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33話 失われた過去

「私は元々各国を旅していた。その時、凶暴な魔物と遭遇してしまってな……なんとか撃退は出来たが私自身の体力はその時もう限界だった」


 目を伏せると、セリーザはその時を思い出していた。




「(我が命運も……此処で尽きるか……)」


 うつ伏せでセリーザは倒れたまま、自分に迫りくる死を受け入れようとしている。心残りはあるが、これが自らの運命だったかと諦めていた。


「大丈夫!?しっかり!」


 その時、彼女の耳に女性らしき声がする。自らに問いかけているかのようだ。しかし体力の限界を迎えたセリーザに、応える余裕は残されておらず意識を手放していた。




「う……」


 セリーザがうっすらと目を開けると、彼女は見知らぬ家の天井を見上げている。そこで自分がまだ生きている事を理解すると、上半身を起こす。体には包帯が巻かれていて、傷の手当てをしてくれたようだ。


「あ、ママー!お姉ちゃんが起きたよー!」


 そこには青い髪の猫耳を生やした男の子が立っていた。セリーザが起きたのを見て、駆け出すと母親へ起きた事を伝える。


「気がついた?貴女ずっと寝てたのよ」


 現れた男の子の母親。彼女も息子と同じ青髪で腰まで長く伸びており、その頭には同じ猫耳が生えている。家事をしていたのか、服の上にエプロンを着けていた。


「……貴女が治療をしてくれたのか。感謝する」


「良いってー、あんな所に女の子が倒れていたら放っておけないわよ」


 セリーザは上半身を起こしたまま、母親へ深く頭を下げていた。それに彼女の方は明るく笑うと、まるで太陽を思わせるような輝きだ。


「お姉ちゃんの傷の手当、僕もお手伝いしたからー」


「うんうん、偉かったねガットはー」


 自分も手伝ったと、ガットと呼ばれる青髪の男の子はその場でピョンピョンと跳ねて、アピールをする。それに母親は偉いと息子の頭をやんわりと撫でてあげた。


 セリーザから見て仲良しな母と子。そして男の子の可愛らしく飛び跳ねる光景は、実に微笑ましい。ダークエルフの口元から自然と笑みが出てくる。


「おっぱいがおっきくて包帯巻くの大変だったけどー」


「こら、そういう所は見ちゃいけないし言ってもいけません!」


 セリーザの揺れる胸元も包帯が巻いてあり、その時の事をガットが言うと母親から軽く叱られる。


「あ、私はメルシャっていうの。よろしくね」


「……私はセリーザだ」


 お互い向き合って軽く笑い合うと、互いの名を名乗った。



 メルシャはキャットヒューマンと呼ばれる種族で、彼女はその長を務めている。集落を作り、そこに同族だけでなく魔物も住んでいて種族とか関係なく、皆が身を寄せて暮らす。


 集落の者達が彼女の家に来ては、木の実や肉に魚といった食料を分けていた。彼女がいかに皆から慕われているのかが分かる。


「メルシャ、新しい傷薬と包帯を調達してきた」


「何時も悪いわねローレン」


 同じキャットヒューマンのローレンも、メルシャの家を訪れている1人でガットとも顔を合わせていた。


「ティーナちゃんは元気?」


「ああ、月日が流れる度に元気さが増してる感じだよ。今度連れて来るからガットも娘と遊んでやってくれないか?」


「うん!ティーナちゃんと遊ぶ♪」


 遊び相手が出来ると知って、ガットは嬉しそうに笑う。



「(居心地が良いな)」


 傷が癒え次第、早めに旅へ戻ろうとセリーザは考えていた。だがメルシャや周りに居る者達と過ごす時が、心地良くて悪くないと感じるようになる。


 此処を発つなら、メルシャにしっかり恩を返してからにしよう。そう決めてセリーザも家の事を行うようになった。



 しかし幸せの時が長く続く事は許されず、ある日いきなり日常は壊されてしまう。



「ガットお兄ちゃんこっちー!」


「ティーナ足速いなー!待ってよー!」


 メルシャの家の前で、ガットはティーナと追いかけっこをして遊んでいた。その微笑ましい光景をメルシャ、セリーザ、ローレンが外にテーブルを出して、その前に座れば外でのティータイムを楽しむ。


「大きくなるのが早いわねぇ。ティーナちゃん、少し前まではこんな赤ちゃんみたいだったのに」


「それを言うならガット君も大きくなってるだろう」


 親2人は我が子の成長を見て、2人が赤子だった頃をしみじみと振り返る。


「可愛い娘さんがいるんだなローレンは」


「奥さんも美人よ、彼女は来ないの?」


「妻は山菜を採りに行ってから行くと言っていた。なので多分もうすぐのはずだが……」


 同じようにガット、ティーナの遊ぶ姿を見てお茶を楽しむセリーザ。ローレンから彼の妻も来ると聞いて、まだ来ないかとメルシャはそちらに目を向ける。



 その時、地面が激しく揺れ動く。


「わぁ!?」


「きゃっ!?」


 それはまるで地震。ガットとティーナは共に驚き、地面に倒れてしまう。


「ガット!」


「ティーナ!」


 すぐに親2人が駆け寄り、傍に行った時。



「カァァーー!!」


 上空から翼を持つ敵がキャットヒューマン達に襲いかかる。


「ハァッ!!」


 瞬時にセリーザが腰に差していた細身の剣を抜き取り、左足で強く地を蹴って跳ぶと強襲を仕掛けた相手を、横薙ぎに剣を振るって斬り裂く。



「こいつは……魔族!何故こんな所に!?」


 斬り裂いた敵をセリーザが確認すると、鳥と悪魔が融合した存在。ガーゴイルという魔族だと分かった。


 自らもダークエルフと、同じ魔族という括りではあるが、このような邪悪な魔族とは違う。彼らは欲望のまま殺戮を楽しむだけだ。


「ケケー!!」


 そこに2体目のガーゴイルが、空から急降下しながらセリーザに向かって爪を振りかざす。


「ユミディテ!」


「ゲェェーー!?」


 襲って来たガーゴイルが衝撃波によって飛ばされ、大木に叩きつけられる。メルシャが魔法を唱えて撃退していた。


「セリーザ!ローレンとティーナちゃんを、皆を連れてすぐ逃げて!!」


「!待てメルシャ!お前はどうする気だ!?」


「私もガットを守りながら行くから!お願い!!」


 何時もは見ないメルシャの必死な形相に、セリーザはそれに頷くしかなく、ローレンとティーナと共に集落の中央へと皆を迎えに向かう。



「!!」


 そこに待っていたのは地獄の光景。木や藁で出来た建物は無残に破壊され、炎が燃え広がる。


 つい先程まで皆が普通に暮らしていたはずだった。しかし既にその集落は無い。


「グフッ!」


「ギャアッ!」


 目の前に聳え立つ山のような巨大な敵。戦えるキャットヒューマンやオーク達。魔物が立ち向かったが、振るわれた拳によって倒されてしまう。



「あ……あ……」


 炎の海の中、巨大な存在が見知った皆を苦しめていく。ティーナはあまりの光景に、その場にへたり込んでいた。


「ティーナ!くっ……!」


 娘がショックを受けて立ち上がれないのを見て、ローレンはティーナを抱き上げた。


「なんだあれは……人でも魔物でもない……魔族とも違う……!?」


 セリーザの知る限り、あのような生物に心当たりは無い。白く巨大な人型の物体に見える。


「ローレン!その子と共に逃げろ!此処は危険だ!」


「セリーザ!?」


「戦えん者が居ては足手まといだ!行け!」


 あえて突き放すように、セリーザはローレンに逃げろと叫ぶ。この場に留まらせたら危険が増すだけ、今は一刻も早く逃げる事が最優先だ。


「っ……すまない!」


 躊躇うローレンだったが、戦えない自分がセリーザの足は引っ張れないと、ティーナを運んで駆け出す。


 火の手は強まる一方で、セリーザは集落を壊滅に追いやった未知の魔物と向かい合う。




「……それが我々の日常を破壊した悪しき敵だ。魔族が関係しているので、あの大きな敵は奴らの仲間と見ている」


 過去を振り返り、現実のガット達と再び向き合うセリーザ。一通りの話を聞いて、一同は無言だった。


「私は元凶の相手を討とうとしたが体はとても堅く、私の剣は通らなかった……メルシャやお前を連れて逃げる事も出来ず、1人で生き延びてしまったのだ……!ガット、すまない!」


 何故あの時メルシャを連れて逃げられなかったのかと、セリーザの中で今も強く後悔が残ったままだ。誇り高きダークエルフは、世話になった恩人の息子へ頭を下げて謝罪する。


「そんな、セリーザさんは何も悪くありませんから頭を上げてください!悪いのは襲って来た方ですから!」


 頭を下げられて、ガットは慌てながらもセリーザに頭を上げるように言う。


 自分の元々住んでいた場所は魔族達によって滅ぼされ、母親とも離れ離れとなっていた。それがガットの失われた過去だ。

次回は少し久々、イチャイチャなシーンがあったりします。

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