26話 地下帝国の主
家の中は特に何も物を置いておらず、地下への階段のみが存在していた。貴族達は慣れたように階段を降りて、ガット達も姿を隠したまま続く。
「全く、こんな娯楽はマーヴェル様のおかげだな」
「本当に。あの方が居なかったら実現は出来なかったですからね」
自分達の後ろに人が居る事など夢にも思わず、2人は話しながら地下を降りていく。
「(マーヴェル……何処かで聞いたような)」
この地下をおそらく作ったであろう人物。その名を聞いたティアモは過去に聞いた気がして、考えながらも足を止めない。
「此処だ」
貴族達と共に地下まで降りてきた一行。そこには巨大な地下空間が広がっている。
先程の貴族のような姿をした者が多く居て、ポーカーやルーレットにスロットといった、ギャンブルを楽しむ。そこに屈強な男が何人か見回りしているのが見え、目を光らせている。
そして中央には、ぽっかりと丸く巨大な穴のような物が空いて、人の胸ぐらいの高さの壁で囲っていた。そこはまるで闘技場を思わせる。
「おいおい、金持ちの為のカジノか此処?」
地下にあったのはカジノ。身分の高い者が楽しむ施設だろうと、サラが思っていた時。
「(タスケテ……)」
「え?」
ガットの耳に、助けを呼ぶようなか細い声が聞こえた。それはさっき聞いた声と似ており、今度は助けてと聞き取れる。
「どうかしたのガット君?」
「いや、誰かが助けてって……」
その声はガットにしか聞こえなかったようで、ティアモ達には届いていなかった。
「……」
何かが聞こえたというガットを、セリーザは見ている。
「何ガット君を見てるんですかー?」
「別に見てはいない」
そこに遮るような形で、シャイカがセリーザの前に立つと、聖女からはフイッと目を逸らした。
すると辺りが先程より騒がしくなってくる。貴族達が身だしなみを整えると、それぞれが深く頭を下げていた。
「マーヴェル様だ!今日も麗しい……!」
「素敵〜私もあの方のようなレディを目指さないと!」
「来るぞ!早く頭を下げろ!」
貴族の男女問わず、その姿に見惚れてしまう。歩いて来る人物に皆が頭を垂れる。
艷やかな紫色の髪は長く、大胆に胸元を開けたノースリーブでスリット入りの紫のドレス。サラにも劣らぬ豊かに実った胸と脚線美は、世の男が見れば放ってはおかない女の魅力たっぷりだ。
彼女は頭を下げて来たり賞賛の言葉をかける貴族達に、御満悦といった感じで歩いていた。
「マーヴェル……そうか、やはりあのマーヴェルだったんだ」
「知ってるんですか?」
ティアモは先程心当たりのあった事が繋がり、思い出すとガットの問いに頷く。
「彼女は魔法の天才と言われててね、一流の魔法使いとして名を上げて冒険者の間でも有名さ」
「あんな綺麗な人が……」
ガットから見れば、大変魅力的な女性。そう思っていると、横からシャイカが彼に忍び寄る。
「ガット君、おっぱい好きなのは分かりますけど彼女の事見すぎですよ」
「!?いや、そこ見てないです……!」
紫のドレスから見える、マーヴェルの歩く度に揺れ動く程の胸。それをガットが見てると、シャイカは嫉妬していた。注意された彼の方は慌てて見てないと否定。
「皆様、本日も我がロックウェル家の地下帝国にお越しいただきありがとうございます」
地下の中央、闘技場の前でマーヴェルは貴族達へと挨拶。それに合わせてか、見回りの男達も一緒になって彼女に惜しみない拍手を送る。
「ロックウェルって確か大貴族として有名な家だよな?」
「この世界の貴族の中でも1、2を争う程の規模ですね。そしてマーヴェルは一流の魔法使いで冒険者としても有名で、英雄のような存在です」
「完璧な美女ってヤツか」
「此処は彼女の家が作った場所……大貴族の地位にいる者ならば、その権力を使って建設する事は可能かもしれません」
サラとシャイカは共に挨拶をするマーヴェルを眺める。笑顔の大貴族が裏では何を考えているのか、その顔も見ようとしていた。
「では、本日も始めましょうか。魔物狩りショーを!」
「おおおーー!!」
マーヴェルがショーの開幕を告げると、その場に入る者が一斉に声を上げて盛り上げる。
「魔物狩り……ショー?」
それを聞いてガットはなんとなく嫌な感じがした。何か凄く良くない事が起きる、そんな予感がしてしまう。
皆が取り囲むように闘技場の周囲へ集まり、見下ろすとマーヴェルの紹介が始まる。
「狩るのは勿論この男!魔物ハンターのファラリス!」
「ウォォォォーー!!」
闘技場の出入り口からオーク並の体格を持つ、白い仮面をつけた大男が雄叫びを上げる。逞しい上半身を顕にしており、腰には鞭を下げていた。
「ファラリスー!」
「今日も頼むぞー!」
「一体何が始まろうとしてるんですか?」
周囲が盛り上がる中で、一行も闘技場を見下ろしている。シャイカはセリーザを見て尋ねた。
「……魔物を痛めつける、ただそれだけのショーだ」
冷静に見えるが、セリーザの赤い瞳は怒りが宿ってるように感じられる。
「(タスケテ……!)」
「!」
周囲が声を上げて騒がしい状況にも関わらず、今度はより大きな声でガットに届く。
「(まさか、あそこに!?)」
捉えられた魔物は闘技場の方に居る。声がそう導いてると、ガットには不思議と思えていた。
「そして今宵の生贄となる哀れな魔物……連れて来なさい!」
マーヴェルからの命を受けて、闘技場の出入り口から屈強な男達が数体の魔物を連れて来る。人型の魔物であるゴブリンやオーク、いずれも衰弱してるような姿でフラフラと歩いて来た。
その中でもまだ元気のありそうな、ほぼ人間に近い男がしっかりとした足取りで歩く。
「!!お父さん……!」
「あれがティーナの……!?」
ティーナが男を父親だと確認し、一行も彼に注目すると男はボロの布切れを着ていて、尻尾が生えているのが見えれば、めの茶髪の上に猫耳が生えているのも見えた。
彼がキャットヒューマンである事は間違いない。
次回は魔物達への仕打ちにガットの怒りが爆発します。




