報われた気持ち
これから拓哉と麻衣の関係はどうなっていったかはお分かりでしょう。順調に交際をはじめたのだ。
拓哉は麻衣の初めての彼氏だった。拓哉も麻衣が初めての彼女だった。拓哉は麻衣の全てを受け入れた。麻衣の見栄を張る性格も、自信のなかった容姿もかわいいと言った。拓哉は彼氏でもあるが、親友のように麻衣の話を興味や関心を持って聞いてくれた。彼女という特別な存在にしてくれた。麻衣の承認欲求は拓哉が全て満たしてくれたのだ。
初めて自信がついた。拓哉の前で、素直に自分の感情を伝える事ができるようになった。
そしてある日の下校中、久しぶりに愛菜を見かけた。中学2年の頃から疎遠になった元友達だ。駅から家に帰る途中、家が近い2人はしばらく同じ方向に向かって歩いていた。以前の麻衣は、走って逃げていた。でも今は違う。愛菜も気まずそうに少し距離を取りながら歩いていた。そしてお互いが家につきそうになった時、麻衣は愛菜の顔を見て軽く会釈をして愛菜に手を振った。愛菜は驚いた表情の後、笑顔を作ってくれて手を振り返してくれた。
麻衣の家の玄関のドアはチョコレートのような形の重いドア。そのドアが急に軽くなったように感じだ。そして家の中に入ると全てのしこりが取れたような感覚もあった。
愛菜の気持ちはわからない。まだもしかしたら愛菜にはしこりが残っているかもしれない。それでも麻衣はとても報われた気持ちになった。
それから愛菜とまた仲良くなるという訳ではない。でも見かけたら笑顔で手を振りあえる、同級生のご近所さんになれた。
それで麻衣も愛菜も十分だったのだ。
それから麻衣は"まい"を忘れていった。今の自分に満足がいっていたからなのか、単に年齢が上がり、夢物語を想像しなくなったのかは、わからない。