春。高校生活
高校1年生になった。地元の中学から離れ、高校生になると周りに知っている子はほとんどいなかった。皆初めましての環境でどの子と友達になろうか品定めをしている。皆、周りの子の顔面や雰囲気だけを見て友達選びをしていた。
麻衣は高校へは電車やバスを使って登校した。イヤホンから流れる大音量の音楽を聞きながら
"これは颯の曲かな〜まいのテーマソングかな〜"
毎日の登下校の時間が麻衣は好きだった。
高校生に入っても女子グループは出来上がっていった。でも中学と違ったのは、1匹狼タイプの子が数名いたり、一軍二軍以外の女子達も皆が自分達が主役のように大声で笑いあい、生き生きして見えた事。麻衣は居心地が良かった。1人で昼飯を食べている子もイヤホンをつけて自分の世界に入ってるように見えた。
麻衣は新しい友達と流行りの服を買いに行ったり、初めて化粧にも挑戦した。初めての化粧で顔はバケモノ化しながらも友達と笑い合い、これまた普通の高校生活をスタートさせた。
そんな麻衣にも特別なことが起きた。席がななめ後ろの拓哉が消しゴムを落としてきた。何度も何度も。麻衣は毎回拾ってあげては机の上に置いた。数回繰り返しているうちになぜだか笑えてきた。
「よく落とすのねぇ〜」
拓哉は笑いながら
「ごめんな。麻衣、昨日のノートも見せてくれない?」声から緊張が伝わってきた。
麻衣は自分の字の綺麗さに自信がなく、恥ずかしさから見せることが出来なかった。そして首を横にふった。すると拓哉も下を向いて何事もなかったようなフリをした。
麻衣はその日からノートを綺麗に丁寧に書くようにしていった。次は拓哉にノートを貸してあげられるように。授業を聞くことよりもノートを綺麗に完成させる事に力を注いでいた。
そしてある日の下校中、電車を待っていると同じホームにやってきたのは拓哉だった。そして何も言わないが麻衣の隣に立った。麻衣は緊張しながらも声をかけた。
「この前ノート見せてあげられやんかった。ごめん。今なら貸してあげられるかも。」弱々しく言った。
そう言うと拓哉はイヤホンを外した。イヤホンをしていたのにきちんと麻衣の会話は聞き取れていたのだ。
そして恥ずかしそうに笑った。
「それじゃちょっと借りるわ」麻衣はこの日を待っていたかのようにノートを鞄から取り出し、拓哉に渡した。拓哉は北方面、麻衣は南方面。電車の方向は違ったのでその日はそのまま別れた。
次の日の授業中、拓哉に肩をトントンと叩かれ、麻衣が振り向くと、ノートを返してくれた。そして授業中ノートを開くとメモ用紙が挟まっていた。
"ありがとう。090・・・・・・・・浅野拓哉"
麻衣は連絡先の書いてある紙を見て顔が真っ赤になった。今日1日はもう絶対に、後ろを振り返ることはできなかった。それくらい恥ずかしかった。
家に帰るまでは冷静に冷静に装った。麻衣は家に帰るとベットで飛び跳ねて喜んだ。そしてさっそく連絡してみることにした。
麻衣はその日は一度も"まい"にならなかった。