41話 極寒の罠
「リーゾ王国で?」
「ハッ、それらしき者達が地下帝国で暴れていたと貴族達が語っていました」
誰も使われてない、古城にある玉座の間にて緑髪の美女ことシャーリーは足を組んで座る。その前には桃色の巻き髪でシャーリーと同じく、コウモリの羽のような物を背に生やした女性が直立不動で報告をしている。
シャーリーにも負けないくらい、露出度の高い黒い服装で豊かな胸元を大胆に見せていた。
「だとしたら、あの船から生き残ったか……まぁでも納得かな……?」
グロス大陸の港町で、連中を罠に嵌めた時これで終わりだとシャーリーは思っていた。だが、ターゲットが生きているかもしれないと知って、彼女は両手を合わせて魔法力を集中する。
念じると共に、シャーリーの前にある光景が浮かぶ。そこには旅をするガット達勇者一行の姿があった。
「やはり生きてた……ん?」
シャーリーは勇者一行の中に、ダークエルフの存在に目が止まる。
「へえ、生きてたんだこの女」
それを見た時、緑髪の美女は怪しく微笑む。この瞬間からシャーリーの企みは再び始まっていた。
「川や岩場に森が続いてたから、こういう所を通るのは少し久しぶりに思えるなぁ〜」
ティアモは何処までも続いてそうな平原を眺めており、楽しげに笑う。
あれから勇者一行は森を抜けて進み、リーゾ王国の領内を抜けて新たな場所に踏み出そうとしていた。
「此処からはインフォル王国の領内となってくる。この平原を越えれば王国は目と鼻の先のはずだ」
今の場所についてセリーザが伝え、先の方にリーゾ王国とは別の国がある事も皆に教える。
「リーゾ王国には戻れる訳が無ぇし、オルスタ王国戻んのも遠い上に戻りづれぇから前進むしかないよな」
「人の多い国なら何か情報が掴めるかもしれませんからね。ガット君のお母様に繋がる手がかりもありそうです」
シャイカとサラも前向きに、これからの事を考えてくれてる。それを見てガットは嬉しく思えた。
「皆さん、ありがとうございます。僕の……お母さんを探す為に色々してくれて」
改めてガットが美女達に頭を下げて礼を言う。
「何を言うガット、メルシャには命を救われたり色々世話になったのだ。これくらいではまだまだ足りん」
セリーザは元々危ない所を、メルシャに助けてもらった身。その恩を返したり、ガットを守れるなら全く苦に入らない。
「ガットのお母さんがどんな人か、実際会ってみたいからねー」
「ええ、それに色々とご挨拶をお義母様にしなければなりませんから」
ガットの母親を直に見てみたいという、ティアモの興味の横でシャイカは意味深な感じで、彼女への挨拶を望んでいる様子だ。
「よーするに、気にすんな!って事だ!」
「わっ!?」
そこへサラが、ガットの首に腕を回して自分へと抱き寄せていた。この時、彼女の大きな胸がガットの顔に触れて、柔らかな感触と甘い香りで一気に酔いしれそうになってしまう。
「好意的なのは良いが、寄り過ぎだ」
距離が近過ぎると、セリーザがすぐにガットをサラから引き離す。
「んだよ、別に良いだろー……」
不満を言いながらも、先頭を歩くサラ。すると一瞬で彼女の顔つきは緊迫した物へと変わる。
「敵来るぞ!」
サラがそう叫んだ瞬間、岩の陰から飛び出す者達がいた。
軽装の鎧を着て、剣や盾を持つ。だが人とは明らかに違い、二足歩行の人型でも彼らの外見はまるで、緑のトカゲを思わせた。一行にいきなり敵意を持って襲いかかる辺り、明らかな敵意ある魔物だ。
「リザードマンだと?この辺りに生息はしていないはずだが……」
魔物の姿を見て、セリーザは違和感を感じた。彼女の知る限り、インフォル王国の領内には居ない存在。それが何故か今目の前にいる。
「どっちにしても彼ら、殺る気満々って感じだね!」
ティアモは鞘の剣を抜き取り、身構えた。何時も通りティアモとサラが前衛で戦い、シャイカが後衛に下がってガットを守り、支援する。
「シャアァァーー!」
リザードマンは雄叫びを上げながら、鋭く剣をティアモに振り下ろす。それを右に飛んで躱せば、そのまま力強く右足で地を蹴って、剣を振るって来た相手を横薙ぎで斬る。
「ちぃっ!こいつらうじゃうじゃいやがる!」
リザードマン達の剣が振るわれると、サラは大剣で次々と受け止める。キィンッ、キィンッ、と金属を弾く音を響かせながら空いている足で、一体のリザードマンを前蹴りで蹴り倒す。
「フンッ!数は多くても腕は大したこと無いな。確実に数を減らすのが有効だ!」
力任せに振るって来た剣を、自らの剣で捌くセリーザ。一体に向かって剣を振るえば、相手は崩れ落ちるように倒れていった。
「(大丈夫ですね、リザードマンは剣術を得意とする魔物として知られていますがティアモとサラに加えて新たに入ったセリーザ。剣に優れた者が3人いますから、白兵戦はこちらが上です)」
後方でガットを守りながらも、シャイカは戦況を分析。見る限り自分達が優勢で、このまま行けば押し切れる。
その勇者一行の戦いを上空から見下ろす女性の悪魔達が居た。
「ヴォレット。そろそろ仕掛けるからね?」
「ハハッ、何時でもどうぞ!」
シャーリーは部下のヴォレットという女性に伝えれば、魔法の詠唱に入る。強大な魔法力を溜めて、解き放とうとしている。
その隣のヴォレットも魔法の詠唱へ入っていた。
「!?」
交戦中のティアモ、セリーザは上空の強大な魔力の存在に気づく。上を見上げれば、何者かが空に浮いているのが見える。
「もう遅い、凍てつく世界で朽ち果てるがいい!」
シャーリーは邪悪な笑みを浮かべて、強大な魔法を発動させた。
「「ジェノサイド・ブリザード!!」」
シャーリー、そしてヴォレットが同時に唱えた瞬間。一瞬にして猛吹雪が発生。平原全体が極寒の地へと変わってしまう。
「わぁぁ!?」
「きゃああっ!?」
容赦の無い吹雪に襲われて、ガットとシャイカの目の前は白く染まっていった。
「っ……!サラマンダー!!」
ティアモが叫ぶように精霊の名を叫ぶと、勇者の頭上に炎を司る精霊が現れて、辺り一面の積もった雪を炎で解かしていく。
「ぷはぁっ!神の元に召されるかと思いました……」
炎で解かしていくと、雪に埋まっていたシャイカが発見される。どうやら吹雪に巻き込まれてしまったようだ。
「無事か皆!?」
そこにセリーザも駆け寄り、2人と合流。これで3人揃うがこの場に2人の姿が無かった。
「ガット君とサラは……?」
「え!?何処にもいませんか!?ガット君ー!」
「おーい!何処だサラー!ガットー!」
3人は懸命に2人の名を呼んで探すが、2人が出て来る気配は無い。
そのガットは吹雪で吹き荒れる極寒の世界で倒れ、目を覚まさないまま雪によって体が埋まろうとしていた……。
ガットの危機、この後どうなるのか。次回に続きます。




