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52話 魔法についての学び

「これはまた、立派で城みたいだな」


 その建物を見上げたセリーザの発した感想通り、目の前には巨大な屋敷が聳え立つ。


 一行はマーヴェルの案内で、リーゾ城下町の上流貴族が住むエリアへ来ていた。一つ一つが一般の家よりも大きい中、マーヴェルの屋敷は群を抜いて大きい。そこが城でもおかしくない程だ。


「此処が我がロックウェル家の誇る屋敷ですわ。本来人を招くなど滅多にありませんが、あなた方は特別に入る事を許可します」


 我が家なので当然マーヴェルは遠慮なく屋敷へと入り、ガット達も後に続く。屋敷を守る門番はマーヴェルに向かって敬礼。


「「お帰りなさいませマーヴェル様」」


 屋敷の主が帰宅すると、多くのメイド達が出て来てマーヴェル達を出迎えていた。大貴族ともなれば、従者の規模も桁違いだ。


「お茶の準備を進めておきなさい。私はこの者達と共に庭へ参りますので、勝手に来ないように」


 メイド達へ指示を出した後、マーヴェルはガット達を連れて庭へと向かう。


 綺麗に手入れが行き通った広大な庭が一同の前に現れ、数々の美しい花や植物が出迎えた。


「ガット君がキャットヒューマンである事は私以外に知る者は存在しません。話してもいませんから。他の貴族が珍しい魔物を狙い、我が物としてきてもおかしくないので」


「そうなったら他の貴族からも狙われてたって事かよ、危なかったなガット」


 マーヴェルは彼の正体について、他に公表は一切していない。自分が我が物にする為だという事は、ガットに笑いかけるサラや他の女性陣には明かさかった。


「ありがとうございます、マーヴェルさん」


「あら、お礼なら今夜ベッドで返していただいても……」


「そうなったら私、貴女と刺し違えても止めますけど?」


 素直に頭を下げて感謝するガットに、マーヴェルが礼について語るとシャイカが黙ってられず、般若のような顔で睨む。


「貴女じゃ勝負になりませんわ。まぁ、とりあえず軽い冗談という事で」


「(冗談には聞こえなかったかなぁ〜?)」


「(この女も隙あらば食うつもりか……!)」


 余裕の笑みを見せるマーヴェルに、ティアモやセリーザは怒りのオーラを纏っていく。この大貴族の令嬢もガットを狙う獰猛な肉食獣、そうはさせんと目を光らせる。



「メイドさんにお茶の用意をするようにと言ってましたけど、これから此処でお茶をするんですか?」


「ええ、ただしそれは特訓の後ですわ」


「特訓?」


 先程のマーヴェルとメイドで交わされた会話、それをガットは思い出して話すと、本人の口から特訓について語られる。


「ガット君、私が見る限り貴方は相当な魔法力を秘めています。それも強力にして、私が感じた事の無いタイプですわ」


「……!」


 自分が強力な魔法力を持つ、マーヴェルに言われる前はシャーリーからも言われた。自覚は無いが、やはりそうなのかとガットは自らの右掌を見つめる。


「しかし見た所、自覚が無くて自分の力としていない。となればいくら強力な力を持っていても活かせない、魔王と戦う事なく宝の持ち腐れとなってしまいますわ」


 今のままではガットは戦力にならず、ただの足手まとい。そうなれば魔王との戦いで活躍などあり得ない。そこは忖度無しでマーヴェルはハッキリと言い切る。



「どうすれば……使えるようになりますか?」


 魔法に長けた令嬢へ、ガットは真剣な眼差しを向けて問いかける。どうすれば自分は魔法を使えるようになれるのか。


「それはもう魔法の練習を重ねるしかありませんわ。私も初めて魔法を使えるようになるまで、地道に特訓を積み重ねたもの。いかなる才能も努力無しでは育ちません」


 地道な訓練、華麗に魔法を使いこなすマーヴェルも、いきなり魔法を使いこなせた訳では無い。同じ魔法の使い手であるティアモ、シャイカ、セリーザも同じように頷いていた。


「そうなのかよ?」


「剣も素振りとかしないと扱えないでしょう?それと同じです」


 1人魔法とは縁のないサラ。その彼女にシャイカは分かりやすく、剣に例えて説明する。



「まずは習うより慣れろ、ですわ。ガット君、手から炎を出すイメージで念じてごらんなさい」


「はい」


 ガットはマーヴェルに言われるがまま、右手と左手を合わせて目を閉じる。頭の中で炎をイメージし、強く念じてみせた。


「うぐぐ……!」


 歯を食いしばり、精一杯念じてもガットの手から炎が出る気配は全く無い。


「無駄に力んでも駄目ですわ。落ち着いて、自然体でいるんです」


 魔法を出そうと頑張るガットに、マーヴェルからアドバイスが送られる。


「ガット君ファイトー!」


「ガット君ならやれます!魔法は集中力、精神力です!」


「行け行けー!出しちまえガットー!」


「ガット……!」


 女性陣からガットへの声援が飛び出し、背中を後押しする。その声は彼の耳にしっかり届けば、今一度意識を集中させて深く息を吸い込む。



「(無駄に力まず、落ち着いて集中して……魔法を出すイメージ……!)」



 ボッ


「!?」


 その時、ガットの両掌から炎が発生。とは言ってもティアモやマーヴェルのような、立派な炎ではなくロウソクの火ぐらいの物だった。


 それでも初めて自らの手で魔法を出した事に、ガットは目を見開いていた。


「おいおいガット!もう出せたのか!?」


「これはかなり早いです!天才ではありませんか!?」


 魔法を出せた事にシャイカ、サラがそれぞれガットに駆け寄っていく。



「強大な魔法力を持つとはいえ、学び始めてから僅かな時間で……大きく前に進んだな」


「うん、僕も初めて魔法使うまで結構時間かかったし。マーヴェルお嬢様もあれくらいだったかな?」


 速い成長を見せたガットに、この姿を母のメルシャにも見せたかったと少しセリーザは目を潤ませていた。


 ティアモが茶化すような感じで聞くと、マーヴェルは首を横に振れば真顔を浮かべる。


「私ですら1日では無理でした。それをこんな短時間で……」


 もしかしたら魔法に関して、とんでもない可能性を秘めているのかもしれない。魔法を初めて出せて喜ぶガットの顔を見ながら、そんな予感がした。




「……これは、予定変更かな?」


 一同は知らない。ロックウェルの屋敷の遙か上空から、シャーリーが見下ろして、それを呟いた事を……。

次回は朝からちょっとしたラブな騒動な回です。

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