25話 赤い瞳の女
「この子の父親の場所を……てめぇ何が狙いだ?」
褐色の女が言い放った言葉に、ガットやティーナが驚いている所にサラが威圧するような目を向けて、女の狙いを聞き出そうとする。
「信じられないだろうが、私も目的は同じ。それがお前達とたまたま被っただけの事だ」
サラの睨みに全く臆する事なく、平然と褐色の女が目を合わせた。彼女の様子に、サラは只者じゃないと気づく。
何者か知らないが、敵意は感じられない。ティアモがサラを制して前に出ると、軽く挨拶をする。
「目的か、聞かせてはくれなさそうかな?そんな雰囲気出てるよ」
「私の事を聞き出すつもりなら情報は与えられない」
「なるほど、自分の事は詮索しない代わりに情報を渡すって訳か」
自分の詮索は許さんとばかりに、女は交換条件のような物を出している。
「名前も内緒ですか?呼び方に困りますけど」
「……まぁ名前ぐらい教えてやる。私はセリーザだ」
シャイカに名前を聞かれると、軽く息を吐くと自らの名をセリーザという女は明かした。
「ではセリーザ。貴女の事は詮索しないとして、この子の父親はこの町に居るのかい?」
「ああ、いや。正確には下だな」
「下?」
セリーザは床下に、右手人差し指を向けた。それがティーナの父親の居場所を示している。
「このリーゾ王国には広大な地下の空間があってな、そこで魔物達が奴隷にされて閉じ込められているという話だ。無論その子の父親も含めてな」
「地下……どうやって行くんですか?」
セリーザからの話を聞いて、ガットは地下へ通じる道を尋ねた。リーゾの城下町はティーナの服を買う時、ティアモやシャイカが歩き回ったが、それらしき道は何処にも見当たらないままだ。
「そこは私が案内してやる。後はお前達が信用するのかどうかだ」
地下への道、そこはセリーザが知っていて案内してくれる。どうすると言わんばかりに、彼女の赤い瞳が一行に向けられた。
「僕は信じます」
ガットはセリーザの前まで来ると、頭2個分ぐらいの身長差がある彼女の目を真っ直ぐ見上げる。
「ガット君、その人を信じるという純粋にして綺麗な気持ちはとても素晴らしく、好ましいですが……」
シャイカから見れば、セリーザという女は得体の知れない存在。そんな彼女の言う事を迂闊に信じるのは危険と、ガットに伝えようとした。
「上手く言えないんですけど……なんとなく、嘘を言ってるようには感じなかったんです」
明確な根拠は無い。ただ彼女が嘘をついているとは思えなかった。セリーザから目を離す事なく、ガットは真実を話していると一行に伝える。
「ティーナも、そこにお父さんがいるなら行く」
ベッドから立ち上がり、ティーナもガットの側へと駆け寄って、共に行く意志を見せた。
「ま、2人がこう言ってるからねー。僕も行くしかないでしょ」
ティアモが前へと進み出れば、共に行く事を伝える。このまま行けば、謎が多いセリーザとガット達だけになってしまいそうなので、それは避けなければならない。
「……信用した訳ではありませんからね?そこは誤解なさらぬように」
未だにセリーザへの警戒心を強く持つシャイカ。周囲が信じても、自分だけは疑いを持っておこうと決意を固めていた。
「敵だったらそん時はそん時、俺ぁ容赦しねーぞ」
同じくサラも信用した訳ではなく、睨みつつもガット達を守る為に同行する。
「どうやら話は決まったようだな。では案内しようか」
「あー、じゃあちょっと準備したいから待っててー」
「……いいだろう」
まずは身支度をしておきたいと、ティアモから言われるとセリーザは大人しく腕を組んで待つ。
宿屋を出た後、一行は先頭を歩くセリーザの案内でリーゾの城下町を歩く。彼女の行く先は路地裏と、ティーナが男達に追われていた場所だ。
ガットとティーナを挟む形で、前をティアモとシャイカが歩いて後ろにサラを置き、万全の陣形で2人を守りながら暗い道を進む。
「此処から魔法をかけさせてもらう」
「え?」
それをガットが頭で理解する前に、セリーザは魔法を発動。本人も含め、一行が紫色の光に包まれた。
「何だこれ!?別に痛くもねぇし、熱くも寒くもねぇぞ!?」
「何ですかこれは!?」
未知の魔法を突然かけられ、シャイカとサラは本性を現したかと、セリーザに対して身構えた。
「心配するな、体には何の影響も無い。ただ周囲から我らの姿が見えなくなるだけだ」
「姿が?そんな魔法あるんですか?」
「僕は聞いた事無いなぁ」
姿が見えなくなる魔法、それをセリーザはこの場の全員にかける。魔法に関して疎いガットはティアモに聞くが、女勇者もそういった魔法は聞いた事が無い。
ティアモの視線がシャイカにも向けられると、聖女も分からないと首を横に振る。そもそも本当に周囲から見て、姿が見えなくなったと確定した訳でもないのだ。
紫の光に包まれたまま、一行は再びセリーザの案内で路地裏を歩く。
「あれだ」
セリーザが前方を指差す先を、全員が見ると腰に剣と軽装の装備を身に着けた柄の悪そうな男が立っている。
「奴の後ろにある家、あそこに地下へ通じる階段があるんだ」
「普通の家にしか見えねぇけどな」
話を聞いてサラが男の背後にある家を見てみれば、よくある普通の家。女戦士がもう少し近づいて行く。
「ふぁ〜あ、だりぃなぁ……見張りも楽じゃねぇし、仕事じゃなきゃ今日のショー見たかったっつの」
「(マジか!本気で気づいてねぇ!)」
近づいて来るサラに気づく事なく、見張りは呑気に欠伸をして愚痴を言っている。セリーザの姿を消す魔法を疑っていたが、これで本当だと証明された。
「!おい、あいつらを利用して中へ入るぞ」
セリーザが後ろを振り向くと、身なりの良い男女が2人で寄り添いながら歩いて来る。彼らも一行に気づく様子は全く無い。
「(あれは、多分貴族かな?高そうな服に宝石を身に着けてるし)」
ガットの目から見て、男女共にお洒落で高そうな服や宝石を身に纏う。暗く物騒な路地裏では場違いに思えた。
「あ、これはどうも!」
「やあ、今日も利用させてもらうよ」
2人の姿を見ると、見張りは頭を下げる。このやりとりを見る限り、2人が身分の高い貴族である事は間違いなさそうだ。
見張りは後ろの扉を開けて横にずれる。
「(今だ!)」
その瞬間、セリーザが中へ駆け込み、ガットとティーナを両脇に抱えたサラが続き、ティアモとシャイカも無事に入る事が出来た。
見張りも貴族達も一行が入った事には一切気づかず、見張りは2人を通した後に再び扉を閉める。
ティーナの父親を救い出す為の、第一関門をまずは突破。その時だった。
「(……ケテ)」
「(え?)」
ガットの耳に、僅かながら声が聞こえてきた。だがそれはハッキリ聞き取れず、声はすぐに消えてしまう。
一体なんだったのか、自分の気の所為なのかとガットは前を向く。
次回に彼らは巨大地下で衝撃の光景を目にします。




