24話 秘密を抱えた彼の決意
「捕まって奴隷……!」
ガットがティーナの父親が捕まった話を聞いて、ティアモ達と一緒にハッと気づく。
前にオルスタ国で王から話を聞いた時、密偵がキャットヒューマンらしき者を発見した事。ひょっとしたら、それがティーナの父親だった可能性がある。無論見間違いか、別の同族というのも考えられるが。
「ティーナ、君が奴らに追われていたのは捕まったお父さんを助ける為だった。そうだね?」
ティアモの言葉を聞くと、ティーナは首を縦に振って頷く。
「そこで運悪く、あのゴロツキ共に見つかってしまったという訳ですね」
下心に満ちた目で見られているシャイカ。先程の男達を思い出せば、忌々しいと言わんばかりの険しい顔を浮かべる。ティーナが負った傷は、男達に見つかって必死に逃げようとした時の物だろう。
「大変な目に遭ったね……」
両親と共に暮らしていたティーナが、未知の魔物に襲われて突然日常を奪われ、必死に逃げてきた所へ父親が捕まってしまう。そして自らも父親をたすけようとして、辛い目に遭う。
ガットはそんな少女の頭を、青いキャスケット越しに優しく撫でていた。
「最初はこの町にキャットヒューマンや魔物が本当に居るのか分からなかったけど、これはもう確定だ」
オルスタ王国で情報を聞いただけだったが、ティーナの話を聞いて勇者は確信する。この国に魔物が居るのは事実で、ベンダ達から聞いた魔物を奴隷にしている話も本当だった。
これからの行動についてどうしようかと、考えている時。
「僕は……ティーナの父親を助けに行きます」
「!」
勇者一行に向けてガットは自らの意思を伝える。それを聞いて、3人とも驚いて彼を一斉に見た。
そこには強い決意に満ちたガットの瞳があった。
「皆さんは勇者一行ですから此処で下手な行動とかしたら、王国から目をつけられて敵に回してしまうかもしれません。だからこれは僕が勝手に1人でやります」
今回ガットはティアモ達に頼らず、1人でやろうとしている。
王国の人間ではないとはいえ、彼女達はオルスタ王国で英雄のような存在だ。それに比べれば、自分はまだ知られていない無名の道具使い。自分1人がいなくなる程度、何も支障はないだろう。
「ティーナ、大丈夫。君のお父さんと、また会って一緒にお母さんも探して故郷に帰ろう」
「……うん、ガットお兄ちゃん。それに、お父さんなら多分もっと詳しく覚えてるかもしれないから……」
優しい目で見つめるガットを、ティーナは小さく頷く。
「いや、ガット君少し待ってくれないかな?」
そこにティアモから待ったの声が聞こえ、ガットはティアモの方に視線を向ける。彼女は笑みを消して、真剣で凛々しい表情をガットに見せていた。シャイカもサラも、共に表情が険しい。
「ティアモさん、いきなりの事でごめんなさい。でも、どうしても放っておけないんです……!」
ガットから見て、3人が厳しい目を向けて来る。それでも彼は譲らず、ティーナの父親を救う決意が揺らぐ事はない。
彼女には他に頼る相手がおらず、父親がいない今ティーナは孤独だ。此処まであまりにも辛い目に遭って、誰も頼れない。そこに自分が手を差し伸べて助けられるなら、ガットは何も迷わなかった。
どんなに3人から反対されても、自分は行くつもりだ。
「ガット君、一つ大きな勘違いをしているようだね」
「え?」
ティアモから勘違いをしていると言われ、ガットは何の事なのか考えるが、特にこれと言って思い当たらない。
「君がティーナの父親を助けに行く事を、何故僕達が反対すると思うのかな?ガット君が行くなら僕も助けに向かうに決まっているだろう」
「!?で、でもそれは……!」
彼が心の底から助けに行きたいと思うのならば、ティアモに反対する理由は無い。自分も共に救出に行くと言い出して、ガットは驚きながらも不味いだろうと伝える。
ティアモは勇者として認められ、魔物を殲滅する存在。それが魔物の自分についてきて、魔物を助ける事を知られれば勇者ではなくなる可能性が極めて高い。下手をすれば人類そのものが、敵に回る恐れすらあるのだ。
「僕は元々勇者という肩書なんかに執着してないし、どうでもいい。元々勝手にそう呼ばれたなけさ」
そのティアモは勇者に拘りは欠片もない。それで呼ばれなくなったとしても、後悔はしない。
「ですね、私も聖女とかどうでもいいです。それが無くなったとしても、私という存在が消える訳ではありませんから」
似たような事をシャイカも考えていた。彼女もティアモと同じく、ガットと共に行くつもりだ。
「そもそも、困っている子供を放置して、勇敢な子も放って帰るなど神も私も許しません。国なんか知りません」
シャイカに迷いは無い。ティーナの父親を救いに行くのに、彼女も力を注ぐ。
「おっし、話は決まったな!さっさと親父さんを助けに行こうぜー」
「え!?いや、当たり前のように行く感じですけどサラさんもですか!?」
元々加わっていたかのように、サラが先陣を切ろうとしていた所をガットが呼び止めた。
「当たり前だろ。俺のいない所で怪我したり辛い目に遭うとか、させねぇぞ?お前は俺が守るんだからよ」
ニッとサラは勝ち気な笑みを見せる。ガットの行く所へ自分も行く事に、他の2人と同じく全く迷いが無い。
「……で、何時まで立ち話を楽しむつもりかな?」
「え?」
突然言い放ったティアモに、ガットが困惑する中で勇者一行の3人は部屋のドアへと目を向けていた。
「誤魔化せると思いました?気配には結構敏感なんですよ私達」
「出て来ねぇなら、こっちから部屋に引きずり込んでもいいんだぜ?」
シャイカがドア越しに居るであろう相手を睨み、サラの方は 拳をポキポキと鳴らしている。
「……上手く隠れてたつもりだが」
女性の声がすると共に、ドアが開かれる。
そこに立っていたのは黒いフードをかぶった若い女性。僅かにウェーブ状の銀髪が見えて、肌は褐色。紅い瞳が印象的だった。
「何か……ご用ですか?」
女が何者か分からない。ガットはティーナの前に守るように立つと、女へと尋ねる。すると彼女は紅い瞳をガットに向けてこう言う。
「その子の父親の居場所を知っている、と言ったらどうする?」
次回は謎の女との話から行動に出ます。




