32話 彼を知る者達
一行は魔物達と共に地下通路を抜けると、途中は洞窟となっており、そこから外の世界に飛び出していた。
「此処は……どの辺りでしょうか?」
「リーゾ王国から南にあるカスカータの滝近くだな。音が聞こえている」
「あ、本当だ」
この辺りの地形に詳しいらしく、ローレンがシャイカに今の場所を伝えればティアモは耳を澄ます。水の落ちる音は確かに聞こえて、それが滝だと分かった。
「よし、全員居るな」
「ドンナーもいる!皆いる!」
セリーザは救出した魔物達が全員居る事を確認。シャイカの回復魔法を受けた事に加え、思う存分暴れて体を動かせたせいか、皆晴れ晴れとした表情だ。
「念の為だ。追っ手が来るかもしれないから出入り口を塞いじまおうぜ!力ある奴誰か手伝えー!」
「オオー!」
追っ手を警戒してサラは自分達が出て来た洞窟の出入り口を塞いでしまおうと提案。力のあるオーク達と共に、岩を運んで実行していた。出入り口はあっという間に塞がれ、これで連中達はそう簡単に来れないだろう。
「ふう〜、良かったねティーナ。お父さんを助ける事が出来て」
「ガットお兄ちゃん達のおかげだよ!ありがとう!」
緊張が解けて座り込むガットに、ティーナは満面の笑みで礼を言う。最初に会った時と比べ、随分と明るくなっていた。これが本来のティーナなんだなと、ガットは妹みたいな彼女へ微笑んだ。
「ガット……そういえば、君はキャットヒューマンだったか。疑う訳ではないが頭を見せてくれないか?」
「え?……はい」
ローレンはガットが本当にキャットヒューマンなのか、今一度確認しようと頭のキャスケットを取るように頼む。勇者一行は既に自分の正体を知っている。此処に居るのは自分と同じ魔物、そして魔族だけ。
皆を信じてガットが自らのキャスケットを取り払うと、そこから猫耳が現れた。彼が人ではない、何よりの証だった。
「魔物!ドンナー達と同じ!仲間!」
同じ魔物であるドンナー達はガットが仲間である事に、嬉しそうだ。
「キャットヒューマン……ガット……」
彼の本当の姿を、セリーザも見ていて彼に近づく。
「すまないが、君は……覚えていないのか?私やそこに居るローレンの事を」
「え?」
再びキャスケットをかぶったガットは、セリーザに振り返って彼女の顔を見上げる。覚えていないのかと言われても、セリーザとはリーゾ王国の宿屋で会ったのが初めてのはずだ。
ローレンとも会った事は無く、ガットに2人と会った記憶は存在しない。
「覚えていないというか彼は孤児院で過ごしていて、それ以前の記憶が無いみたいなんだ」
「記憶が……そうか、なるほど」
ティアモからの言葉を受けた後、セリーザは納得したかのように頷いていた。
「え、あの……セリーザさんとローレンさんは僕達の事を覚えているんですか?」
孤児院以前の記憶が一切無いガットにとって、2人は以前の自分を知る者。一体自分が何者で、どういう存在なのか知りたい思いから2人に尋ねる。
セリーザはコクンと頷けば、ガットと向き合う。
「単刀直入に言おう。ガット、お前にその記憶が無いのは魔法によって消されたからだ」
「!?」
その言葉を受けてガットは驚き、ティアモ達の方も同じだった。
「記憶を消されたって何故……」
「それが出来たとすれば、メルシャしかいない」
「メルシャ?ガットの記憶を消した不届き者な野郎はそいつか!」
シャイカの疑問にセリーザは心当たりがあるようで、相手の名を口にしていた。それを聞いてサラが、彼の記憶を消した犯人として怒りを向ける。
「メルシャは……彼女はガットの母親だ」
「!?」
ガットや勇者一行に衝撃が走った。記憶を消したのはガットの母親メルシャ、それが事実だとしたら母が息子の記憶を消した事になる。
自分の母親が何故記憶を消したのか、彼の頭は困惑するばかりだ。
「ああ、彼女の事はよく覚えている。何しろ僕達キャットヒューマンの長だったからね……」
寄り添うティーナの頭を優しく撫でながら、ローレンはメルシャがその種族の長である事を話した。
「え、えーと。ガット君の記憶を消したのがお母さんのメルシャという女性で、彼女はキャットヒューマンを纏めるリーダー的な立場だった……という事で良いのかな?」
ティアモは驚きが残ったまま、一度整理して纏める。
「あの、ティーナから家が見た事の無い大きな魔物に襲われたというのを聞きましたけど……それと関係あるんですか?」
「……ああ。それが平穏だった日常を一変させたからな」
地下闘技場に囚えられている魔物達を救出する前、ガット達はティーナから家が襲われた事を聞いている。彼女の場合はショックからか、記憶が一部抜け落ちたりとハッキリ思い出せずにいた。
「話そう。過去について、そしてあの日の事を」
セリーザの口からガットの抜け落ちた記憶について、話し始める。
次回はガットの失われた過去について語られます。




