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8話 VSオークキング

「シャァァァ!」


 巨大な斧を片手で簡単に振り回し、見た目よりも俊敏な動きでオークキングはティアモに斬撃を繰り出し続けた。


「っ!」


 一撃でも当たれば致命傷を負いかねない攻撃を、持ち前の身のこなしでかろうじて避ける。


「フン!避けるのが精一杯でどうやら反撃もままならんようだな。だが何時まで持つかな?お仲間の助けなら期待出来んぞ」


 オークキングの視線の先にはオークの大群と1人で戦うサラの姿。2人は分散されていて、助けに入れない状況となってしまう。


「ハァッ……!」


 ティアモは相当体力を消耗しているようで、動きは鈍ってきた。そのせいかオークキングに、先程から一撃も浴びせていない状態が続く。


「限界か!ウォォォ!!」


「!」


 大きく斧を振り上げるモーションを見せれば、そこからティアモへと向かって力任せに振り下ろす。彼女の方はバックステップで躱していた。


「わぁぁっ!」


 だが、振り下ろされた斧は大地を叩きつけると、地面が割れると同時に衝撃波が発生。ティアモはそれに吹き飛ばされ、仰向けの状態で倒れてしまう。



「ティアモさん!」


 勇者の危機を目の当たりにして、ガットは側に駆け寄ろうとするがシャイカの手が彼の手をガシッと掴み、ティアモの所へ行く事を許さなかった。


「貴方は動いては駄目です」


「でもあのままじゃ!」


 ティアモのピンチを見ても、シャイカは動かずガットの身を最優先していた。



「くぅ……!」


 上半身を起こすだけで立ち上がれず、迫り来るオークキングを見上げるぐらいしか、ティアモには出来なかった。


「限界のようだな勇者よ。今楽にしてやろう!」


 ティアモの状態を見て、勝ったとオークキングは確信からニヤッと笑う。そして先程と同じ一撃を再び与えようと、再度斧を振り上げる。



「はい、隙見ーっけっと!」


 振り下ろそうとした刹那、何事も無かったかのようにティアモが素早く立ち上がる。斧を振り上げた事で、ガラ空きとなったオークキングの右脇腹を狙い、すれ違いざまに右手に持った剣で横へと斬り裂く。


「ガハァ!?」


 無防備だった部分を斬られ、痛みと共に吐血していた。人間の赤い血と違って、オークの紫色の血が右脇腹から流れ出ていく。


「馬鹿な……貴様、限界間近だったはずだろう……!?」


 片膝をついて斬られた右脇腹を苦しそうに抑えながら、今は疲労もしてなくて、衝撃波のダメージも無さそうなティアモを見た。


「あれ?ただのお芝居だよ。君タフそうでまともに戦ったら面倒そうだから、弱ってるフリして隙を探ってたんだー♪」


「し、芝居だと……!?」


 今までオークキングが見ていた、ティアモの辛そうな様子。それが全てただの芝居で油断させる為の物で、勇者は陽気に笑う。


「まさか本気で追い詰めたとか勘違いしてた?僕そこまで弱くないんだけどね」


 追い詰めたはずが追い詰められていた。深手を負いながらオークキングは内心焦り、何か打開策は無いかと考える。するとティアモの後方に居るガットとシャイカの姿に気付く。


 相手は仲間を大切にする勇者だ。力の弱い仲間を人質にするば、何も出来なくなるだろうと悪知恵を働かせた。近くのオークにガット達を襲うよう、こっそりと目で合図を送る。


「ニンゲン!!」


 一匹のオークが2人に向かって突進。


「わぁ!?」


 突然恐ろしい魔物が迫って来たのを見て、ガットは驚きと共に恐怖が襲う。


「セイントアロー!」


「グッ……」


 ガットを左手で抱きながら、シャイカが青い杖を右手に持てば、先端を向けるとそこから光の矢が複数発射される。オークの体に光の矢が食い込めば、仰向けにズズーンと豪快に倒れて動かなくなっていた。


「迷える魂よ、神の下で安らかに眠りたまえ」


 オークをあっさりと葬ったシャイカが、亡骸に対して十字を切って祈りを捧げる。


「し、シャイカさん……?」


 最初は戦闘が苦手と言っていたシャイカ。それが今オークをいとも簡単に倒し、ガットは呆然とする。


「ああ、私戦闘はやや不得意なだけで出来ないとは言ってませんから」


 呆然とする彼を安心させるように、シャイカはにっこりと微笑んでいた。


「やーれやれ、か弱い皮をかぶってよく騙されるんだよなぁ。本当はとんでもねぇ悪ーい聖女様だって事に」


 一方オークの大群と戦っていたサラの方は、最後の1体を大剣で薙ぎ払うように横へ一振り。大剣を振ってるとは思えないスピードでオークの胴体が斬り裂かれ、地に沈む。


「良かったなぁおい?まだ優しい戦士の方が相手でよ」


 物言わぬ魔物を見下ろし、サラは不敵に笑えば大剣を片手で上空に放り投げる。落ちて行った剣は右手に持つ鞘へと、綺麗に収まっていった。



「バカ……な……!?」


「侮り過ぎだったねぇ?僕の仲間そんなヤワじゃないからさ」


 不意打ちが失敗しただけでなく、下僕のオーク軍団まで全滅。完全に詰んだオークキングに対して、ティアモは見下ろしていた。


「ま、待て!俺が……悪かった。もう人間を襲ったりとかしない!だから見逃して……」


 先程まで自らが世界の王になるという、野心溢れる姿から一転。獲物であるはずの人間に命乞いをして、助かろうと惨めな姿を晒す。


 ティアモが右手に持っていた剣を鞘に収める。その姿を見て、助かったとオークキングが内心ほくそ笑んだ時。



「は?嫌ですけど?」


「!?」


 冷酷な目でオークキングを見下ろすティアモ。頭上には赤い肌と赤い髪、赤い衣装と周囲に炎を纏った美女が現れる。彼女が炎の精霊サラマンダーだ。


 女勇者の右掌にはサラマンダーの加護によって、炎が灯される。助かったと思った魔物の顔が、分かりやすく青ざめていく。


「散々人を痛めつけて好き勝手してたと思うし。罪を償いたいなら、あの世で勝手にどうぞ償ってくださーい♪」


「ひ……!?ギャァァァーーー!!!!」


 許しを請うオークキングに向かって、勇者は火を放つ。巨体は炎によって全身が焼かれ、想像を絶する痛みと苦しさに魔物は絶叫を上げていた。


 それは完全に身を焼き尽くされるまで続き、聞こえなくなった頃にはオークキングの姿は無く、持っていた斧だけがその場に残される。


「おうティアモ、こっちも終わったぜー」


「ん。じゃあ下がっててー」


 サラがティアモに向かって軽く右手を上げれば、女戦士の周囲には大勢のオークが倒れ伏していた。ティアモは下がるよう伝えれば、サラがオークから距離を取った後に先程と同様、右掌に炎を灯せば倒れているオーク達に向かって放つ。


 魔物達の体は焼き尽くされ、炎が収まった時には大地に焦げ跡だけが残る。



「怖いこわーい、流石は勇者って所かなぁ」


 同じ頃、上空を舞うコウモリのような羽を生やした、緑髪の美女は地上の戦いを見ていたが、やがて何処かへ飛び去って行った。


 今の戦いが全て彼女に見られていた事は、ガットやティアモ達が知る由もない……。

次回はガット達がお城に向かう話です。

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