめっ!?!?」


ばるん、ばるん、とバウンドし、アスファルトを転がって受け身を取る変態。

私を拘束した金の糸、さらには四肢に括り付けたわたあめ機を破壊しながら体勢を整える変態。彼はムカつくほどに澄み切った綺麗な瞳を、澱み切った瞳にハートを灯す紫菜さんに向けた。


「まさか、子供の笑顔を邪魔する鬼畜がまさか二人もいるとは…!!」

「きゃひ、きゃひひ、きゃひひひぃ…。重ォい肉の反動…、ゾクゾクするぅ…♡」

「セリフだけ見れば、後者が悪党にしか聞こえませんね」


だが、悪党は子供の笑顔がどうこう言って、子供に麻薬入りのわたあめを食わそうとする前者だ。言動が綺麗な分、タチが悪い。


「でも、負けるわけにはいかない!!ぼくは子供たちを笑顔にするんだぁ!!」

「子供たちにイケないお薬が混ざったわたあめを食べさせるようなブタが、一丁前に綺麗なこと言ってんじゃないわよォ」


一応は状況を把握していたのだろう。唯一無事だった、変態の頭に乗ったわたあめ機を蹴り上げる紫菜さん。

おそらく、それが愛用のわたあめ機だったのだろう。変態は軽くなった頭を手で触り、じんわりと涙を滲ませた。


「わ、わたあめ機が…、ぼくの自慢のわたあめ機がぁ…っ!笑顔を作るわたあめ機がぁ…!」


現実に耐えれず、慟哭する変態。発言の全てにツッコミどころしかない。

もはや聞くに耐えないレベルにまで達した譫言を繰り返す彼に、紫菜さんはもう一度足を振り上げた。


「うっさい」

「ぐべっっっ!?!?」


がぁんっ、と鉄槌の如き踵落としが変態の脳天に突き刺さる。

衝撃で声帯が掠れたのだろう。潰れたカエルのような悲鳴を漏らし、倒れる彼。

ぴくぴくと痙攣するそれを前に、紫菜さんは恍惚とした笑みを浮かべた。


「はぁぁあああ…っ♡!きもっ、ち、ぃいいいっ…♡!」

「うっわ、いたそー…」

「悪党を蹴るの、楽しいぃ…っ♡」

「子供たちが来たらそれやめてくださいね。私らが出禁になるんで」

「あら、残念」

「テンションの落差激しすぎません?」


コレとあと3時間も警備するのかぁ。

私はため息を吐き、スタンバイしていた警察を呼んだ。

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