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20話 秘密を抱える者の苦悩

「人を奴隷にするという話は、悲しい事によく聞きますが……魔物を奴隷は聞いた事がありませんね」


 旅をする中でシャイカは人が人を奴隷として、売買したりする事は話で聞いてきた。しかし人にとって害となる魔物を、奴隷として扱うケースは聞いた事が無い。


「んなもん下手すりゃ人間よりも寝首を掻かれるリスクがデカいじゃねーか」


 サラも同じく見た事がなく、人間よりも力の優れた魔物を奴隷にするのは、かなり危険だと考えていた。


「俺も聞いた時はそう思いましたよ、人が魔物を奴隷にしてるなんて……けど噂ですからね。言葉通りとは限らないっす」


「ああ、まぁ噂が少し大げさになったり勘違いというのもあるかもしれないからね」


 ベンダや手下達は実際それを見ている訳ではない。なのでティアモは、言葉通りには受け取らなかった。


「そっすね、人と魔物が手を組んだとかもありそうかもしれませんし。それはそれで見た事が無いっすけど!人と魔物が一緒に過ごす事がもうあり得ませんから!」


「……」


 話を聞くのみで、ガットは何も言葉を発する事が出来ない。


「まあ……そうだろうなぁ」


 それを知っているサラは言葉を濁し、ティアモやシャイカも何も言わなかった。


 目の前にいる黒いキャスケットをかぶった少年が、実は人間ではないキャットヒューマンという事。それを打ち明ける者は本人も含め、誰もいない。




「はぁ……」


 船室にて、窓際にある椅子に座るガットはため息をついていた。


 穏やかな波の中で航海、その船が海賊戦という世にも奇妙な状況を、今の彼には気にするどころではない。それよりも今の彼には思う事がある。


「気にしてんのか?さっきの話を」


 ノックもせず、船室のドアを開けてサラが入って来た。それにガットは気づくが、彼女の方を振り向く事なく窓越しから見える海の景色を眺めたままだ。


「サラさん……船酔いは大丈夫ですか?」


 振り返らずとも声でサラと分かるガット。確か彼女は船酔いしやすいとの話だったが、平気なのかと海を見つめたまま聞く。


「船に乗る前、リンゴを食ってんだ。知ってるか?リンゴってのは船酔いの予防になるんだぜ」


 サラは得意気な顔で一つリンゴを取り出し、丸かじりしてみせる。今度はきっちり、船酔い対策をしてきたらしい。


「……」


「あのな、俺はお前の事を奴隷だとか、んなもん思ってねぇからな?勿論ティアモやシャイカだって欠片も思ってねぇはずだ」


 今のガットの姿を見れば、先程の話を気にしている事はすぐ分かる。その頭に秘密を抱える彼なら、考えてしまうだろうと。


「やっぱり人と魔物が一緒に居るって、許されない事なんでしょうか……?その魔物が何も悪い事をしていなかったとしても」


 ベンダの話を気にしていた。人と魔物が一緒にいるのはあり得ない、それがガットの胸に刺さってしまったのだ。


 人と魔物が共に居る事は、やはり許されないのか。



「……バーカ」


「!?」


 その時、ガットはサラに後ろから抱き締められていた。彼の後頭部はキャスケット越しで、ムニュっと柔らかい感触に包まれ、小柄なガットの体は女戦士の腕の中へ収まる。


「んな事誰も決めてねぇだろ。一緒に居て死ぬ訳じゃあるまいし、俺達は……俺はお前と居たいから今こうして一緒なんじゃねぇか」


「サラさん……」


 恥ずかしさはあるが、彼女の腕の中に包まれて、心地良さと安心感があった。ガットの不安な気持ちを、振り払ってくれるかのようだ。


「それを文句言ったり、ガットに危害を加えようとする馬鹿野郎は全員俺がブッ倒してやる。遠慮なく頼って甘えて来い」


 ガットが後ろ向きで見上げると、そこにはサラの笑顔があった。彼女の顔を見て、ガットの顔にも笑みが自然と浮かべられる。


「じゃあ……あの、もう少しこのままで良いですか……?」


「おーおー、早速か?甘えん坊め〜♪」


 彼の照れながらも可愛いおねだりに、サラはしっかりと抱き締めて離さない。




「(あちゃぁ〜……サラに先を越されたどころか結構リード奪われたかなぁ?)」


 ガットの様子はティアモも気になっていた。彼の居る船室に来ると、既に船客の女戦士が居て部屋には入らず、そっと様子を外から見守っていたらしい。


「あ、ティアモも来てたんですね。やっぱりガット君が気になって……」


「しっ」


「むぐ!?」


 そこへシャイカがやって来て、ガットの部屋に近づきながら喋っていたら、すかさずティアモは聖女の口を右手で塞いだ。


「今は邪魔しない方が良いから、静かに離れようか……」


 ティアモはシャイカを連れて、物音を立てることなく2人の居る船室から離れる。


 サラに譲る形で悔しい思いはあれど、勇者はガットの心が癒される事を最優先した。




「ぷっはぁ〜、久々の酒はしみるぜぇ〜!」


「流石姐さん!良い飲みっぷりっす!」


「おっし、俺は男らしく樽ごと!」


 海賊船での夕食。体格の良い男達が食べる料理は、大きな肉や魚を豪快に丸々焼いた物が大皿で出て来る。そこに多くの樽酒も用意し、豪快な食事となった。


 屈強な男にも劣らない、食べっぷりと飲みっぷりをサラは見せる。量で言えば一番大柄なベンダを超える程だ。


「……サラも女海賊じゃないですかこれ?見た目としては申し分ないかと」


「うん。戦士よりそっちの方が見た感じピッタリかも」


 野菜と呼べる物がジャガイモぐらいしか用意されておらず、野菜不足に不満そうな表情を見せつつ、食事をするシャイカ。ティアモの方は普段見ない、海賊達の食事風景を楽しむ。2人に共通しているのは、共にガットの隣の席に居る事だ。


「(うー……お酒臭い……)」


 ガットは酒の臭いが好きじゃない。しかし海賊にとって酒は水同然で、当たり前のように飲んでいる。なので酒は船内に大量に積まれてあった。


「もうあれは酔い潰れコースまっしぐらです。ガット君、一足先に部屋へ戻りましょうか」


「勝手に戻って大丈夫ですか?」


「どうせあれ記憶飛ぶよ。ほら、もう何人が潰れてるし」


 酒の臭いが苦手なガットを見て、シャイカは部屋へ先に戻る事を提案。その案にティアモが、酔い潰れている海賊を見ながら乗っかった。


「サラも今日は酒かなり漂わせてそうだからね」


「じゃあ……戻りますね」


 サラに若干悪いと思いつつ、酒の臭いが充満した部屋から抜け出せるのは、正直ありがたい。ガットは食事を楽しみ切れなかったので、肉や魚をナイフで切り分けて持って行く。



「(さっきはサラに美味しい思いさせたから、ね)」


「(私達もそれが無いと釣り合いませんから)」


 落ち込んでいたガットを独り占めされた分、今度は自分達がガットと過ごす番。夜が更ける頃には、美女2人の添い寝によって彼が挟まれたのは言うまでもないだろう……。

次回はリーゾ王国に到着します。

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