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14話 海上での危機

「わ〜!」


 初めての海と船旅にガットの目は輝き、何処までも広がる広大な海をデッキから眺めていた。それを見守るティアモの長い金髪が、潮風を受けてなびく。


「ガット君は海初めてかい?」


「はい!と言っても孤児院以前は分かりませんけど、覚えてる限りでは初めてです」


 孤児院以前の自分がどうしていたのか分からない。本当に海が初めてなのか断定は出来ないが、今のガットにとって初めてなのは間違い無い。


「シャイカさんやサラさんも楽しめたら良かったんですけど……」


「それはしょうがない。船旅になると大体こうなるんだよ」


 ガットとティアモの向ける目は、船室に通じる扉へと向けられる。




「う〜」


 体力自慢の女戦士は真っ青な顔で、船室のベッドで横になっていた。完全なる船酔いだ。


「私達より旅に慣れてるはずなのに、何故貴女は船に滅法弱いのですか?」


「うるせ〜、船は別なんだよこんちくしょうが〜」


 看病の為にシャイカが付いており、呆れるようにため息をついていた。


「本当なら今頃私はガット君と船上でイチャイチャしていたはずなのに、こんな時に限って貴女は何故船ごときに酔ってしまうのですか!?」


「知るかぁ!そりゃ俺の台詞だっての……!」


 船酔いのせいか、サラの反論にもあまり元気は無い。シャイカはガットとの甘い一時をせめて妄想で楽しもうと、看病しながら思い浮かべさせていく。




「(でも……妙な船だな。格安かと思えばあまり人は乗ってなくて、乗客や乗組員の声が聞こえて来ない……)」


 デッキにて、ガットと2人で過ごしながらもティアモは自分達の乗っている船が、何かおかしいと思い始める。


「……ガット君。僕の側を絶対離れないようにね」


「え?はい……」


 何やら警戒しているような、ティアモの真剣な目。それを見たガットは頷いて従う。


 何時の間にか船の周囲は何処か不気味な雰囲気が漂う。海も穏やかな波から、荒れ狂うような波へと変わりつつある。ガットがティアモの後ろへ隠れ、彼女は左腰に収める剣を何時でも抜き取れる構えだ。



「……おい、何か船が嫌な感じになってねぇか?」


「船が?……そういえば何か急に辺りが暗くなって来ましたね」


 船室に居るシャイカとサラも、昼間で明るかったはずの部屋がいきなり暗くなって、不自然だと感じた。


「サラ、船酔いでも動いてもらう必要あるかもしれませんよ」


「わぁってらぁ……!」


 船酔いで万全とは言えないが、サラは重い体を起こしてベッドから降りてシャイカに支えてもらう。



 バリィッ


 そこへいきなり入口の扉が、複数の剣で斬り裂かれていく。


 扉が無残な姿で壊されると、そこに複数の影が見えた。



「!こいつら、スケルトンか……!」


 気分を悪くしながらも、目の前に現れた影が何者なのかサラは理解する。体中が人の骨でカタカタと動く不死の魔物、スケルトンだ。


「アンデッドが船に!?まさかこれ、幽霊船の類ですか!?」


 スケルトン達を見て、シャイカは不気味な船の正体がようやく分かり、今の自分達の状況も分かってしまう。知らぬ間に幽霊船へ導かれ、そこに乗船してしまったという事を。


「くっそが!うぷ!?」


 大剣を抜き取り、戦おうとするサラだが船酔いが容赦無く襲い掛かって、気持ち悪さから口元を右手で押さえてしまう。これでは白兵戦は期待出来ないだろう。


「ふう……私が神に仕える者でラッキーでした。これも神のご加護のおかげでしょうかね」


 軽く一息つけば、シャイカはサラより一歩前へ進み出る。普段なら戦士である彼女より戦いで、前に出る事など無い。だが今回は別だ。


 スケルトン達は剣をそれぞれ持って飛びかかって来る。


「迷える魂を神の元へ!ターンアンデッド!」


 シャイカは自らの持つ青い杖で、船床を一回トンッと軽く叩く。すると次の瞬間には、眩い光が杖から発せられる。


「ーーーー!!」


 声にならない悲鳴を上げながら、スケルトンは光を浴びれば一体、また一体と消え去っていく。神に仕える聖女シャイカはアンデッドを滅する魔法を身に着けており、不死の魔物には滅法強いのだ。



「やべぇ、過去最高に頼りになったかも」


「今の姿をガット君にも見せてれば最高でしたのに、とりあえず2人と合流しますよ!」


 ガットにも見せたかった事を残念そうにしながらも、シャイカはサラの手を引いて、スケルトンのいなくなった隙に船室から出て行く。



「ーーーー!!」


 そこに一難去ってまた一難と言うべきか、出会い頭にスケルトンと遭遇してしまう。


「ターンアンデッド!!」


 再びシャイカが青い杖で床を叩き、強い光を発してスケルトン達を消滅させる。


「おい!まだ居る……!」


「もう!どれだけ居るんですかー!?」


 気持ち悪さに苦しみながらも、サラはまだスケルトンが居る事を瞬時に伝え、シャイカは文句を言いながらも再び神聖魔法を繰り出し続ける。




「ほ、骨……!?」


 ガットの前に剣を構える人の形をした骨の魔物、それが複数見えて恐れから彼は後退りする。


「スケルトンか、どうやら此処は幽霊船みたいだね」


「幽霊船!?そんなのあるんですか……!」


 スケルトン達を前にティアモは今の状況を把握していた。この船が幽霊船であると、それを知ったガットの顔が驚きに染まる。


「命からがら逃げて来た冒険者が居て、その人がその存在を伝えて噂になってたんだよ。船に乗る者を逃げ場の無い海上に追い詰め、命を刈り取る幽霊船……ってね」


「命を……」


 ティアモの話を聞いて、ガットが目の前のスケルトンを見れば自分達の命も狙う気なのだと思い、自分達が危険な状況だと理解してしまう。


「ーーーー!!」


 その間にスケルトン達がご丁寧に待ってくれる、という事は無い。ガット達へ一斉に襲いかかろうと迫り来る。


 ティアモは素早く左腰の剣を鞘から抜き取れば、スケルトンの剣を躱したり防いだりして、金属同士のぶつかり合う音が海上に響いた後で横薙ぎに剣を振る。


 胴体を斬り裂かれたスケルトンは骨を床に散らばせ、その身が崩れ落ちる。他のスケルトンもティアモが斬り伏せていけば、同じように骨がバラバラとなって、床に次々と落ちていた。


「やった!あっという間に終わった……!」


 ティアモの剣によって、スケルトンがいとも簡単に倒されるとガットはティアモの元に駆け寄ろうとしていた。


「ガット君!まだ終わってないから!」


 来るなと大声でティアモが伝えると、ガットはそれにビクッと驚いて足を止める。


 ティアモが見据える先には、地面に落ちてバラバラとなった骨。だがそれはカタカタと揺れて動き出したかと思えば、骨同士がくっつき始めて、元通りのスケルトンの形へと形成されていく。


「不死身の魔物ってのは伊達じゃないみたいだねー……」


 そう語るティアモの顔は笑みを浮かべると共に、右頬から汗が伝って落ちていた。

次回はスケルトンのボスが登場となります。

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