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31話 極悪令嬢の意外な弱点

「フフ、一対一の戦いも力だけではなく戦略も大事。その両方を兼ね備えた大貴族の私に勝とうとするのが、そもそもの間違い。お分かりになりまして?」


「う……」


 仰向けで地面に倒れるティアモは鎧の所々を焦がし、自身もダメージを負って立ち上がれない。


「何処の誰かは存じませんが、とりあえずその鬱陶しい仮面を引っ剥がしてから、燃やし尽くしてあげますわ」


 マーヴェルは剣を持ったまま、カツカツと足音を立てながら倒れているティアモにゆっくりと近づいていく。



「(このままじゃ……!)」


 どうしようとガットは考える。相手は凄腕の魔法使いで、剣も使えて接近戦も通じない。それ以前にガットには戦闘など不可能、戦えても生半可な実力で勝てる相手ではないだろう。


 そして運良く助かってもティアモの素顔を見られれば、マーヴェルが大貴族の権力を駆使して付け狙って、苦しめて来るかもしれない。


 どんなに考えても上手い手が見つからない、とにかくティアモがこのままでは危ないと、ガットはマーヴェルへと駆け出していた。


 もう考えは無い。我が身を張っての特攻で、ティアモを守る。


「わぁぁぁー!」


 少年の叫び声に、マーヴェルが気づくと視線を向ける。


「フン、勇ましいですが無謀。身の程を知りなさ……」


 他愛もない抵抗と、彼の特攻は冷静に見えていた。


 ガットに向けて炎の魔法を放とうとした時。マーヴェルに突進していた彼に、予期せぬ事が起こってしまう。



「わぁっ!?」


 途中でガットの足が躓き、彼の体が浮き上がる。この時、彼の仮面が外れて素顔が晒されたと同時に、黒いキャスケットも脱げ落ちていた。


「!?」


 ガットの可愛い顔に加えて、青髪の猫耳が現れて彼の秘密を大貴族が見た時、その動きは止まる。


 そして彼の体が倒れ込んで来ると、マーヴェルは反射的に小柄なガットの体を抱き止めて、剣はカランと地面に落ちた。


「(ふわっ……!柔らかくて良い匂いが……!?)ぷはっ!?」


 深く顔に埋まると、良い香りが鼻に伝わってくる。そのまま幸福感に浸りたくなってしまう中で、彼は顔を上げた。


「あ……」


 マーヴェルは自分の豊かな胸から顔を出して、見つめて来るガットの顔に胸の鼓動がトクンと鳴る。ガットの方は彼女の胸に顔を埋めてしまった事に、顔を真っ赤にさせていた。


「ふわわっ!ごめんなさ……!」


 今の状況を思わず全部忘れ、ガットは慌てながらマーヴェルに謝り離れようとする。その時、彼の右手が彼女の左側の大きく実った物へムニュッと触れていた。


「やんっ♡」


 これに大貴族らしからぬ甘い声が、マーヴェルの口から出てガットを抱き締めていた手の力が弱まる。


「ご、ゴメンなさいー!(どうしよう!?偉い人のおっぱいに今……!)」


 彼が謝りながら離れると、周囲の状況は一変していた。



「ティアモ!無事ですか!?」


「ふぅ〜、助かったよシャイカ。ありがとう〜」


 周囲の炎は何時の間にか消えており、シャイカがティアモに駆け寄って回復魔法で火傷を治す。


「炎は消えた!お前ら早く脱出するぞ!」


「オオー!」


 セリーザの号令と共に、魔物達は出口へと一直線。そこの炎も消えて、通る事が可能となっていた。どうやらマーヴェルはガットとの出来事があって、集中力を欠いてしまい炎を保つ事が出来なくなったようだ。


「行くよー!」


「あ、は、はい!」


 ガットは慌てて床に落ちた仮面とキャスケットを拾い上げ、再び身に着けてからティアモと共に出口へ逃げる。



「ガットお兄ちゃん大丈夫だったの!?炎に囲まれたりしてたから!」


「なんとか大丈夫だよ!それよりティアモさんは!?」


 父親に守られながらも、ずっと心配していたティーナ。ガットは少女に大丈夫だと伝えた後、マーヴェルの炎に焼かれたティアモの身を心配する。


「シャイカの回復魔法でバッチリさ!ただ、あの貴族は只者じゃなかったね。今回ああいう状況だったけど、もしかしたら僕より強いかも」


 自分は無事だと移動しながらもガットに伝えると、ティアモは先程のマーヴェルの強さを思い出す。


 魔法力の強さだけでなく、接近戦でも強さを見せていた。魔物に対して酷い扱いをしていたが、間違いなく強敵だ。ガットのアクシデントが無ければ、最悪の結末があったのかもしれない。


「そんな強かったのかよあの貴族。人は見かけに寄らねぇなぁ」


 ティアモと渡り合う人間は自分以外、早々いないと思っていたサラはそれを聞いて驚いた。


「顔を隠しておいて正解だったかもしれませんね。顔を覚えられたら面倒な事になりかねませんでしたから」


 改めてシャイカは仮面で素顔を隠して良かったと、自らの着ける仮面を軽く撫でる。



「(あの時、僕と目が合ったけど……やっぱり覚えられたのかな?)」


 マーヴェルへ特攻に向かった時、ガットは素顔だけでなく猫耳まで晒してしまう。それをマーヴェルに見られていたのだ。


 何より混乱に陥っていたとはいえ、彼女の豊かな胸に触れてしまう。こんな事は誰にも言えず、自分の胸の中に秘めておくしかない。


 なんとか忘れててほしいと、密かに願いながら皆と共にひたすら通路を駆け抜ける。




 取り残されたマーヴェル。その周囲に居る部下達は、全員倒されてしまっている。


「ぐ……うう……マーヴェル様、無事ですか……?」


 1人の部下がフラフラと立ち上がり、傷を負いながらも主の心配をした。



「……」


 そのマーヴェルは先程の光景が目に焼き付いて離れなかった。小さな少年がキャットヒューマン、そこまでは驚く程の事でもない。


「……(可愛い……!!)」


 ただ、彼女からすればその少年はとにかく、超絶可愛かった。


「(可愛い!可愛い!可愛い!なんですのあの可愛いキャットヒューマン!?あんな子が魔物に居たなんて今までありませんでしたわ!)」


 大貴族の家に生まれ、多くの男達が自分に言い寄って来た事はある。だが全てが彼女の心を惹かれるような相手ではなく、魔物と同じく人間の男も格下に見ていた。


 マーヴェルは生まれて初めて異性を意識したのだ。



「(決めた……あの子を絶対に私の物にしてあげますから!絶対に!!ベッドの中で色々たっぷりと可愛がったり!可愛がったり、可愛がったり……はぁぁ、たまりませんわぁ♡)」


「ま、マーヴェル様?」


「煩い!考え事してる最中ですわ!」


「え!?も、申し訳ございません!」


 自分に呼びかける部下を怒鳴りながらも、マーヴェルはガットを自分の物にしようと、強い気持ちが宿っていた。


 彼は知らない。無意識に大貴族の令嬢を惹かれさせてしまった事を……。

次回はガットについて段々明らかとなっていきます。

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