3話 秘密を暴かれた少年は女勇者一行の元へ
「あ、あの……それはつまり連行でしょうか?僕が魔物だから……」
勇者と共に行く。つまりそのまま城の兵士に引き渡すのではないかと、ガットはビクつきながらも思って口にしていた。
「連行ー?違う違う、むしろ保護だよ。何時までも1人でその秘密隠し切れないと思うし、遅かれ早かれバレて君の言う最悪な結末になるかもしれないじゃん?」
連行ではないと否定すれば保護する為だと、ティアモはガットに微笑んで伝える。その笑顔を見れば、彼の恐れは薄まって顔は少し赤くなっていく。
「僕としてはそんなバッドエンドは見たくない。それに君って道具屋だから道具の知識あるよね?」
「え?あ、ええと……ある程度は」
道具の知識あるか問われれば、ガットは小さく頷く。ダラシに仕事を散々押し付けられたおかげで、道具に関する知識はある程度ついていた。
「荷物持ちって事で同行してほしいんだよね。勿論君の意思もあるから残るなら尊重するよ?」
「……」
このまま残るか、ティアモと共に行くかガットは考える。
残ったとして今の生活が続き、幸せだとは思わない。酒臭い男が大半の稼ぎを持っていって、独り立ちも中々叶わない状況だ。
対して共に行くのはずっと恋い焦がれていた勇者一行。容姿端麗な美女3人と行動を共にする事が出来るのは、光栄極まりない事だろう。
迷う必要など全くなかった。
「一緒に……行って良いですか?勇者ティアモ様」
「はい、そうこなくっちゃー♪」
共に行きたいとガットが申し出れば、ティアモは笑顔で了承して右手の親指を立てる。
そうと決まれば善は急げだ。ダラシが突然帰ってくる可能性がもあるので、ガットは荷造りをして手紙を書き残す。
「とりあえずまあ買い物料って事で、これだけ払えば良いかな?」
ティアモは革袋から金貨を5枚程置いていく。銅貨、銀貨、金貨で商売をやり取りしてるこの世界において、金貨は最も価値ある金。1枚だけで酒場で1日豪遊出来る程の価値を持つ。
「これで良しっと」
金貨が置いてある横に「今までお世話になりました」と、ガットの書き置きの手紙を残せば、彼は荷物を持って黒いキャスケットをしっかりとかぶり直し、勇者と共に旅立って行った。
「とりあえず僕達の寝泊まりしてる宿に行こっか。どのみち一緒に行くとなったら2人にも伝えないといけないし」
「あ、はい……」
夕焼けが暗く染まろうとしており、辺りは暗闇に染まりつつある。人が通る姿があまり無いのもあってか、勇者として注目されるティアモが街中を歩いても、気付かれにくい状況だった。
おかげでガットはティアモとスムーズに移動が出来て、宿まで真っ直ぐ目指す事が出来ている。
「(2人も一緒となると……秘密、伝えなきゃいけないのかな)」
憧れの勇者一行と居られる嬉しさと同時に、不安も抱えていた。ティアモに秘密を打ち明けたのでシャイカ、サラの2人にもそうすべきなのかと。
2人まで都合良くティアモのように、魔物を信じて受け入れるとは限らない。もしかしたらパーティーがバラバラとなってしまう恐れもある。
ガットがそういう事を考えている間、ティアモの案内で彼女達の宿泊する宿屋の前に到着していた。流石勇者一行と言うべきか、町の中でも大きな宿屋を取っていて、ガットはこういった宿屋には立ち入る事すら無くて、入るのはこれが初めてだ。
居候していた道具屋とは比べ物にならない程、綺麗な内装で清潔感が漂う。ティアモは慣れた感じで入って行けば、ガットを部屋まで案内する。
「おーい、戻ったよ〜」
ノック無しでティアモがドアを開ければ、中には2人の美女がそれぞれ椅子やベッドに座って寛いでいた。
「お帰りなさいティアモ、遅い帰りでしたね?」
眼鏡をかけて本を読んでいた聖女シャイカ。ティアモが帰って来たのを見れば、眼鏡を外して本をテーブルの上に置く。
「道具屋に買い物行くだけでそんな時間食ったのかよ?迷子にでもなったかぁ?」
自身の武器である大剣の手入れをベッドに座りながら行っていた戦士サラ。動く事なく視線をティアモに向ける。
「ううん、僕達の新しい仲間と話してたんだー」
「仲間?何処に居るのですか?」
「あ、もうー。こっち来てよー」
新たな仲間が何処に居るのかシャイカに問われると、彼が入って来ていない事に気付き、ティアモはガットの腕を掴んで2人の前に引っ張り出していた。
「えっと……初めまして、道具屋……見習いのガットです……」
憧れの勇者一行に囲まれて頬を赤く染めれば、胸の高鳴りが収まらないまま自身をどう言えばいいのか必死に考えると、自らを道具屋見習いと名乗る。居候とはいえ一応道具屋で働き、知識はあるので間違いではない。
「子供の……男の子ですか?」
「おいおい、どうしたって急にガキンチョのお守りをする事になっちまったんだぁ?」
初対面の男の子の姿を見れば、サラも剣の手入れを中断して近くで見ようと歩いて来る。ガットから見て、3人の中で最も長身のサラとは頭2個分ぐらいの身長差があった。まさに大人と子供という感じだ。
露出度高い軽装の青い鎧の胸部は大きく豊かに実って揺れる物があり、間近で見てしまったガットの顔は真っ赤になっていく。
「彼はただの子供じゃなくてね、道具屋で働いて道具の知識がある上に〜……ごめんね?」
「わっ……!?」
ガットの紹介途中で、ティアモはガットのかぶる黒いキャスケットを取る。咄嗟に両手で頭を押さえるが、彼の猫耳は隠せずシャイカとサラの目にしっかり飛び込んでいた。
「ね、猫耳!?」
「おいおい、付け耳でビックリさせようって魂胆……」
「い、痛いです……!」
シャイカが驚愕の表情を浮かべる一方、サラはガットの猫耳を軽く触ったり引っ張ったりしてみる。本物なので取れるはずもなく、ガットは痛がる顔を見せていた。
「え、ティアモ。こいつマジミミか!?」
「うん、彼はどうやらキャットヒューマンみたいでね。保護も兼ねて連れて来たんだ」
「キャットヒューマン……つまり魔物ですか彼は?」
「そういう事だね、人間にはないこの耳が何よりの証拠だ」
仲間の2人には隠さず、ティアモはガットの秘密を教えていた。その間にガットの方は怯えて身を縮こませ、両目をキュッと瞑っている。
今まで誰にも知られないようにしていた秘密を、今日だけで3人もの人物に知られて自分はどうなってしまうのかと。
「不味いんじゃねぇか?俺ら勇者の身で敵対する魔物を保護するとか立場的に」
「んー、でもこの子見てそういうの関係無いと思うんだよね〜」
彼女達は勇者として魔王や魔物達と戦う、人々の希望となる存在。それが魔物を保護してるとなったら大問題だと話すサラだが、ティアモはガットを見る。
2人も同じように猫耳の彼を見つめていた。
「……まぁ、悪い子じゃないですよね。邪気とかそういうの感じられませんから」
「……うん、関係無ぇよな。こいつ自身に罪ある訳じゃねぇし」
「でしょー?さっすが友達2人!」
ガットが悪い感じではない事を、シャイカもサラも理解したようでティアモは笑顔を見せた。
「(う〜、どう決まっちゃうんだろう?何か盛り上がってるみたいだけど……)」
目を瞑った今のガットに目の前の状況は見えない。
「ガット、そろそろ目を開けてくれないかな?」
「あ……」
ティアモに優しく囁くように言われ、ガットはゆっくりと目を開けた。彼の瞳には3人の美女が微笑む姿が映る。
「えっと、皆さん……?」
困惑した表情でガットは3人の顔をそれぞれ見ていく。
「私はシャイカ。戦闘はやや不得意ですが回復魔法は出来ます。怪我をしたり気分が悪くなった時は遠慮なく私に言ってくださいね?」
慈愛の微笑みで彼を見つめる聖女。シャイカはガットを仲間として認めていた。
「俺はサラ。お前を傷つけようとするクソッタレは俺が全部ぶっ潰して守ってやるよ」
強気な笑みで腕を組む戦士。サラも同じくガットの事情を知って受け入れたようだ。
「これで君は今日から勇者一行だ。僕達と共に行こうじゃないか♪」
明るく微笑む勇者。ティアモはガットの秘密を知っても、彼女達なら受け入れるだろうと思った。これで彼は自分達の前では秘密を抱えたまま、息苦しく過ごす必要は無いはずだ。
「っ……よろしくお願いします……!」
ガットは自分を受け入れてくれた事に感動して、涙が出そうになるのを彼女達へ頭を下げて誤魔化していた。
これで今日から正式に彼女達の仲間となる。
だが彼は勇者達の内なる心を知らない。
「(彼すっごい可愛いし、これをそのままスルーなんてあり得ないでしょー!むしろこんな可愛い子を迫害しようとするの悪確定で魔王みたいなもんだし?)」
「(キャットヒューマンで魔物、人よりかなり長寿でこの見た目でも成人していたり歳を重ねてると聞きますから、つまり神はそういう事があっても良しという事ですよね?)」
「(可愛すぎだろ!マジたまんねぇ……絶対ブチ落としてやるからな!)」
3人の勇者一行の美女達が猫耳な可愛い男の子に惹かれ、魔物だろうが彼と共に居たい事を選んだ、超が付く肉食獣だという事を。
ガットと3人の狩人と化した女性達の新たな日々が始まろうとしていた。
次回は3人の美女達による争奪戦な回の予定です。