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最終話 彼は秘密を抱えて旅立つ

「魔王サーヴィス、倒れました」


「ふうん?」


 暗い洞穴にある玉座へ腰掛けるサキュバス、シャーリーの前に部下のヴォレットが跪いて報告していた。


 彼女達は主である魔王の危機にも関わらず、駆けつけなかった上に死を聞いても、動揺や悲しみといった感情は全く無い。


「本当にやってくれるとは、あの時感じた魔法力は本物だったって訳か」


 シャーリーはガットの魔法特訓を空から眺め、そこで彼女は感じ取ったのだ。彼の中に眠る底知れない力を。


「それが完全に覚醒すれば、多分サーヴィスも勝てない。そう考えたけど……予想通りだったね」


「はっ、あの少年を利用して魔王を上手く滅ぼしてしまうとは……このヴォレット、感服いたしました」


 途中までシャーリーは勇者一行を消そうと、全力を尽くしていたが彼女はガットと接したり彼の特訓を見て、計画を思いついた。


 影武者の魔王に勇者一行は厄介なので消すべきと伝え、重い腰を上げさせて魔王から分断させる。そして影武者の死、そこから魔王の方が動き出して、前から自分を嗅ぎ回っていたレノムを魔族の仲間に仕立て上げ、オルスタ王国に不穏な空気を流れさせて勇者達を誘き寄せようと企む。


 そして勇者一行は姿を見せて魔王と対面。そこでガットが魔王の力に目覚め、サーヴィスを葬り去った。


「彼が前の魔王デモーニの息子なのは驚いたし、突然変異なのか知らないけど信じられない魔法力がその場にいなくても感じたからね」


「確かに上空から見て私もゾクッとなりました。まさかそれがサーヴィスを圧倒する程までとは」


「まぁでも、これで趣味悪くて嫌な魔王の呪縛からは解き放たれたし。あたしらも自由だよねー」


 玉座に座りながらも解放感から、シャーリーはうーんと腕を伸ばす。


 彼女はサーヴィスに対して忠誠心は無い。力の強い者に従っていただけで魔王としては慕っていなかった。そのシャーリーにヴォレットもついて行き、共に魔王を裏切っていたのだ。



「とりあえず、あの子は色々と美味しそうだから底知れぬ魔力と共に是非食べないとね……?」


「はっ……彼を思い出す度に私も体が火照ってきます」


 サキュバス達はそれぞれ怪しげな笑みを見せ、獲物を狩る目に変わる。これから新たに企むのはガット1人に狙いを定め、彼を手に入れる事だった。




「うーん……」


 ガットは全身が包まれている感覚がした。


 とても心地良くて暖かく、このままずっと包まれて眠り続けたい。自分をそんな誘惑に誘い、再び深く眠りに落とされそうになるが彼の意識は明るい光に昇っていく。



「んむ……!?」


 気づくと彼はベッドの上で寝ていて、2人の美女にガッチリと抱き締められていた。ティアモもシャイカである。


 特にシャイカは自らの豊かな胸をガットの顔に押しつけ、より密着している状態だ。


 それも彼や彼女達、3人とも衣服を何も着てない状態で。


「む〜〜〜!?」


 ガットは顔面を真っ赤にしながら、手足をバタつかせようとするが、しっかり抱き締められている彼女達の拘束はビクともしない。そして彼女達も熟睡状態で起きる気配が無かった。


 結局ガットは彼女達が起きるまで、動く事は出来ず柔らかい感触と甘い匂いに包まれていた。




「とまぁ、そういう訳でお前は数日ぐらい眠っていたんだ」


 ガットはようやく起きる事が出来て、普段の服装に着替えるとセリーザから自分が倒れた時の事を教えてもらう。


「……」


 それだけでなく、自分が魔王サーヴィスを倒したんだと告げれるとガットは自らの右掌をじっと見た。


 何時も通りの頼りない小さな手で女性よりも小さい。それでもこの手でガットは災厄を滅ぼした、これは揺るぎない事実だ。


「私も驚きましたわ。まさかガット君にあれ程の魔法力があったとは……おそらく、歴代の魔法使いの誰よりも優れていると思います」


 優れた魔法使いの名門、ロックウェルの血筋であるマーヴェルから見てもガットはズバ抜けている。人間ではない事を差し引いたとしても、異常なまでの高さだった。


「まぁでも、めでたい!なんにせよガットが魔王を倒したんだ。お前が英雄だよ」


 胸を張れと、サラはガットの背中を軽く叩く。細かい事は考えず、今は本当の魔王を倒した喜びを味わおうと言ってるようだ。


 だが当の本人の表情は暗く、魔王を倒して浮かれてるようには到底思えなかった。


「おいおいどうしたんだいガット君?君のおかげで僕達は助かったし、生き延びる事が出来たんだ」


「そうです。今日ぐらい浮かれても神は咎めはしませんからね」


 そこにティアモとシャイカが声を掛けるも、彼の表情は晴れないままだ。



「……僕は、人間じゃなくてキャットヒューマンだった。その秘密を抱えて生きて来ました。でも……」


 ガットの声は震え、体も震わせていた。


「本当はそれでもなくて、キャットヒューマンと魔族の間に生まれた魔王だったんですよ……!」


「……」


 サーヴィスがガットに事実を告げた時、彼女達も話は聞いていた。いずれも衝撃は受けて、何より一番信じられなかったのはガット本人だろう。


 キャットヒューマンである事がバレたら大変な事になる、とずっと思っていたのが実は魔王の血を受け継ぐ者だった。これが世間で知られれば大事なのは確実だ。



「……僕はこれ以上、皆さんと一緒にいられません。魔王が……皆と一緒に居たら駄目なので」


 ガットは皆と此処でお別れだと告げて背を向ける。


 自分が恐ろしいと思った。あのサーヴィスを葬る力が、もしも彼女達の方に向けてしまったら。それで迷惑をかける前に、自ら姿を消す事にしたのだ。


 人里離れた場所でこれからどう生きるかを考えようと。



「何で魔王と一緒に居たら駄目なのかな?」


「え」


 そこにティアモが静かに語りかけて来た。


「君のお父さんは魔王だった。けど違う種族のお母さんと結ばれた、そしてガット君が生まれた。つまり魔王も誰かと共に居ていいって事じゃないかな?」


 ガットの父親デモーニ。彼も魔王と呼ばれたが、彼はキャットヒューマンの女性と結ばれた例外を作っている。ティアモはそれを持ち込み、魔王がそうだとは限らない事をガットに伝えた。


「そうですね。ガット君の力が何にせよ、私達や人々を救った事に変わりはありませんから」


 魔王が世界を救った、それは神も善行てして見てくれるだろうとシャイカは聖女として祈りを捧げる。


「メルシャの愛した者だ。魔王だからと言って、その者自身が悪い訳ではない。悪いと思い込んでいるだけに過ぎない、と私は思う」


 ガットの母メルシャにかつてセリーザは助けられた。その時の彼女を思えば、その間に出来た子供のガットを見れば悪い存在ではないだろうと考えていた。


「その力が暴走したら私自ら捻じ伏せてみせますわ。それぐらい私も強くなりますし、頼りなさい」


 マーヴェルは自信満々な表情で扇を扇ぐ。彼女は魔物を憎み、復讐するかのように奴隷にして地獄を見せていたが、ガット達との出会いによって変わっていったようだ。


「なんつーか、あれだ。お前が魔王とか関係ねぇだろ!ガットはガット!お前が俺らや国を救った!それで良いだろ!?」


 気の利いた言葉がサラには見つからなかったので、思った言葉を直接ガットにぶつけていく。



「っ……ありがとう……ございます……!」


 彼女達の優しさがガットに突き刺さり、彼は涙を流して号泣してしまう。


 自分は離れる必要は無い、皆と居て良いんだと気づかされて安心からか涙は止まらない。


 泣いてる1人の少年を美女達は囲んで、それぞれ慰めていた。




「……色々あったが、俺は騎士に戻れるらしい。国は色々とこれから大変になってくるがな。何しろ王が既に死んでいて主不在の状態だ」


 オルスタ王のいなくなった玉座が寂しげに見える王の間。そこで一行はレノム達と会って、これからについて伝えられる。


「俺もレノム騎士団長を支えて、これから頑張ってくよ。皆には本当感謝している!」


 プレインはレノムの傍らに控えており、彼の右腕として国の復興に力を尽くすようだ。


「案外あんたが王になって国を支えたりとかありそうじゃねぇ?」


「確かに、レノムさんは人一倍国を愛してますから」


「フン……俺は王などガラではない。騎士として守る方が性に合っている」


 サラとシャイカがレノムが国王になれば良いと、揃って提案するもレノムにその気は無く、彼は生涯騎士として支えたいと考えている。


「それに、俺が王となるにはあまりに視野が狭過ぎた。単純な事を見失い、見ようとしていなかったからな……」


 そう言うレノムの目はガットに向いていた。


「魔物や魔族、全てが悪い訳ではないのだと」


「!あの……」


「心配するな。公にする気は無い」


 レノムもガットが人間ではないと気づいていたが、彼は皆に言わないと誓う。


「時間はかなりかかるかもしれないが、魔物達も人々と共に関係なく暮らせる世界を……目指してみようと思う」


「……!ありがとうございます!」


 照れが入りながらもレノムがそう言い切ったのを聞くと、ガットは彼に頭を下げて礼を言う。自分やティーナ達を世間が受け入れてくれる世界へ、一歩前進出来た事が嬉しく思えた。




「さて、ガット君。これからどうしたいのかな?」


 オルスタ城を出ると、ティアモはガットにこれからの目的について聞く。


「お母さんを探します。サーヴィスはお父さんを殺したとは言ったけど、お母さんを殺したとは言ってないですから。多分生きてて何処かにいるかもしれないので」


「そうか……奴がその手で下したとなれば、絶望を与える為に言いそうだからな」


 セリーザはサーヴィスの性格を、言動を思い出す。ガットを絶望に叩き込む為に散々煽るような事を言う魔族だ。確実にショックを受けるであろう事を言わなかったのは、彼が手を下していない可能性がある。


 なのでガットはその希望を信じて、母を探す決意を固めたのだった。



「なら僕も行こうか。お母さんには是非ご挨拶したいからね」


「お母様には将来お世話になるので、私も探し出して挨拶を済ませないといけません!」


「ガットのお袋さんにはちゃんと挨拶しなきゃ駄目だろうー」


 勇者達3人はそれぞれ、ガットと結ばれて家族となるであろうと考えて会いたいと申し出る。


「リーダーは私ですわ。貴方はその一員、なので貴方が行く所に私も行くのは当然です」


「メルシャは元々私も探そうとしていたんだ。なら当然一緒に行くぞガット」


 マーヴェル、セリーザも続いてガットと共に行く事を改めて告げて意思を示す。結局変わらずまた皆と行動を共にするようだ。



「じゃあ……行きましょうか、っと?」


 その時、ガットの足元がふらつく。倒れそうになるとガットは美女達に支えられる。


「まだ万全じゃないみたいだね。これはゆっくりじっくり休まないと」


「そうですね。とりあえず……三日三晩ぐらいは」


「良いな、そうと決まりゃ善は急げだ!」


「私宿屋を手配しておきますわ。無論スイートルームで」


「ガット、おぶってやろう。無理せずゆっくり休もう」



「(あ、あれ?何か……ヤバい感じ?)」


 魔王の時以上に危ない感じが一瞬したが、そんな訳ないだろうとガットは気の所為だと思う事にした。


 この後彼がちゃんと旅立てたかどうかは神のみぞ知るだ……。




 秘密を抱えた僕 〜秘密を知られたら美女達が物凄く迫って来て大変な事に!〜


 完

此処まで見ていただきありがとうございます。


今回でこの話は完結を迎えられました。見ていただいた読者の方々のおかげで走り切り、深く感謝申し上げます!

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