中学3年の世界 麻衣の初恋
麻衣は中学3年生になった。
美羽や莉子、周りのほとんどの人と、別のクラスになった。中学生の世界ではクラス替えは一大事。また新たな世界の始まりだった。
美羽は別のクラスになっても一軍女子だった。
莉子は気の合う友達をすぐに数人見つけ、すでにクラスに馴染んでいた。
愛菜は別のクラスで友達がいるようだった。愛菜とは家が近いので見かけることはあるが、もう疎遠の仲になっていた。
そして麻衣は3年生になってからは、一軍に無理に入ろうとしなかった。
1人の女の子が話しかけてくれた。麻衣はそれから毎日、その子と一緒にいることが多かった。
3年のクラスリーダー女子は奈津子だ。奈津子は明るくしっかり者で成績がよく、学級委員長をやるタイプだった。
麻衣はまだまだ思春期真っ盛り。異性とは恥ずかしくて話せなかったが唯一話しかけてくるのが2年の時も同じクラスだった寛人だ。寛人は麻衣をすぐからかってきた。麻衣はいちいちそれに反応して顔を赤らめた。でもそれ以上でもそれ以下でもない。まるで小学生のようなやりとりのようだった。
寛人は身長が高くて人気者だった。色んな女子男子と仲が良く、麻衣は特別というわけでもなくその中の1人だった。でも唯一話しかけてくれる男子、寛人がいてくれて、麻衣は嬉しかった。
学校から帰れば1人の楽しい世界が待っていた。帰り道から想像を膨らませ、家に入る時には、魔法界への入り口に入るような感覚だった。学校が終わると自分は"まい"になっていた。まいは特別で他者から求められ、認められ、自己肯定感も高い。麻衣とは正反対だ。
そしてある日の学校の帰り道、公園の横の道を歩いていると、ふと目に入ったのは、奈津子と寛人が肩を寄せ合う姿だった。麻衣はなぜかとても儚い気持ちになった。頑張ってはめていたジグゾーパズルが壊れたような気持ちだ。見たくない光景を見てしまった。
なぜだろう・・・。
いつも空の夕焼けが綺麗な帰り道、今日の夕焼けはなんだか汚く見えた。そして空より地面を見ていたい気持ちだ。
私・・・寛人の事好きだったのかな?いやいや・・そんな訳ない。唯一話しかけてくれる存在を失っただけよね?
次の日も普通にちょっかいをかけてくる寛人に麻衣はなるべく避けていたかった。いつもは喜んでいたのに今日は怒りさえ感じた。"何よ。奈津子というかわいい彼女がいるくせに私にまでちょっかいかけてこないでよね"これまで思ったことのない感情だ。
そして学校が終わると、いつも通り 「まい」になりきり、颯というイケメンとの恋を想像した。
でも麻衣は恋愛を知らなかった。自分が幸せになる道がどうも描けなかった。恋愛てなんなんだろう・・・かっこいい男子に憧れることはあってもその人に認められたことも好きになってもらった事もなかったからだ。いつもイケメンの隣には美人がいる。そう感じていた。
そして進路を決める時がやってきた。みんな受験勉強を必死にしていて、クラスはピリついた雰囲気があった。麻衣の成績は中の下。受験したくない事を親に相談すると、お金はかかるが私立高校に推薦入学することに決まった。その為皆が受験勉強で必死になっている中、推薦入学組は邪魔しないようにひっそりと過ごす様子だった。
そして皆の進路が決まり、そのまま麻衣はこれまで通り、誰かに認められる事もなく、平凡に、何もなく、中学を卒業した。