46話 トライアングル
「何であのいけ好かない貴族が……!?」
シャーリーのサイレントによって、魔法を封じられたままのシャイカ。突然のマーヴェルの登場に、驚きを隠しきれずにいた。
「僕達を助けてくれるんでしょうか?」
「いや、甘い期待はしない方がいいと思うよ。僕達見つかったらヤバいし」
この劣勢にマーヴェル達が駆けつけて来てくれて、ガットは救世主と思ったが、ティアモの方はあまり良くない状況だと感じている。
自分達はマーヴェルの地下帝国を襲撃し、モンスター達を解放した。彼女達にとっては敵でしかない存在だろう。
「双方とも敵となれば厄介だが。両方相手にしなければならない」
剣を構えたまま、セリーザは目の前の状況を確認していく。
シャーリーの襲撃からマーヴェルの登場、これがガット達にどんな影響をもたらすのか。
「人間のくせに随分と強力な魔法を使うじゃない?何かヤバい力にでも手を出しているとか?」
周囲の魔物が業火に焼かれて苦しむ中、シャーリーは仲間達を助けるような素振りを微塵も見せず、マーヴェルと向き合っていた。
「私を愚弄するその言葉、貴女とてもいい度胸してますわね。今すぐ焼き尽くして消し炭にしてやりたいぐらいですわ……!」
右掌に宿る業火の勢いが増し、マーヴェルは笑みを浮かべながらも目が笑っていない。その姿は明らかに怒りが感じられる。
「とりあえず厄介そうで目障りな人間だから、こいつらもまとめてやっちゃえー!」
「魔物に負けはしませんわよ!かかりなさい!」
シャーリー、マーヴェルの双方が攻撃を命じれば魔物の大群と人間の大群が、それぞれ向かって交戦に入った。
「ブレイズ!」
マーヴェルはシャーリーへと、青白い炎の玉を速いスピードで放つ。得意の炎魔法が向かってくるが、シャーリーは避ける気配が無かった。
「!」
次の瞬間、マーヴェルの表情が驚きに変わる。
シャーリーは右掌で炎の玉を受け止めたかと思えば、そのまま握り潰して魔法を掻き消してしまったのだ。
「覚えておいてほしいなぁ人間。真の魔族にこんな火遊びが通じないって事を」
ニヤァッとシャーリーは邪悪な笑みを浮かべると、今度は彼女の両手にバチバチと雷の力が宿り、それを手に合わせてマーヴェルへ解き放つ。
「スパークバリスタ!」
巨大な雷の矢が放たれれば、真っ直ぐマーヴェルへ襲いかかって、その体を貫かんとしていた。
「ちぃっ!」
「ギャアァァァーーー!!」
小さく舌打ちした後、マーヴェルは左へひらりと飛んで躱す。代わりに魔物と戦っていた彼女の部下の体に刺さり、全身に雷が駆け巡って黒焦げとなれば力尽きて倒れる。
すかさずマーヴェルは鞭を振るって、シャーリーに一撃を加えようとするが、シャーリーは羽を使って空へ逃げて躱す。
「ブレイズ!ブレイズ!ブレイズ!」
そこにマーヴェルは炎魔法を連続して唱え、右掌から立て続けに青白い炎の玉が空を飛ぶシャーリーに向かって発射される。
それを優雅に空を飛んで右や左にひらひらと躱し、炎の玉に一度のヒットも許さない。
「高レベルな戦いでどさくさに紛れて仕留める、は無理そうかなぁ〜」
ティアモはこの混戦を利用して、シャーリーとマーヴェルを倒せるかと考えたが、2人の戦いを見て自分達が入る余地が無さそうだと感じた。
「此処は逃げましょう!僕達の相手どころじゃなさそうですから!」
「ああ、それが最善だな」
ガットは真っ先に逃げる事を提案。シャイカの魔法が封じられて攻撃も回復もままならないなら、このまま留まっても不利な状況は変わらない。シャーリーが勝とうがマーヴェルが勝とうが、敵となるのは間違いないだろう。
セリーザはガットの案に頷き、ティアモとシャイカもそれに続く。
「サラー!」
ティアモがヴォレットと剣を交えるサラに声を掛け、その耳が女戦士に届けばヴォレットを押し退けて、一旦距離を取る。
「もうちょい剣を交えたかったけど、悪いが此処はずらからせてもらうぜ!あばよ!」
「!逃がすか!」
そう言ってサラはティアモ達の方へ走り、ヴォレットは逃がさんと大剣を上段に振るえば、そこから風の刃が発生する。
「っとぉ!」
それをサラが間一髪、右に避ければ強い風が周囲に発生。
「あっ!」
ガットのかぶっていた帽子が風で脱げて、飛んでいきそうになったが寸前の所を右手で掴み取った。
「!(あれは……!あの猫耳は!あの子は!)」
この時、シャーリーと交戦中のマーヴェルにガットの猫耳を見られる。そして彼女は以前に会った人物だと、顔も見えて確信。
「見つけましたわぁ!」
彼の居る方へ跳躍して距離を詰めながら、マーヴェルの鞭が振るわれてガットに伸びていく。
「わぁっ!?」
伸びて来た鞭は器用にガットの体に巻き付き、身動きがとれなくなってしまう。
「「ガット(君)!?」」
仲間の女性達による彼への声が響く中、ガットを鞭で巻き付けたマーヴェルはグイッと引き寄せて、彼を自分の元へ導いた。
「フフフ、早々の再会になりましたわぁ♡ああ、この匂い……たまりません♡」
以前彼と密着した時の事を思い出せば、マーヴェルにとっては甘美なひと時。それを再び味わえて彼女は満面の笑顔を浮かべる。
「んぷっ!?」
身動きが出来ないまま、ガットはマーヴェルに抱き締められて、彼女の豊かに実った胸に顔が埋まる。
「なんてうらやま……!いえ!ガット君を今すぐ奪還です!大至急です!」
「たりめーだ!あいつを取り返すぞ!」
怒りに燃えるシャイカとサラ。ガットを取り返そうとマーヴェルに向かうが、その前に運悪くリザードマンやスケルトン達が彼女達に矛先を向けて襲いかかる。
「邪魔はしないでもらおうか!」
「緊急事態なんでね!叩きのめすよー!」
冷静なティアモやセリーザも、ガットを奪われたとなっては黙ってられず、凄まじい気迫で魔物達と交戦する。
「貴方はこのまま私のお屋敷の招待いたしますわ。ささ、行きましょうか」
ガットを捕まえたという事で、マーヴェルはさっさと撤退しようとしていた。
「フン!」
「!」
そこへヴォレットの大剣が振り下ろされると、マーヴェルはバックステップで躱す。この時に鞭を落として、ガットと離れていた。
「隙ありっと!」
「わっ!?」
シャーリーはそのガットに飛びかかると、その体を抱えて飛び上がる。
「思わぬチャンスをくれてありがとう、愚かな人間のお嬢様。じゃあねー♪」
「!!待ちなさい!絶対逃がしませんわよ!」
シャーリーがガットを抱えたまま、空を飛んで移動。それを見たマーヴェルは怒りの形相で追っていく。
「ガットーー!!」
シャーリーがガットを連れ去るのを、魔物達と戦う勇者一行は見ている事しか出来なかった……。
次回は攫われたガットに色んな危機が!?




