30話 VS極悪令嬢マーヴェル
「あっつ……!」
周囲を蒼白い炎の壁で囲まれたティアモ。仮面越しに頬から汗が伝ってくる。
「私は炎を極めし大魔法使い。この程度の事は朝のランチ前ぐらい余裕ですわ」
ティアモと向かい合う形で鞭を構え、勝ち誇った笑みを浮かべて立っているマーヴェル。普通の炎よりも高温の物を自由に操る辺り、彼女の言葉はハッタリではなさそうだ。
「私と貴女、一対一に持ち込むつもりでしたが……思わぬお客様が紛れてしまいましたわね」
マーヴェルが視線を向けた先には、仮面をつけたガットが立っていた。
「ガット君、辛いけど下がって我慢してくれるかな?すぐ終わらせてくるから」
「は、はい……!」
周囲は炎に囲まれて、逃げ場は無い。少しでも自分とマーヴェルから離れて安全な場所に居てくれと、ティアモはマーヴェルに見えないように仮面を外して、ガットに優しく微笑みかける。
ガットは戦いに向かう勇者を見届けるしかなかった。
「お仲間でしょう?2人がかりで来ないのですか?」
「戦うのは僕1人だよ。……言っておくけど、彼を人質にしたり酷い目に遭わせる気なら絶対許さないから」
「人質?一対一の決闘で大貴族の私がそんな真似する訳ないでしょう。むしろ乱入者の貴女の方がやってきそうな手ですわ」
ティアモはガットに戦わせる気など無い。マーヴェルの実力を思えば、戦えたとしてもそうさせるのはあまりに危険だ。人質に取ろうなどと考えないよう、脅すようにティアモが剣の切っ先を向ける。
マーヴェルは鼻で笑うと、大貴族としてそんな戦いをする気は無いと言い切れば、真っ直ぐティアモを見据える。
「しかし、何で僕とわざわざ一対一に持ち込んだのかな?」
「私の勘ではこの集まりのリーダーは貴女。敵の頭を倒せば残りはいかに強かろうが総崩れとなる……戦の常識でしょう?」
実際マーヴェルの勘は当たっていた。勇者一行を纏めるのはティアモで、彼女がリーダーで間違い無い。自分達を制圧する為にマーヴェルは効率の良い手段を選んだのだ。
言葉を言い終えた瞬間、鞭を振るうとティアモに中距離から攻撃を仕掛けた。
自分の目を狙って伸びてくる先端の鞭。左へサッと避けた後、ティアモはマーヴェルに向かって距離を詰めていく。
「(魔法使いなら距離を詰められる接近戦を得意としない、力なら僕に分がある!)」
基本的に魔法使いは主に魔法、または中距離や遠距離の武器で戦う。なので接近戦に持ち込めば有利だと、ティアモは考えた。
「甘いですわね!」
するとマーヴェルは鞭を手放したかと思えば、足元に転がっていた部下の剣を素早く拾い上げる。そして上段から斬りかかるティアモの剣を、真っ向から受け止めていた。
両者の剣がぶつかり合った瞬間、ガキィンッと金属同士の激突した音が響き渡る。
「!?」
これを見て仮面越しでティアモは驚く。
「私は魔法だけじゃなく、剣術も嗜んでますの……!魔法使いは近づかれれば何も出来ないなど、古いですわ!」
「っ!」
力比べの鍔迫り合いとなり、ティアモとマーヴェルの両者の力は互角のようだ。
「ちぃっ!」
その最中、ティアモの方から後方に飛び退いて距離を取る。
「ブレイズ!」
遠距離となれば魔法使いの得意分野となり、マーヴェルはすかさず魔法を発動。剣を持つ左手とは逆に、右手で蒼い炎の玉を高速でティアモに放つ。
「っと!」
速い炎の玉を右に飛んで躱し、ティアモは精霊の力を使ってスピードを上げようとしていた。
「ブレイズ!」
「くっ!?」
しかしマーヴェルの炎の玉が瞬時に飛んで来て、ティアモが左にサッと避ける。間髪入れずに魔法を放って来るので、精霊魔法を発動させる暇が無い。
周囲も炎によって囲まれ、移動できる場所がかなり限られて逃げ場も無かった。
「(ティアモさんと互角……いや、ティアモさんの方が押されてる!?あの人強い!)」
間近でティアモの強さを見てきたガット。オークキングや船の化け物達とも渡り合っていたが、こんな押されているのは初めて見る。
マーヴェルが本当に強いと感じながらも、ガットはティアモに勝ってほしいと思い見守り続けていた。
「褒めてあげますわ!私と此処まで長い時間戦える者は人間にも魔物にもいなかった!」
「それは……どうも!」
休まず蒼白い炎の玉を放ち続ける中、マーヴェルはティアモに賞賛の言葉を送る。勇者の方も足を止めず、迫りくる無数の炎を躱しながらも言葉を返す。
「けど、もう終わらせましょうか!ブレイズ!はぁっ!!」
「!?」
マーヴェルが再び炎の魔法を唱え、ティアモに攻撃かと思えば自らも左足で床を強く蹴って、自らも飛び掛かり剣を振り下ろしに行く。魔法と剣の同時攻撃だ。
「くっ!」
ティアモは咄嗟に上へ高くジャンプして同時攻撃を躱す。その瞬間、マーヴェルの顔がニヤリと笑った。
この攻撃は囮、全ては逃げ場の無い空中に誘導する為だ。
「ブレイズ!!」
「!」
「ティアモさん!!」
宙に舞う勇者に業火の玉が迫り、ガットは思わず彼女へ叫んでいた。
次の瞬間、ティアモに炎が命中して燃えながら落下していくのが見えてしまう……。
ティアモとガットはどうなるか、戦いは次回に続きます。




