37話 精霊の加護を受ける森
岩場を越えて川も超え、一行は目的地に向かって進み続けていた。
此処まで幸い敵意ある人や魔物と出会う事もなく、大きなトラブルと遭遇はしていない。マーヴェルの追っ手の心配もあったが、出入り口を塞いだのが効いたせいか、彼らが追いかけて来るような気配は無かった。
「この森に入って真っ直ぐ進む!その中にある!」
「ほう、森の中か。悪くない」
道案内をするドンナーは森の方を通ると言って、先頭で進んで行く。ダークエルフのセリーザにとっては、緑溢れる森林に囲まれての場所は良いと思った。
「なんだか前に暮らしていた場所と似てるね?」
「ああ。ティーナ、はぐれないように気を付けなさい」
森の風景をキョロキョロと見回すティーナに、ローレンは注意して娘としっかり手を繋ぎ、途中で離れたりしないようにする。
「……」
「ティアモさん?」
ティアモは何かを考えてそうで、腕を組む仕草を見せた。一体どうしたのか気になったガットは、勇者に声を掛ける。
「おい、ティアモー?」
ガットの呼びかけにも応えないティアモに、サラはどうしたんだと勇者の顔を覗き込む。
「うわ!?びっくりしたー!」
「うお!?驚いたのはこっちだっての!」
顔を覗き込まれ、ティアモは後ろに飛び退く。至近距離で驚かれたサラも、それに驚かされたのか同じように後ろへ飛び退いていた。
「何か気になる事でもあるんですか?」
「あー、いや……何かこの森は不思議な感じするんだよね。普通の森より落ち着けて心安らぐっていうか」
シャイカからの問いに辺りを見ながら、ティアモは答える。シャイカやサラからすれば、よく見る森でしかない。
「落ち着く……何かあるんでしょうかこの森?」
ガットも見回してみるが、特に違いは分からなかった。
「此処!ドンナーのお気に入り!」
森の中を皆で進み、奥へ行くと大樹が見えてドンナーはその傍まで駆け寄る。どうやら目的地に辿り着けたようだ。
「はぁ〜、こりゃあ見事な木だわ」
周囲の木と比べて明らかに巨大。サラは大樹を見上げ、関心の声を上げる。
「此処まで育つのに一体何十年、いえ。何百年かかったのか……見事な大樹ですね」
自分達よりずっと前から存在し、世界を見守っていたであろう。同じく見上げるシャイカはしみじみと思う。
「確かに此処ならば腰を落ち着けて休めそうだ。皆が暮らせる村にもなりそうだしな」
大樹の周囲を見れば、静かで小鳥や野ウサギが自然と集まり、過ごしているのが見えた。セリーザはかなり良い場所だと、太鼓判を押す。
「ドンナー、こんな良い所をどうやって見つけたんだい?」
一体彼はどう辿り着いたのか気になり、ローレンは案内してくれたドンナーに聞く。
「ドンナー悪いゴブリンに襲われて逃げてた。此処逃げて来たら奴ら追いかけて来なかった。この場所安心、お気に入りの場所!」
同族でも仲が良い訳ではなく、ドンナーは他のゴブリンに虐げられていた。そこから必死に逃げ出して、辿り着いたのがこの森だ。
話を聞く限り、ドンナーを他のゴブリンから森が守ったような感じだった。
「!まさか……」
話を聞いていたティアモが反応を見せると、皆がそちらに注目する。
「ティアモさん?ひょっとしてこの森について知ってるんですか?」
「知ってるっていうか、ドンナーが他のゴブリンから逃げて向こうが何故か追いつけなかったって話に引っかかったかな」
ガットから心当たりがあるのか聞かれ、ティアモはもしかしたらと思いながら話し始める。
「ひょっとしたらこの森は木の精霊ドリアードの加護をうけているのかもしれない」
「ドリアード……?」
グロス大陸の時に4つの精霊がいて、ガットも見てきたがドリアードという精霊は初めて聞く。
「グロス大陸に4つの精霊が存在するように、シュッド大陸も3つ存在するのさ。木、光、闇とね。そのうちの木の精霊ドリアードは正しき者から、悪しき者を守ろうとする心を持つと聞いてる」
「あ!だからドンナーを追っていたゴブリン達はそこまで行けなかったんだ」
ティアモの話を聞くと、先程のドンナーの話を思い出してガットは納得した。ドンナーは純粋な目を持つ、心優しきゴブリン。それがドリアードの中で正しき者と認識され、彼を追って来たゴブリン達を悪しき者として、遠ざけて守ったのだろう。
「そしてこの大樹はとても力強く生命力に満ち溢れている。ひょっとしたら……」
ティアモが大樹を見上げると、その時彼女の正面の地面が光り出す。
「!?」
ガットや魔物達がその光に驚けば、そこから出て来たのは茶髪で長い髪をした女性。髪の色と同色のドレスを身に纏っている。
「ノーム、キミが出たという事は……此処にドリアードが居るのかい?」
彼女は地の精霊ノーム。呼ばずとも自然に現れたという事は、ドリアードは此処に居るのだとティアモは考えた。そして大樹に近づくと、そっと右手で触れる。
「ドリアード、もし居るのなら心身共に疲れ、傷ついた彼らを少しでも此処で休ませても良いかな?」
此処がドリアードの森ならば、自分達は部外者。急に来て迷惑だろうと思い、ティアモは静かに語りかけた。
すると大樹が光り始め、その眩さと共に精霊が現れる。
森のような緑色の長い髪に、髪と同色のドレスを着ている。地の精霊ノームと似たような雰囲気だ。
「あれがドリアード……!?何かノームと似てねぇか?」
「ノームは地の精霊、ドリアードは木の精霊と同じ大地に関係する精霊同士。一説ではあの2人は姉妹のような関係、と言われた時もあったそうだ」
似てるなぁ、とサラが眺めていると精霊についてセリーザは詳しいようで、ノームとドリアードの関係性について語っていた。
ドリアードはノームの姿を見て、ティアモの方に顔を向けると、再びノームを見た。そして互いに頷く。
「……!」
「ティアモさん!?」
突然ティアモの体が光に包まれる。これにガットはどうしたのかと心配になり、駆け寄ろうとするがシャイカに止められる。
「大丈夫です、ガット君。あれは精霊がティアモを認め、契約したんですよ」
「おおー、サラマンダー以来だな。久々に見る光景だわ」
シャイカとサラはティアモの身に何が起きたか、ちゃんと分かっていた。グロス大陸で精霊と契約する時を、2人は見てきたのだ。
「……ありがとう、ドリアード」
ティアモが木の精霊に微笑むと、彼女も柔らかく笑って応えた。光が収まり新たな精霊と契約を交わす事に成功。
これでティアモはドリアードの力を新たに習得する。
「皆、ドリアードから皆なら此処に住んで構わないってさー!」
「オオオーー!」
ドリアードから正式に住む事を許可され、彼女の加護つきとかなり安全な住処に住める事を魔物達は声を上げて、それぞれが喜んだ。
次回は村作り、そして村の名前を決めます。




