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13話 世紀末都市「浪石町」 その1

「お主らの学友が危機に陥っとるのは伝わったわ。それで、なんでワシの店に集まっとるんじゃ?」

「ここだったら客少ないから余計な事件起きないって聞いて」

「ここだったら客少ないから余計な事件起きないだろと思って」

「客少ない言うな、気にしとるんじゃぞ」


公民館の掃除を終えて。私たちは叶さんが営む古物商にお邪魔して、『しな』なる学友の危機について会議を開いていた。

叶さんは会議の場に自分の店を選んだ理由が気に食わなかったらしく、不機嫌を訴えるように頬を膨らませている。1300歳とは思えない態度だ。

私たちはそれを無視し、会議を続ける。


「…で、教授に確認は?」

「あのバカに聞いたんだけど、『しな』って名前にある人がそこそこいるみたいで。おまけに『そもそもチャットアプリのハンドルネームだから、本名から取ってるのかもわかんないじゃん』って正論かまされた。腹立つ」

「……小魚チップス要るか?」

「なんで?」


嫌いじゃないし、もらうけど。

春香くんに差し出されたファミリーパックの小魚チップスを受け取り、ぽりぽりと摘む。

彼はもう一度携帯を開き、あの写真が表示されたそれを机に置いた。


「写真の場所を特定しようにも、これじゃあなぁ…」

「そもそも今から特定して間に合うの?」

「だからってほっとくわけにもいかんだろ」


場所さえわかれば警察も呼べるが、このチャットが来てから40分近く経っている。その間、しなという人物からチャットはない。

グループの中には私たちと同じ危惧を覚えた人も何人かいたようで、そのチャットグループ内で「しな」の正体を聞こうとしていた。

しかし、とうの「しな」はどうやらグループ内でも孤立していた人物だったらしく、誰も心当たりがないという。

あまりに情報がなく、「どうしたもんか」と頭を抱える春香くん。

と。叶さんが携帯を覗き込み、露骨に嫌そうな顔を見せた。


「うげ。これ『浪石(なみいし)』の病院か」


浪石。聞いたことがない地名だ。いや、そもそも地名なのだろうか。


「知ってんのか、曾祖母ちゃん?」

「知っとる知っとる。なんちゅうとこに行っとるんじゃ、その『しな』っちゅうやつ」

「なんかやばい心霊スポットとかですか?」

「いんや、もっとやばいの」

「もっとやばいの?」


叶さんが「やばい」というと、洒落にならないのだが。

嫌な予感に身構えていると、叶さんはあっけらかんと言い放った。


「あそこ、人を使った実験施設じゃぞ」


しん、と場が静まる。

今なんと言った?「人を使った実験施設」と言ったか?

情報を処理しきれなかったのだろう、春香くんが恐る恐る問いかける。


「………なんて?」

「人を使った実験施設じゃて。何を作ろうとしとるかは知らんが、第二次世界大戦が終わってすぐに捕まって、手足切り落とされてバラバラにされかけての。

旦那様に救い出されてなきゃ、今頃死んどったかもしれんのう」

「き、切り落とされてって…」

「大丈夫大丈夫。力めば生えるから」


力めば腕が生えるのか。う○こかよ。

そんなことを口にすれば確実に顰蹙を買うため、なんとか抑える。


「でも、それって第二次世界大戦が終わった直後の話なんだろ…?今も実験してたりするわけが…」

「しとるぞ。その写真の霊の数見りゃわかる」

「…見えませんけど」

「まぁ、ブレまくりじゃからの。お主らはよーく目を凝らさんと見えんじゃろ」

「そんなにいるのか?」

「おう。エグい見た目のやつが何人もな。何されとったんだか」


おえっ、とえずくふりをする叶さん。

1300年生きてる叶さんがドン引きするほどの霊とはいったい。


「…ってか、こんなやばいもん潰しとこうとかなりませんか?」

「何度か物理的に消し飛ばしとったわ。

しばらくしたら建て直されんくなったから流石にもう懲りたと思っておったが…、まさかまた建て直すとは」

「………それ、国が絡んでたりしませんよね?」

「国ってか、一部のお偉いさんじゃな。裏で一般的な倫理全部無視できるくらいの権力者」

「はぁああ………」


そういう類だと思った。

深いため息を吐き、眉間の皺をほぐす。

これだけは使いたくなかったが、仕方ない。私は携帯を取り出し、電話をかける。


「どこにかけとるんじゃ?」

「妹」

「初音か?」

「違う。三女」


初音にこれをどうにかできる頭はない。

三女は9時から用事があると言っていたから、今ならまだ連絡がつくだろう。

しばらく応答を待っていると、3コール目あたりで電話が繋がった。


「あ、もしもしキリエ。できたら今日中にやって欲しいお願いがあるんだけど…」

『浪石でしょー?りょーかーい、ばっち丸裸しとくねー』

「え?聞いてた?」


間延びした、気だるげでいて可憐な声。

三女…榎代 キリエが放った「全部わかってますよ」とでも言いたげな言葉に、思わず問いかける。


『うぃー。初音っちがねー、ももちーが変わったことすると絶対面倒なことになるから見とけーって。そんであーしのスマホとももちーのスマホハッキングで繋げてたのー』

「……話が早くてありがたいんですが、お姉ちゃん、事前に相談してほしかったかなー…」

『初音っちが「ももちーが知ったらうだうだ文句言うから言うな」ってー』

「…………」


流石は姉妹。私のことをよくわかっている。


「…用事があるんなら後回しにしてもいいですからね」

『いーよー、イベントまでにはぜーんぶ魚拓取れるし』

「あ、うん。じゃ、おねがいします…」

『じゃ、夏コミ軍資金よろしくー』

「…………あい」


これだからキリエに頼むのは嫌だったんだ。おかげで財布が無理なダイエットをする羽目になった。

今度のイベントで彼女の性癖に刺さる同人誌が出ないことを祈ろう。


「さて。権力云々に関しては手を打ちましたし、現場に行ってきますね。

国絡みとなると、どーせ警察に連絡しても動きやしないでしょうし」

「なんちゅう家族じゃ」

「末恐ろしいな…」

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