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10話 秘密を抱える者のピンチ

「どうした?早く取れ」


取ろうとしないガットの様子を見て、銀髪の男は若干苛立ったようにキャスケットを取るようにと迫る。


此処で何時までも取ろうとしなかったら、怪しまれるのは間違いない。かと言って取らなければ反感を買ってしまう。取るも取らないも、ガットにとって不利な事に変わらなかった。


「それは、あの」


シャイカが彼を庇おうと口を開いた時。


「レノム騎士団長よ、無理に取らせる事もなかろう」


銀髪の男こと、レノムを止めたのは玉座に座るオルスタ王だった。


「しかしオルスタ王……」


「お前は優秀だがどうにも頭が硬くていかん。今の時代はもう少し柔軟でなければならんぞ?」


「はっ、失礼いたしました」


オルスタ王に言われ、騎士団長のレノムは引き下がる。どうやら取らなくて良いとなって、ガットは心底ホッとした。正直少し寿命が縮むぐらいに大ピンチな状況だったが、懐の深い王に感謝しなければならない。


「確か兵からの報告によれば、勇者ティアモよ。少年はそなたらの新たな仲間という事だったな?」


「はい、彼は道具の知識に長けた者でして我々に足りない要素を補ってくれる新たな頼もしい人物です」


「ほう……このような少年が」


ティアモからオルスタ王へ、ガットがどういう人物について語られる中で、本人はハードルを上げられて内心困っていた。


道具の知識については、道具屋に居候して働いた身なので備わっている。ただそれで勇者一行を助けた事などまだ無い。



「……となると、魔除けの香水の効力や原材料についても存じているか?」


まだガットを信用していないのか、試してるかのようにレノムが道具について問う。


「(んだよ、ガットにやたら絡みやがって……!)」


相手が騎士団長の地位に居る事を忘れ、サラは一言文句を言ってやろうと鋭い視線をレノムに向ける。

魔除けの香水はその辺りの道具屋では取り扱っていない、世界で珍しい道具の一つだ。それを原材料も含めて答えさせようとする彼に、意地悪だと感じてイラッと来てしまう。



「体に一吹きするだけで2、3時間ぐらい魔物が寄り付かなくなります。原材料は北の大地の極寒の地に咲くフレッドの花。ただ近年は全然咲いてなくて、魔除けの香水を取り扱う道具屋も急激に少なくなってきてますね」


「……!」


言い淀む事もなく、希少価値の高い道具の効力や原材料。更に魔除けの香水が何故そんな珍しい道具となったのか、理由までガットは語る。


「ほう……」


これを聞いたオルスタ王は感心。レノムの方は驚きの表情を浮かべていた。


「レノム騎士団長、これで彼が道具の知識を兼ね備えていないという疑いは晴れましたか?」


「俺は、いや……私は疑っていた訳ではない。何処まで知識を持っているのか、興味があっただけだ」


シャイカがレノムに満面の笑みを向けると、それには何処か凄みが含まれてる気がした。レノムの方は言葉遣いが乱れながらも、疑っていない事だけを告げる。


「王様、そろそろ報告良いですか〜?流石にずっとこれ持ってんのしんどいんでー」


「おお、そなたはずっと重そうな斧を持っておったな。すぐ始めるとしよう」


この城に来た時から大剣と共に巨大な斧を担いでいたサラ。話が長いと思って、報告したいと口にすればティアモの口から語られる。


「此処より南西にあるモン山脈地帯付近にて、オークの大群と遭遇。それを統括するオークキングを倒し、手下のオーク全て壊滅させる事に成功しました」


「なるほど、それがオークキングの持つ斧という訳か。おい、お前達」


「はっ」


ティアモの報告を聞いてから、レノムは左右の壁越しに控える兵士2人に声を掛ければ、目でサラの持つ斧を取りに行くよう伝える。


「重いぜ?気をつけろよー」


サラの忠告が入った後に斧を兵士達に手渡す。


「うぐっ!?」


「お、重……!?」


体格あって鍛え上げた男の兵士2人がかりで、斧を運ぶのに大苦戦。長身とはいえ女性のサラ1人で持っていたから、2人で行けるかと思えば想像以上の重さだった。


「構わん、そこで一度下ろせ」


レノムが兵士達の側まで行き、彼らは一度床へ斧を下ろす。


「(男の兵士2人がかりで持ち運ぶのに苦労する程の重量、人間の扱う斧とは違う特別製に見えるな……)」


じっくりと斧を観察すると、一般的に出回っている斧とは違う事が分かる。オークキングの使う斧、つまり持ち帰ったティアモ達がオークキング達を倒した証と言えるだろう。


「間違いございません、オルスタ王」


騎士団長からのお墨付きを貰い、オルスタ王は頷く。


「うむ。勇者達よ、此度の魔物討伐見事であった。報酬を用意せよ」


「はっ」


入り口を守る兵士が王からの命を受け、大扉から出て報酬を取りに向かう。



「しかし近年は特に魔物が多くなったものだな……本来なら我々王国がなんとかしなければならん問題だが、情けない事に我々だけでは手に負えなくなってきている」


「……我々の力不足です。申し訳ございません」


王が玉座に背を預ければ、ふぅっと軽く息を吐く。多くなってきた魔物のせいで、苦労しているようだ。これにはレノムや他の兵士達も頭を下げ、自分たちの力の無さを謝罪する。


「そんなに魔物多くなったんですか……?」


「ええ、そうみたいです。私達が各地を巡るのを始めた時から既に多かったので……」


「世の中結構物騒になっちまったもんさ。その混乱に乗じて悪い人間の賊が出て来たりとな」


ガットが声を潜めて近くに居たシャイカ、サラの2人と自分の知らない外の世界について聞く。勇者の仲間として旅を続けてきた2人も、世界全体が物騒になっていると感じた。


「(ずっと町中で生活してたから気付かなかった……そんなに大変な事に世界は陥っているんだ)」


勇者達と出会わなければ、この事を知らずに生きていたかもしれない。


この世界が危険に満ちていると、ガットは知っていく。




「シャーリーよ……何やら面白い報告があると聞いたが、本当だろうな?」


「はっ」


ロングウェーブの緑髪の美女は暗闇の部屋の中で、その人物に右膝をついて跪く。


目の前に居る者は玉座に座り、肘掛けに右肘をつく。暗い空間にいながら、見る者を圧倒するような存在感を放っている。


「グロス大陸を中心に、各地で多くの魔物達を倒し続ける勇者一行の中に興味深い存在がいまして。その者は……」



「……誠か?」


「はい。どうでしょう?この件、私にお任せいただけませんか?」


「フン、やっと厄介な存在が無くなり心地良い気分となっていた所だ。お前で片付けられるのなら、やってみせるがいい」



「ありがとうございます。全ては魔王様の為に」


シャーリーと呼ばれる緑髪の美女は跪いたまま、ニヤッと怪しげに微笑んでいた……。

次回はガットと勇者一行のお姉さん達のイチャイチャ(?)な回です。

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