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10話 世紀末都市「二雲町」 エピローグ

その5.結論


行方不明者の増加と「さんづさん」。これらに関連性があるのかはわからない。


【雑誌の一部を切り抜いた、山に赤い点が散らばった地図】


だが、このように行方不明事件は決まって山の近くで起きているというデータもある。「さんづさん」なる存在は実在しているのかも知れないが、その真相とそれを知るものは、この山の中に消えていった。


私も姉も、ここの生まれである父から「山に絶対に近寄るな。さんづさんに持ってるなにもかもを奪われる」と、この歳になっても口酸っぱく言われている。


この町の闇が暴かれる日がくるのか、私にはわからない。


だが、この論文が町一つ覆う闇を暴く人間の一助となれば幸いだ。


♦︎♦︎♦︎♦︎


「おっちゃん。弟子にしてください」

「しねーわ。兄貴にどやされる」


百華は夢を見ていた。

それは、15年前の思い出。まだ5歳の百華は、腕っぷしの強さで有名な叔父に頭を下げ、教えをこうていた。

叔父はそれを突っぱねるも、百華は引き下がらず頭を下げ続ける。


「おねがいします。弟子にしてください」

「………何があった?」


生まれながらのものぐさで知られる姪が、必死になって自分に頼み事をしている。

その不自然さが気になった叔父が問うと、百華は顔を歪ませ、答えた。


「…はつねが、うたれた」

「…………」


逃げてきた銀行強盗に人質として姉妹ともども攫われ、銃を突きつけられた。

結果的に銀行強盗は捕まったものの、最後の抵抗として放った流れ弾が妹の頬を掠めた。

幸い、痕が残るような傷ではなかった。

だが、その怪我が自分を庇ってのものだという事実がどうしても胸につっかえて、飲み込めなかった。

初音とはそこまで歳が離れているわけじゃない。だが、それでも姉であることには変わりない。守る立場であることには変わりない。


「…………まもれなかった」

「んな責任感じることか。まだ5歳のガキンチョだろ、お前」

「………………」


叔父の言うことはもっともだ。

世界を知り始めた5歳の頭でもわかる。

子供はあまりにも無力だ。その無力に責任を感じる必要などない。

だが、幸か不幸か、聡く生まれてしまった百華はそうは思えなかった。

妹の頬に走る赤い筋が瞼に焼き付いている。撃たれた時の銃声と、頬を抑えて泣き叫ぶ妹の声が耳にこびりついて鳴り止まない。

力が欲しかった。叔父のように、弾丸をものともしないような力が。

可愛い弟妹たちを守れるように。自分が胸を張って姉だと言えるように。

その覚悟が伝わったのだろうか。百華の叔父は深いため息を吐き、彼女の頭を乱暴に撫でた。


「……わぁーった、わーったよ。

おっちゃんくらい…、いや。それよりもっと強くしてやる」

「ほんと?」

「おうよ。死ぬほどキツいが、めんどいとか言って途中で放り出すなよ」

「うん。がんばる」


百華が心から「頑張ろう」と思えたのは、これが初めてだった。


♦︎♦︎♦︎♦︎


『次はー、大宮ー、大宮ー』

「………んぁ゛っ!?」


慣れたアナウンスが聞こえ、反射的に意識が浮上する。

今日は鼓膜が仕事をしてくれたらしい。おかげで、夢の中のセンチメンタルな気分が消し飛び、焦りが胸に広がる。

大宮は中途半端に田舎なせいで、通退勤時でない限り、どの路線も電車が1時間に一本と本数が終わり散らしてるのだ。つまり、寝過ごせば大惨事確定。

工業団地あるんだぞ。もう少し本数増やせ。

そんな文句を並べつつ、降りる準備を済ませる。


「…結局、大した成果無し、と」


バケモノを倒した後、私は全ての後始末を叶さんに任せて帰ることにした。

叶さんのひ孫2人は大事をとって入院、散らばった遺体は警察に知らせ、回収してもらうとのこと。

正直、何の成果も得られていない状況で帰りたくなかったが、「こんだけ死体があるんじゃ。警官わらわらでろくに調査なんてできんじゃろ」とぐうの音も出ない意見を前に折れてしまった。


あのバカ教授のことだ。神隠しの原因だったバケモンを倒しました、終わり。…で済むわけがない。

写真でも撮っとけばよかったか。

…いや、ああいうのは写らないのがオチだ。


『大宮、大宮ー』


どうしたもんか、と悩んでいるうちにも電車が進み、降りる駅に着く。

そろそろ晩ご飯だし、フードコードでなんか食べて帰るか。それとも、駅前の商店街でいい店を見繕うか。

そんな現実逃避など許さないと言わんばかりに、携帯が鳴り響いた。


「うげっ」


あのバカだ。できればブッチしたい。

しかし、出なければ後が怖い。

しばし葛藤した後、私は5回目のコール音が鳴り終わるかどうかのタイミングで通話ボタンを押す。


「………もしもし」

『キミっ!久遠寺 叶さんとどういう関係!?』

「うわっ、うるさっ」


鼻声で喉も痛いだろうに、そう声を張り上げていいのだろうか。

げほげほと電話の向こうで咳き込む教授に、私はしばし悩んだ後、答える。


「……命の恩人?」

『ど、どっちが?』

「こっちが」

『……………うそ?』

「ほんと」

『………だーーーーっ!!都合の良いバイト手に入ったと思ったのにーーーーーッ!!』

「寝てろ。土の中で」


おうこら。ちょっとは繕え。

悔しげに叫ぶ教授に青筋を立て、私は語気を強めた。


「で、そっちは叶さんとどういうご関係で?」

『彼女の旦那さんが民俗学界隈のレジェンドでボクの恩師なの!ボク、逆らえないの!!』

「なに言われたんです?」

『さっき電話きて、「自分の不勉強を棚に上げて単位を人質に取り、学生を好きなようにこき使うのはどうかと思いますよ」って…』

「普通に正論っすよ」

『ゔ、ゔぅゔゔ………、ちくしょぉ…』


こいつ、ちっとも懲りてないな。

私を利用できなくなると知れば諦めがつくと一瞬でも思ったが、この悔しがりようを見るに、単身で危険地帯に突っ込みかねない。

正直、見捨ててもいいのだが、あとで遺体で見つかったなんてニュースが出ても困る。

唸る教授に、私はため息混じりに口を開く。


「…命の危険がありそうな調査なら同行しますから。一回一万で」

『…………ほんと?』

「内容にもよりますけど」

『やったーちょろーーーーいっ!!』

「殺すぞ」


思ってても言うな。

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