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28話 大救出劇

「何が起こりましたの!?(今一瞬、強い魔法力が!?)」


 突然ファラリスが吹き飛ばされたかと思えば、勢い良く闘技場の壁に飛んで叩きつけられていた。その壁はガラガラと崩れ落ちていく。


 周囲が呆然とする中、マーヴェルは魔法力を感じ取って席を立つも辺りを見回す。



「(あの船の時と同じ魔法力、まさか……!?)」


「(ガット君!?)」


 ティアモとシャイカはすぐ近くで感じた強い魔法力に、2人とも小さな彼へと目を向ける。


「チャンスだ!私はこの隙に魔物達を救出する!」


 混乱に乗じて、セリーザはすぐに行動へ出る。下の闘技場に飛び降りて難なく着地した後、傷ついた魔物達に寄り添う。


「ガット君、ティーナ。勿論君達も行くんだよね?」


「はい!」


「んっ……!」


 ティアモの問いに頷くガットと涙を拭って答えるティーナ。


「よーし、じゃあ救出作戦と行こうか」


 それを言ったティアモの顔は不敵に笑っていた。



「大丈夫か!?しっかりしろ!」


「オォ……セリーザ……!」


「マタ、アエタ……!」


 駆け寄って来たダークエルフの姿に、傷だらけのオークとゴブリンは涙を流す。


「まず逃げられるぐらいに回復させなければ、しかし奴らめ……惨いことを!」


 傷の状態を見るが、酷く痛めつけられて満足に逃げられる体ではない。呑気に留まってる余裕は無いが、セリーザは回復を施そうとしていた。



「ヒールサークル!」


「!?」


 そこにゴブリンや大柄なオークを囲むように、円形の魔法陣が出現。その魔法陣から優しい癒やしの光が発せられ、魔物達の傷をみるみる回復させていく。


「怯えていて弱った怪我人を放置は神が望む事ではないと思いますから」


 青い杖を地面に置いて、高難度の回復魔法を唱えたのは素顔を、魔物の顔がモチーフとなった禍々しい白い仮面を身に着けるシャイカだ。



「てて、クソが!一体なんだって……」


「僕もムカついたから一発お見舞いっと!」


「ギャハァ!?」


 頭を何度か振って立ち上がったファラリスに、ティアモは闘技場から飛び降りながら、大柄な彼の後頭部に飛び膝蹴りを食らわせる。巨体が前のめりに倒れていった。


「ちょっとスッキリ、ざまぁってね♪」


 ティーナの父親が痛めつけられていたのを見て、彼への怒りが溜まっていたティアモ。爽やかな笑みをうかべるも、今の彼女もシャイカのように、禍々しい魔物の仮面で隠れている。



「げほっ!げほっ!」


「お父さん!!」


「!?ティーナ!どうして……!?」


 ファラリスの手から逃れ、苦しそうに咳き込んでいた父親へ娘のティーナが駆け寄って抱きつく。


「貴方がティーナのお父さん、ですね?」


「!?」


「あ、ごめんなさい」


 ティーナの父親の前に現れるガット。驚かれると、今の自分が魔物の仮面を身に着けている事に気づき、横にずらして素顔を見せる。


「大丈夫、この人ガットのお兄ちゃんだから!」


「!?そうなのか……!」


 父親を安心させるように、ティーナはガットだと伝える。娘と同じく知っているのか、改めて彼の顔を見た。


「無事かローレン!」


「セリーザ、君まで!?」


 ローレンと呼ばれるティーナの父親へ、セリーザが駆けつける。


「他の者達は何処に居るんだ!?」


「案内する!ティーナ、父さんから離れるなよ!」


「うん!」


 他にも囚えられている魔物達が居て、セリーザはローレンの案内で救出に向かう。


「よし!皆行くよー!」


 ティアモの言葉と共にガット、シャイカも続いて魔物の救出に加わる。



「や、やろぉ……!ふざけやがって……!」


 頭を押さえたまま、ファラリスが再び立ち上がった時。


「オラァァ!!」


「グブゥ!?」


 そこに待っていたのは、サラの体重を乗せた渾身の右ストレート。顔面にクリーンヒットすれば、ファラリスの前歯が何本か飛び散り、再び壁に飛ばされて派手に激突。彼は壁にめり込んだまま、白目を剥いてピクリとも動かなかった。


「あばよクソ野郎!」


 そう言って背を向けると一行の殿を務めるサラ。彼女も仮面を身に着けており、それは鬼のような恐ろしい仮面だった。



「何をボーっとしてますの!?早く乱入して来た不届き者を捕まえなさい!」


 苛立った顔でマーヴェルは部下達へ、捕らえる事を命じる。それと共に彼らも闘技場へ降りていった。


「このままじゃ済まさない……!」


 そう呟くと、マーヴェルは軽やかな身のこなしで闘技場に降り立つ。そしてファラリスの落とした鞭を拾い上げ、彼女自らも乱入者の討伐に向かう。



「そもそもお前達、その仮面は何なんだ!?」


「此処に来る前に宿屋でちょちょいと作り上げたんだよー!何か変装道具でもあった方が良いかなと思って!」


 走りながらセリーザが、仮面を着けたティアモと会話を交わす。簡単に作ったと言うも、彼らの仮面はどれもしっかりした作りだ。



 ローレンの案内で闘技場の地下通路を進み、やがて巨大な牢屋が見えて来た。その奥から魔物達の、啜り泣くような声かが聞こえてくる。


「皆!助けが来たぞ!!」


「オォォ……!」


「ローレンだ!」


「セリーザも来てくれた!」


 そこには衰弱しながらも、生きている様々な魔物達の姿があった。おそらく殺さずに先程のオークやゴブリン達のように、見世物とされていたのだろう。


「全く……これでは魔物が人を憎み、恨まれても文句は言えないよ」


「いっそ悪い人だけこの世から1人残らず消え失せてくれれば良いのですけどね。ヒールサークル!」


 同じ人間として恥ずかしく思い、魔物達を酷い目に合わせた者達に対して、ティアモが怒りを見せる。聖女らしからぬ物騒な事を言った後、シャイカは広範囲の回復魔法を施し、光の魔法陣に囲まれた魔物達の傷を癒す。



「うおお!ありがてぇ!またこうして元気になれるなんて夢みてぇだ!」


「あんた女神だぁ!ありがとうなー!」


 元気になった魔物達は傷を治してくれたシャイカへ、それぞれ感謝の言葉を送った。中には女神だと崇める者も出る程だ。


「いえいえ、私は神に仕える者。全知全能の神には遠く及びません」


 魔物達へにっこりと微笑むシャイカ。彼らからすれば、自分達を救ってくれた聖女そのものに見えた。


「皆見つかったのは良いけど、此処からどうやって出れば……?」


 ガットは考え込む。此処から引き返せば、追っ手と鉢合わせになってしまう可能性が高い。かと言ってこのまま進んで行き止まりに当たれば、自分達は袋の鼠となる。


「ドンナー、逃げる知ってる!」


 そこに一匹の魔物が、逃げられる所を知ってるとばかりに声を上げた。澄んだ瞳を持つ、純粋そうなオスのゴブリンで名前はドンナーという名前らしい。


「ホント?何処か道あるの?」


「こっち!ここ、奴ら入ったりしてたのドンナー見た!」


 ドンナーが奥の方にある扉の前まで駆け寄り、此処から出られると皆に教えていた。



「おっしゃ!積もる話は此処を無事に抜け出してから、ずらかるぞー!」


 サラの掛け声で魔物達が出口に向かおうとした時。



「インフェルノウォール」


 彼女の唱えた魔法が、蒼き業火となって出口の扉まで伸びると出口は蒼白い巨大な炎の壁に包まれた。


 熱くて出口の扉にとても近づけず、魔物達が扉から遠ざかり逃げ道が塞がれる形となってしまう。


「!?」


 炎が伸びてきた方向へ、ガットやティアモ達が振り返る。


「下等生物の考える事などお見通し、逃がしませんわよ……!」


 そこに立っていたのは鞭を構えた地下帝国の主、大貴族にして魔法使いのマーヴェルだった。

次回は大規模な戦闘となります。

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