6話 魔物の大群と遭遇
「ガット君大丈夫かーい!?」
「なんとか……!」
ティアモからの声に、ガットは必死で返答する。今の彼は馬に乗って、全身で風を受けている状態だった。
勇者一行は魔物退治の為、その場所へと向かっている所だ。歩きだと目的地までには遠すぎるので、馬を使い移動時間を大幅に短縮させている。
「ほらガット!もっとしっかり俺にくっつけ!振り落とされちまうぞ!」
「え!?は、はい……!」
今のガットはサラと2人で馬に乗って疾走中だ。サラが手綱を握り、ガットが後ろからしがみつく恰好。彼の方は馬に振り落とされないようにと、彼女に言われるがままに密着する。
戦士として鍛えながらも、女性としての魅力を兼ね備えるサラとこういう状況になり、胸が高鳴って顔が熱くなってしまう。
「(振り向きてぇ!正面から抱き締めたいけど今は駄目だな流石に)」
ガットが後ろから抱きついてくれる感触が肌に伝わり、彼から見えない所でサラは思わずニヤけてくる。彼の顔や姿を見ながら抱き締めたい欲求を抑えていた。
「む〜、独り占めは羨まし……良くないですサラ〜!」
「今回はしょうがないよー!シャイカは馬を操れないし、組み合わせ的にはどうしても君とガット君が乗るの無理だからねー!」
サラとガットの乗る馬が先行する後ろから、ティアモが手綱を握ってシャイカが後ろに乗る。
風を受けながらも、馬を操った経験の無いシャイカの口から不満が漏れ、表情にもそれが現れて隠そうとしない。
「(僕も本当はガット君と乗りたかったし!)」
ティアモの内心では本音を吐き出しており、本来なら自分の後ろに乗せたかったが、クジで決めて負けた結果だ。それにサラは昨夜悔しい思いをしていて、今回ぐらいは譲っても良いだろう。
「2人とも!そろそろ近いぞ!」
前方のサラが仲間の2人に叫ぶように伝える。それが聞こえ、ティアモは馬へ止まるように手綱を引き、サラも同じように馬を止めていた。
「ありがとう、君達は安全な場所まで避難しててくれ」
ティアモは自分達を乗せてくれた馬を撫でて礼を言い、馬2頭は走ってこの場を離れて行く。
辺りは山脈が近く、ある魔物の根城になっているという話だ。今回勇者一行はその討伐の為に此処まで来ていた。
「ガット君はシャイカと共に居てね。彼の事は頼んだよ?」
「傷一つ負わせる気などありませんのでご安心ください」
ティアモからガットへ、シャイカの側を離れないようにと伝えられる。ティアモとサラは共に前へと進み歩く。ガットの方は言われるがまま、シャイカの側で一緒に歩いていた。
勇者一行と出会ってから、今までにない程彼女達は表情を引き締めている。普段町で見かけていた顔とは、また違う凛々しさが見えた。
「(勇者達の戦いが……始まるんだ)」
悪しき魔物達と戦う勇者達の姿を、ガットはまだ実際に見た事が無い。普段町から出ない上に運良く町を狙う襲撃も無かったので、見るのはこれが初めてとなる。3人の足を引っ張って危険に晒さないようにしようと、静かに彼も気を引き締めていた。
「数の方は頭の奴を除けば、大体100体ぐらいといった所かな」
「100って、向こう物凄く多いじゃないですか!?いや、その前に何も居ないのに何で数とか分かって……!?」
ティアモがさらりと敵の数について伝えれば、ガットは圧倒的な数に驚愕する。こちらは自分を除けば3人と、人数的に不利なのは言うまでもない。
もう一つ気になるのは何故見てもいないのに、相手の数が100体と言い切れる根拠だった。
「種を明かすと、これだね。ちょっと出ておいでシルフー」
「!?」
歩きながらティアモの掌から、光の玉のような物が出現。そこから蝶の羽を背に生やした人型、ティアモと同じ金髪のロングヘアーで、美少女と言っても過言ではない可憐さがある。
「僕は様々な精霊と契約を交わしててね、この子はその1人で風を司る精霊シルフ。一足先に此処へ来て一通り見てもらったんだ」
ガットはシルフと目が合えば、とりあえず会釈すると何となくだが小さな精霊に微笑まれた気がした。
嫌われている、という事は少なくとも無さそうだ。
「精霊……確か水、火、土、風とそれぞれ力を司る4つの精霊がこのグロス大陸を守っているんですよね」
「ほうー、ガット結構物知りじゃねぇの」
「あ、いえ。前に孤児院の本で退屈しのぎに読んだ事あるぐらいですから」
孤児院に居た時、精霊についての本を読んだ事があってシルフを見れば鮮明に思い出せてきた。サラから感心するように言われ、ガットは照れた顔を見せる。
「ご覧の通りシルフは体が小さく、風のように素早く何処までも飛べるので密偵のような事が出来るのです」
「前もって敵を知れば100戦危うからずってね」
「へぇー……って結局オーク100体が居る事に変わりないから、ヤバいじゃないですか!?」
何故相手の数が把握出来たのかは理解出来たが、それでも相手と圧倒的な数の差は何も変わっていない。この場にもうすぐ100体もの魔物が来るのなら危険だと、慌てるガットとは逆にティアモやシャイカは全く動揺している様子は無い。
「ま、いいからお前は最初言った通りシャイカの側に居とけ。此処はもうすぐ物騒な場所になっちまうからよ」
サラは余裕の笑みを浮かべたまま、ガットの頭を右手でポンポンと軽く撫でる。
「そう言ってる間、お客さんの登場みたいだよ」
ティアモが後ろを振り向き、視線を向ければその先には多くの魔物が現れていた。
いずれも2m以上を超える人型で、頭部が豚のような魔物。間違いなくオークだ。それもかなりの大群で、皆が棍棒や剣に斧と武器を持ち歩き、軽装の鎧を身に着けている。
「ニンゲン!ニンゲン!」
「オンナ!オンナ!スニツレテカエル!」
流暢とは言えないが人語を操るオーク。彼らが何を企んでいるのか、彼女達は理解した。
「いやー……全然趣味じゃないから嫌だねぇ。とりあえず君らさ、目障りだから消えてくれない?」
「はいブッ殺し決定ー!遠慮なくやってやろうぜぇ」
ティアモが左腰の鞘から右手で剣を抜き取り、サラも鞘から大剣を取り出して切っ先をオーク達に向ける。
「全く、オーク達はそれしか考えてないのですか……ガット君の前で下品極まりない。私達は後ろに下がってましょうね、なるべく私にくっついてるように」
「は、はい……!」
オークに対して不快な顔を見せながらも、シャイカはガットに振り向けば一転して笑顔を向ければ離れないようにと、彼の肩に手を置いて抱き寄せる。
勇者一行がオーク達と遭遇して戦おうとしてる一方、コウモリのような羽で空を飛び、上空から見下ろす者が居た。
胸元も足も大胆に露出させた黒い衣装は下着に近く、男を誘う刺激的な格好だ。緑髪のロングウェーブの美女は地上を見て、怪しげに微笑む。
「ふーん……?」
次回は勇者一行とオーク軍団の戦いとなります。




