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1話 神の跡、邂逅

「…っ、っ、ふっ、ふっ、っ、っ、ふっ、ふっ」


風を切って走る。

周りの景色が目紛しく変わり、40秒と立たない内に一周する。


何度も、何度も、繰り返される。


「ふう…30分終わり!今日は…50周!よし!」


昨日は48周だったので、2周増えた。

早朝から30分、この島を周回するのが、研刃(とぎば)小幸(こゆき)の日課だった。


「お風呂行こっと」


この島は、大災の前の時代、海底火山の噴火によって出来た。

人の手が入ってから直ぐに大災が起こったため元々田舎で、復興も都市部に比べると比較的進んでいない。


小幸はそんな島に引っ越してきてもう直ぐ2年。

今ではすっかり此処の生活に慣れた。


「あ。」


小幸の家の前に、腰の曲がった老婆が立っている。


「どうしたんですか?春さん。」

「おお、小幸ちゃん。ランニングお疲れ様。実はね、この前和宏が来たんだけど、そのときに大量にみかんを置いて行ったのさ。私1人じゃとても食べきれないよね。だからちょっとだけ受け取ってくれないか?」

「一旦、その箱持ちますよ」


老婆は大きな箱を重そうに抱えているので、小幸が代わりに持つ。


「良いんですか?こんなに大量に…」

「良いよ。小幸ちゃんにはいつも助けてもらってるしねえ。こういうところで恩を返して置くのが礼儀ってもんなのさ。」

「はは、大袈裟ですよ…でも、ありがとうございます!嬉しいです!」


小幸はとびきりの笑顔を老婆に向ける。


「相変わらず元気だねえ。健康には気をつけるんだよ。」

「はい!」

「じゃあね」

「さようなら!」


老婆が去ると、小幸は箱を持って家の中に入る。

家の中には誰もいない。

小幸はシャワーを浴びて、勉強を済ませ、朝ご飯を食べる。

そのまま外に出て、見回りをする。

困っている人が居たら、その助けになる為だ。

住宅地や公園などを重点的に回る。


「おっ、小幸ちゃん」

「あ。珠子さん。どうしたんですか?」


顔に皺のある女性が小幸に近づいて来る。


「いやー、ちょっと私ねえ、昨日あそこの山頂でキャンプしたんだけど、そこに水筒忘れちゃってさあ。小幸ちゃん、取りに行ってくれない?何か、入ろうとしたら警察に止められちゃってさあ」

「…はい!良いですよ!」

「ありがとねー、小幸ちゃん」


小幸の胸の中に何か嫌な感覚が起こる。

警察に止められたという部分。

何かが山の中で起きているのだろうか。


「調べなきゃ…」






_「入り口は…ダメそう…」


登山道入り口に警官が立って、来た人を追い返している。

恐らく、単純に山登りに来た者以外にも、野次馬が居るのだろう。

結構な人の多さだ。

つい先ほど、通行人に聞いた話だと、熊が登山道に出たので、危ないと言って追い返されたらしい。


(ま、いっか。)


登山道入り口から離れた崖を登ればバレない。

事件解決後ならともかく、事件解決前に見つかってしまっては警察の邪魔にしかならない。

小幸はなるべく警官に視認されないように、その場を後にした。

そのまま10秒とかからずに崖近くまで着く。


「よし…」


助走を付けて跳び、崖から出っ張った岩に足を掛けてそのまま再び跳ぶ。

一気に崖の上まで登り切った小幸は辺りを見回した。


「…本当にこんな所に居るんですかね」

(…!)


声が聞こえて慌てて木の影に姿を隠す。

息を止めて、思考を消す。


「此処は〔土神〕さんの家がある島ですよね。分かってて此処に逃げる阿呆とか居ます?」

「実際、そういう報告があったんだ。今は〔土神〕もいないらしいしな。まあ、逃げ場所を選ぶ余裕なんてなかっただろ。あいつらも。魂単体の奴はともかく、肉体持ちは、どっかしら陸地を見つけて潜伏する必要があるしな。」

「…そうですか。」


男2人はそう言って、小幸の方に近づいてくる。

小幸は息を止めたまま音もなく木を登って、そのまま男たちの上を通過。

そのまま木に張り付いていた。

眼を下に向けつつ、思考を消す。


「…合流するか。〔コールド〕のことも心配だしな。」

「人手不足とはいえ、学生を使うのってどうなんですかね…」

「本当にな」


男たちが去っていく。

十分な距離が空いたのを確認して、小幸は木から降りる。

そのまま跡をつけるためだ。


(…何か、警察っぽいこと言ってたな。あの人たち)


だが、警察だとしたら、おかしい点がある。

2人とも、フード付きの黒ローブだった。

いや、服装が警官らしくないことはこの際どうでも良い。

問題は学生を使っていると言っていたことだ。

警察が事件現場に学生を入れるなんてあり得ない。


(警察とは別の秘匿された公的機関か、それに類する何かの可能性が高いかな…)


入り口の警官の警察手帳を確認すれば、よりはっきりするだろう。


(ただ…盗るのはな…バレずにやるのはめんどくさいし、バレたら私、顔覚えられてる可能性あるからな…あと、単純に迷惑だし)


黒服たちが、警察側にせよ、犯罪者側にせよ、見つかったらマズイことに変わりはないのだ。

もっと会話を聞いて、情報を得る方が良いだろう。

そうして、小幸は黒服たちの跡をしばらくつけた。

しかし、突然黒服たちが腰を落とした。

完全に臨戦態勢だった。


(…!バレたかな)


小幸は一瞬そう思ったが、違った。


「がっ…」


黒服の内、1人の体が宙を舞った。

まるで、念力か何かで頭から引っ張られたようだった。


(…っ!?何が起こったの?)


何も分からない。

小幸が今持っている知識では絶対に説明のしようもないことだということは、直ぐに分かった。

小幸は咄嗟に周りを見回しながら、後ろに大きく跳ぶ。

先ほどの現象を説明できそうなものは辺りには無い。


(しょうがないけど、此処は逃げるしかないか…!)


原因が分かっていない以上、先ほどの現象を対策しようもない。

小幸は一度、その場を後にした。






_「〔コールド〕!居るか?居たら返事をしてくれ!」


山に女性の声が響く。


「…誰だ?」


〔セイル〕が声を上げる。

今回の任務に女性は同行していない。


「……」


〔コールド〕は黙って考えている。

頭が懐疑で支配されている。


(誰なんですか…なんで、僕の名前を…)

「〔コールド〕君…僕が確認してきます。君は…ちょっと、離れて着いて来てください。」

「…は、はい」


〔コールド〕は言われた通り、少し距離を空けて〔セイル〕に着いて行く。

そうしてしばらく歩いた。


「声がしたのは…この辺りだったはずですが…」


〔セイル〕がそう言って、辺りを見回しながら歩き続ける。


「……っ」


何か、焦りにも似た感情が湧いて来た。

その時だった。

〔コールド〕の口を誰かが塞ぐ。

そのまま〔コールド〕を抱えて、音も無くその場を去る。

〔セイル〕はこちらに気づいていない。


「…!?…ん!」


声を必死で上げようとしても、もう遅かった。

〔セイル〕の姿はとっくに見えなくなっている。

〔コールド〕は後ろから口を抑えられたまま地面に倒される。


「ごめんね!ちょっと聞きたいんだけど、あなたたち政府側?政府側だったら縦に首振って」


尋ねられて、〔コールド〕はほぼ反射的に首を縦に振る。


「そっか。じゃあ、叫んだりしないで、私の質問に答えて」

「…!」


首を横に振ろうとした。

振れなかった。

心にまとわりつくような、強い強迫観念。


「大丈夫!あなたたちが人助けをしようとしてるんだったら、私にも手伝わせて欲しいだけだよ!」


少女の言葉は本心だった。

息苦しさを孕んだ渇望を、湧き上がらせる声音。

〔コールド〕は耐えかねて、首を縦に振った。


「ありがとう!」


そう言って少女は〔コールド〕の口から手を外す。


「…ぷはっ!」

「あ、ごめんなさい!苦しかったよね。流石に」


少女は〔コールド〕の前に移動し、謝罪する。


「それで、早速なんだけど…あなたたちは何をしようとしてるの?」

「…っ、僕らは、この島に逃げた犯罪者を追って…此処に来た…」

「それだけだったら、熊が出たっていう言い訳は必要ないんだよね?なんで熊が出たなんて言ってるの?」

「……っ」


此処から先は一般人に知られてはいけない領域だ。

それでも、尋常ならざる息苦しさが、〔コールド〕に黙秘を許さなかった。


「魂…」

「魂?」

「魂が…犯罪者たちの中に居たから…」


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