62話 大きな賭け
「オルスタ……国王!?そんな馬鹿な!」
騎士として最優先して守らなければならない存在。それが犯人かもしれないと、騎士団長の口から告げられれば、プレインは信じられないと声を荒げる。
ガットの頭に穏やかながら、威厳ある国王の姿が蘇る。彼がレノムを罠に嵌めた可能性など、考えもしなかったので衝撃が走っていた。
「何か……訳があるんじゃありません?主をそうやって疑うような事が」
マーヴェルは冷静さを保ち、レノムにオルスタ王がそうする根拠について聞く。
「あの方は……以前と何処か違う」
「以前と?」
「元々俺は幼い頃からオルスタ王と面識があり、良くしていただいた。あの方は優しく強く……気高い」
そう語るレノムからは、オルスタ王に対する強い忠誠心が感じられた。それがどう疑いに繋がるのか、ガットは彼の話を聞くことにより集中する。
「この人を守ろう。この人が守る国を俺も守ろう……そう思い、ひたすら剣を、己を磨き続けて来た。だが……俺が騎士団長となって間もない頃だ」
「他国へ会議の為に向かい、帰って来た時……あの人から、影のような物を感じるようになった」
信頼し、尊敬する王に、何か不思議とドス黒い物がレノムから見えてしまう。
「しかし、振る舞いや言動は何時も通り。ただの俺の気の所為と思ったが……丁度その頃ぐらいだ。人を襲う魔物の数が急速に拡大していったのは」
「それは……つまりオルスタ王が数の増える魔物と関係してるって事になるよね?」
偶然、だがそれにしては結構重なっている。オルスタ王が何か関係しているのか、レノムの話を聞いて勇者は腕を組む。
「それで俺は密かにあの人の身辺を調べる事を開始したが、いくら調べても怪しいと思うような証拠は出て来なかった。俺の思い過ごし……と思ったのだが」
「王は他の者の目撃をすぐに信じたのか、俺の言い分や何かを全く聞かないまま俺を捕らえようと手配して動き出していた。一切の容赦も慈悲も無くだ」
「え……理由とかそういうのをまったく聞かずにですか!?」
素早い判断と対応、オルスタ王は部下の目撃談を根拠に、レノムを捕らえようと動いていた。
いくらなんでも幼い頃から見てきたレノムに、躊躇がなさ過ぎるのではないかと、ガットはオルスタ王に対してそんな思いが出て来る。
「勝手なイメージだと言われればそれまでだが、俺には……1番ドス黒く見えた。俺を捕まえるよう、命令を下したあの人が……」
根拠など無い。証拠も無く、レノムが抱いた今の主への印象だけだ。
しかし彼がもしそうだというなら、細工は簡単だろう。城の者へ命令を下せる一番上の立場となれば、彼に口を出せる者もいない。
「まさか、そんな……我らの王がそれは……」
プレインとしては騎士団長が魔族と繋がってる事は信じられないが、主が裏で画策していたかもしれないというのも信じられず、呆然となってしまう。
「本当かどうか、オルスタ王に会って確かめてみないと分からないね」
「しかし明日はレノム騎士団長の公開処刑……それに向けての準備で今は取り合ってもらえないぞ」
ティアモは一度オルスタ王に会おうと提案するも、プレインは今は絶対会えないと、首を横に振る。
「分かってるよ。その公開処刑って、オルスタ王はいるんだよね?」
「それはまあ……公開処刑は国の王が不在のまま行えるものではないからな。必ず姿を魅せるはずだ」
「ううん……」
その時、眠らせていた門番が目を覚ましそうになる。
「おっと、じゃあレノム騎士団長。公開処刑の時にまた会おう!それまで希望は捨てないようにねー」
「おい!?お前達、一体何をする気だ……!?」
レノムが呼び止める間も無く、一向はその場からフッと姿を煙のように消していた。
「(希望を……こんな状況からどうなると言うんだ……)」
もうどうしようもないだろうと考えていたが、希望があるなら藁にも縋りたい。何より彼は知りたい。今の主は自分の知る主なのか、それとも違うのかと。
「ふぅ〜、なんとかバレずに行けたぁ……」
兵士のいない町中まで逃げて、ガットは一息ついた。
レノムから話を聞く事は出来たが、怪しいのはオルスタ王でそれをどう証明するのか、解決策はまだ何も見つかっていない。
「そんでどうすんだよ?今からオルスタ王が怪しいって証拠を集めようにも人はとっくに寝てるだろうし、城には……」
「言っておくが、消える魔法はそこまで連発出来んぞ。あれは魔法力の消耗がかなり大きいんだからな」
再びセリーザの姿を消せる魔法に頼れないか、サラの視線に気づいたダークエルフは無理だと言い切る。今日で行きと戻りで2度使用しているので、これ以上は体の負担が大きくなり、連発出来ない。
空を見上げれば既に夜が更けて、朝日が昇るのも時間の問題。このまま行けばレノムが処刑される運命は、動かせないままだ。
「どうするんですか!?このままじゃあ……」
ガットはレノムを助けたいと思った。元々は疑われた身だが、牢屋に繋がれた彼の姿を見て、その言葉を聞けば見捨てられない。
これも根拠は無いが、レノムの王国を愛して王への想いは本物だと感じた。だからこそ王のちょっとした変化にも、すぐ気づく事が出来たのだと。
「慌てなさんなって、全く手が無い訳じゃないからさ」
ティアモの方は何時ものように笑って、ガットの肩を叩いて落ち着かせる。
「それって一体?」
「……一歩間違えれば、僕達は大問題になってしまう。今までみたいに自由に冒険出来なくなるかもしれない」
「……!」
ティアモの方法はかなり高いリスクで、成功するか分からない一か八かの賭けだった。ガットの喉が緊張から、ゴクッと鳴る。
「一体なんですの?こちらを脅かそうとせず、ストレートに伝えなさい!」
焦らしてるようなティアモに、マーヴェルが扇いでいた扇子の先を向けて、早く答えを言えと迫る。
「分かったよ……」
そして早朝。レノムの処刑の時が迫ってきた。
次回、勇者が衝撃の行動に出ます。




