49話 大貴族の過去
「ガット君、大丈夫かい!?痛い目に遭わされなかった!?」
「あの悪魔にうらやま、やらしい嫌な事されませんでしか!?」
「おい本音が出かかってるぞ変態聖女ー」
勇者一行がそれぞれガットに駆け寄って彼を心配する。その中でシャイカの本音が漏れつつ、セリーザはガットに全く同じ予備の服を取り出す。
「着替えを持ってきておいて良かった」
「あ、ありがとうございます……!」
今の自分が服を破られた状態なのを思い出して、ガットはセリーザから服を受け取れば、着替えて元通りの格好となった。
「……貴女達、私の地下帝国に侵入してきた不届き者ですわね」
一行が振り返れば、そこには腕を組んでふんぞり返っているマーヴェルの姿。
「はは、流石に誤魔化しきれないよねぇ〜?」
「どんな間抜けも分かりますわ。そのキャットヒューマンの子と一緒にいて、似たような格好をした女達。世の中に似たような者は3人居ると言いますが、こんな偶然は滅多にありません!」
ティアモが笑って誤魔化そうとするも、マーヴェルは流石に分かった。ガットがあの時のキャットヒューマンで、ティアモが自分と戦った仮面の女騎士。そして周囲の者達が仲間である事を。
「こいつぁ……やるしかねぇか?このお嬢様と」
「大貴族の方を敵に回すのは、正直かなり厄介ですけど誤魔化せないですからね……」
マーヴェルとの戦闘はもはや避けられない。シャイカとサラはそう感じれば、共に身構えた。
「あの、貴女は魔物に何か恨みでもあるんですか?」
そこへ着替え終えたガットが、マーヴェルに話しかける。
「いきなりなんですの?」
「いえ……何で魔物にあんな事をやっているんだろうと気になって」
魔物に対する仕打ち、そこに至るまでの出来事があったのかと。ローレンやドンナー達への仕打ちは許せないが、彼女の方で何か許されない事をされたのか、心に引っかかっていた。
「……」
マーヴェルは黙っていたが、目はしっかりとガットに向いて身長差のある彼を見下ろしている。
すると彼女の口がゆっくり開き、語り始めた。
「先祖は偉大なる英雄と呼ばれし大魔道士。そのロックウェルの血筋を大々受け継ぐ私は、英雄に恥じないように精進してまいりました」
大貴族の話をガットだけでなく、何時の間にか彼女達も耳を傾ける。
「私の両親も高名な魔道士であり、冒険者でもありました。しかし、そんな2人は集団の魔物に襲われて……無残に殺されましたわ……!」
両親の死を語るマーヴェル。その手は怒りからか、震え始めていた。彼女が優れた魔法の使い手である事は、ティアモが何より身を持って知っている。
その彼女を育てた両親も、かなりの魔法の使い手と思われるが、魔物によって命を落としてしまう。
「許せませんでしたわね。それからはもう、片っ端から魔物を殺しに殺しまくり、それだけでは足らず痛めつけて嬲り殺し、貴族にそれを見せては大好評。復讐と実益を兼ねてやりましたわ」
怒りの顔から邪悪な笑みへと変わり、マーヴェルはそれを語る。両親が魔物によって亡きものとされて、彼女は復讐鬼と化す。
「でも貴女は……あの時、僕を殺そうと思えば出来たんじゃあ?」
ガットも魔物であり、復讐の対象に入っているはず。しかしマーヴェルはそれをしなかった。ガットに向ける顔は邪悪から、優雅な面へと変わる。
「貴方は、今まで見てきた魔物と違いますわ。正直初めて見るタイプで私の心も少々乱れてしまいました」
「え?」
他の魔物と違うと言われ、ガットはキョトンとなる。何がどう違うのか、本人には全く分からず。
「なので私は貴方に手をかけられなかった。なんだったら、もう一度会いたいと願っていましたのよ、私の物にしたいから!」
「!?」
マーヴェルはガットの両手を握り、迫って来た。これにはガットだけでなく、女性陣全員が驚く。
「あの、それはどういう……!?」
「分かりませんか?私はあの日に見た貴方の姿が忘れられないまま、今日まで過ごして来ましたの!それが今日会えるとは運命としか言いようがありませんわ!」
その場で口説き落とす怒涛の勢いで、マーヴェルは言葉を並べていく。
「それは随分と都合の良い運命だ」
「ええ、本当に思い込みの激しい事で」
厳しい口調でセリーザが言葉を発して、怒りのオーラを宿していた。シャイカも同じようなオーラに加え、殺気も帯びている。
「裸の付き合いもしてねぇぽっと出が何言ってんだろうなぁ?」
「やっぱりお貴族様とは決着つけなきゃいけないみたいだね〜?」
ティアモとサラは共に笑みを浮かべているが、目は笑っていなくて明らかに怒りに満ちた状態。マーヴェルのガットに対して迫った事が、彼女達に喧嘩を売る結果となった。
「あら、言っておきますけど私……4対1でも負けませんわよ?纏めて灰にして差し上げますわ」
不敵に笑うと、マーヴェルは再び手に業火を宿す。まさにその場は一触即発となってしまう。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
そこにガットが間へ入って、大声を上げながら止めに入って来る。このまま衝突させては、大惨事になりかねないので彼も必死だ。
「お互い色々思う事あるかもしれないけど、今は皆で協力しませんか!?魔王サーヴィスを倒す為に!」
魔王、その単語を聞いて女性達の動きが止まる。
「魔王……サーヴィス?ガット君、魔王のその名前は本当かい?今まで僕達が各地を巡っても聞いた事無かったんだけど」
「私も色々情報網は持っていますが、魔王の名前など聞いた事ありませんでしたわ」
ティアモとマーヴェルは話に興味が惹かれたようで、ガットの事を一斉に見ていた。
「さっき、あの悪魔達から聞いたんです。それで……魔王の名前を聞いて」
シャーリー達が魔王サーヴィスについて語っていた事をガットは話す。これが運命をまた動かしていく……。
次回はガットがマーヴェルを口説き落とす!?な回です。




