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2話 秘密を知られた者と知った者

「え、その耳……本物なの?」


 ティアモはガットに近づくと、彼の頭へ右手を伸ばす。


「ちょ、くすぐったいです……」


「うーん、本物みたいだね。付け耳の類とかじゃないかぁ」


 ガットの頭に付いている猫耳へ右手が触れれば、その感覚はしっかり彼に伝わっていた。体の一部と見て間違いなさそうだ。


「一体君は何者なのか話してくれるかな?」


「……はい」


 勇者に対して誤魔化しは効かない。何となくそう感じて、ガットは自らの事について語り始める。


「僕、元々は孤児院に住んでいたんですけど……それ以前の記憶が無いんです」


「それは、そういうものなんじゃないかな?幼い頃は物心つかなくて大抵覚えていないものだろうし」


「うーん……そうなんでしょうか?本当に何も、うっすらとした記憶も分からなくて」


 物心が孤児院以前はまだついてなくて、それで覚えてないものだとティアモが考えれば、ガットの方はそうなのかと首を傾げながらも話を続ける。


「自分の頭にこういうのは付いてるけど、他の子には1人もそういうのが付いていないと気付いて……」


「それまでは頭の耳に気付かなかったのかい?」


「はい、僕だけじゃなく周りの皆も何も言って来ませんでしたから」


 ガットが頭の耳に気付いたのは孤児院で過ごして、しばらく経ってからだ。ある日自分の頭に触れれば何か違和感を感じ、鏡で見てみれば自分の姿に驚く。自分の頭に猫耳が生えていたのだから動揺しない訳が無い。


「それでシスターに相談しに行ったら……貴方は人間ではなく魔物の血が入った魔族で、キャットヒューマンだと言われました」


「キャットヒューマン……ああ、人間と猫の血を引く珍しいタイプの魔物だね。確か種族として希少だって聞いてるよ」


 孤児院の出来事を正直に話すガット。キャットヒューマンと聞けば、なるほどとティアモは頷いて彼を見る。


「という事は尻尾もあるのかな?」


「あ、いえ。それは無いです。猫耳ぐらいで……」


「猫耳だけか、随分と人間に近いものなんだなぁ。あ、続けていいよ」


 他に人間と異なった部分は無いのか聞けば、猫耳以外は変わらないとガットから聞いて、ティアモは再び話に戻るようにと促す。


「シスターからそのキャットヒューマンを聞かされて、人間は魔物を怖がったり嫌ったりしているから、貴方の正体がバレたら酷い目に遭わされたり、最悪殺されるかもしれない。それで貴方は此処に居てはならないと言われて……この帽子をかぶせてもらいました」


 そう言うとガットは、ティアモの持つ黒いキャスケットに視線を向ける。これはシスターから貰った、大切な御守り代わりのような物だ。


「孤児院以外は頼れる所無いので、彷徨い歩いてたらこの店のドアが空いてて、誰もいないみたいなので寝床に使っていたら店の主に見つかって、それで頼み込んで働かせてもらってるんです……」


 今に至るまでの説明を終えて、ガットは不安そうに勇者の顔を見上げる。


 自分は人間ではない化け物。それをよりにもよって勇者に知られたら、自分はどうなってしまうのか。ひょっとしたら最悪この場で始末されるのではないかと、不安が渦巻いてしまう。


 ティアモの方は腕を組んだまま、難しい顔で考え込んでいる。ガットはその顔を見て自分の処遇について考えてるのかと、泣きそうな顔になりながら見ていた。



「(確か魔物ってそもそも人間より長寿で知られてるよね?何十年か経過しないと、こんな人語まで話せる程に発達しないって聞いてるし)」


 ティアモは魔物の特徴をおさらいする。人よりずっと長寿で、魔物は外見だけでは何歳か分からない事が多い。


 ガットのように男の子の子供ぐらい小さくても、実は何十年、何百年と生きているケースもある。そして魔物がこういう人語を喋れるようになるには、何十年かの年月が必要だ。


 少なく見積もっても目の前のガットは見かけによらず、人間の成人以上に歳を重ねている可能性が極めて高い。そう判断すると、ティアモは企みを考えれば内心ニヤリと笑って、ガットへと改めて向き合う。


「ねぇ、君の名前なんだっけ?」


「あ……えっと、ガットです」


「うん、良い名前♪僕はティアモ。それで君に言いたい事出来たんだけどー……」


 何か勇者が自分への処遇について言い渡すのか、そう思うとガットに緊張が走る。



「僕達と一緒に来ない?」


「え……?」


 ティアモが提案したのは、勇者一行と共に行く事への誘い。まさかの提案を勇者から笑顔で言ってきて、ガットは言葉を失っていた……。

次回は勇者一行の登場、ティアモの狙いが明らかとなる回です。

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