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もぐりの医師

月曜日の朝に、医師が「週末は母に振り回されましたよー」と話を切り出した。


「えー、何があったのですか?」と受付嬢が興味津々で医師に問いかける。

医師は母親によく振り回されているので、また何か事件がと思ったのである。


「土曜日の夕方に母から『乳腺炎になった』と電話がありました。えっ、高齢だから赤子に授乳もしてないし、今までに既往もないのになるかなと思い、母のところに行ったんですよ。

母に話を聞くと『乳房が痛い。』と言うのです。ネットで調べたら、乳腺炎だと書いてあったと言い張ります。『いやいや、年齢的に考えにくいでしょう。』と往なして、とりあえず、痛いところを見せてくれと言いました。そうしたら、乳房ではなく、胸の真ん中や脇に発疹がありました。だから、『これは乳腺炎じゃなくて、帯状疱疹だよ』と言ったのですが、母は『違う!ネットに書いてあった症状と同じだから、乳腺炎だ!』と言い張るのです。母は医療関係者でもなんでもないのですが、なぜに私を信じないのかが分かりませんけど。なんでネットに書いている方が私より上と思うのでしょうね?」と医師。


「そうですね・・・。」受付嬢はなんと言って良いか分からず、曖昧な返事をする。


「とりあえず、『いや、これは帯状疱疹だよ。いつから痛いの?発疹はいつ出たの?』と聞くと、『今週の火曜日くらいかなあ、発疹は木曜日くらいかなあ』と言います。その症状が始まった時に、なぜ言わないのだろかと思いました。『なんでもっと早く言わなかったの?』と聞いても、『忘れてたー。それに、私が痛いとか言うと、あなた怒るじゃない!』とか言っていました。『いやいや、そんなことで怒らないでしょう。むしろ、今から対応するほうがずっと大変なんですけど!!』と思いましたけど、口には出したら、また何を言われるか分かったもんじゃないから、ぐっと我慢しました。それから、土曜日の夕方に開いている処方箋薬局を探し出し、クリニックへ戻り処方箋を作成し、処方箋を持って薬を取りに行きました。そして、母に薬を飲ませましたよ。」と医師がうんざりしたように話す。


「はあ、それは大変でしたね。せめて、クリニックが開いている午前中なら近くの処方箋薬局で薬も処方できたのにですねー。」と受付嬢。


「そうですよ、そうしたら、薬も早く飲めたのに。母は私の医師としての意見を素直に聞くことが少ないのですよ。ひょっとして私をもぐりの医師とでも思っているのかも知れませんね。外来で患者さんを今までたくさん診てきましたが、一番言うことを聞いてくれないのは母です。母をうまくコントロールできるようになれば、普通の患者さんの診療も楽にできるようになるかも知れませんが、そんな日は来ないような気がしますよ・・・。そろそろ帯状疱疹の予防接種を受けさせようと思っていたのですが、なんだかんだで遅くなっていたのが、一番の敗因ですよね・・・。失敗しました。とほほです。」と遠い目をする医師であった。


その話を聞き、受付嬢は早速両親に帯状疱疹の予防接種を受けるように勧めたのは言うまでもない。


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