九話 ウォーミングアップ戦
「何だ、何かこっちに向かってくるな」
白衣の集団の中で一番前に立つ女性、おそらくレンセツを見て呟いている。シャツの上から白衣を纏った腰まで届く茶髪ロングの女性、背は大体170くらいだろう。大雑把な性格なのか髪はボサボサだ、その他に突出した特徴として大きな丸メガネをかけている。
「サキ先生、どういたしますか?」
白衣の中の一人がそう話しかける。
「そうだね、一旦待ってみようか」
サキはその人物の言葉にそう返す。それから数分後、
「お前が毎回魔王城に攻め込んでくる科学者集団の長、サキとやらか?」
サキの元にレンセツが辿り着く。
「おや、君はどうも魔王には見えない。悪いが遊ぶ時間はなくてね、今の君の言葉に肯定したら魔王を呼んできてくれるかい?」
レンセツの見た目のせいだろう、多分子供扱いされている。
「悪いがあっちは今手が離せんでのう。我で我慢しておけ、小娘」
レンセツは不敵な笑みを浮かべながらそう返す。
「ふむ、随分と大人びたお嬢さんだ。ただやはりまだまだ幼いようだ、言葉の使い方を間違えているよ?小娘とは自分より年下の相手に使うものだ」
レンセツの言葉に対してズレた方向に淡々と説明するサキ、何とも考えがズレている。
「我を随分と馬鹿にしてるようじゃな。まあ、そんなことはどうでも良い。要するに魔王と戦いたいと望むのならまずは我を倒してみることじゃな」
「.....全く面倒くさいものだ。私は魔王軍とは魔王が力で統制しているものと推測していたが、どうも間違っていたようだ」
レンセツの言葉に一気にテンションが下がる、正確には『まずは我を倒して』と言った辺りから。
「.....?何を言ってるのかよく分からんが、お前の推測に間違いはないぞ」
「ならば、君は今すぐにでも私を魔王に合わせたまえ。魔王の強さを信頼しているのであればそれが出来るはずだ、出来ないということは君が魔王を信頼していない証拠ではないかな?」
「う、う〜む.....」
淡々とした態度で答えていくサキ、さっきから何が言いたいのかいまいち伝わってこない。レンセツはもう頭を抱えて唸っている。
「私はね、『私を倒してもまだ次がいる』みたいな面倒くさい展開が嫌いなのだよ。無駄は省きたいし、何より万全の状態で試さなければ私の発明の真の力は発揮されない。つまりは君と戦うことで負う無駄な消耗など避けたいのだ」
そんなレンセツにさらに畳み掛けるように続けて話す。
「あーあー、もう良いもう良い。さっきから聞いておればお前、我に勝つことは当たり前みたいに言ってくれるのう」
面倒くさくなったレンセツは強制的に話を切る。
「ああ、すまない。そのようなつもりはなかったのだ、君の気分を害したのなら謝ろう。だがしかし、私のこの認識は今言ったことと大差はないし、これを改める気はない」
「やれやれ、小難しい上に頑固じゃのう。そういう生意気なことはまず我に勝ってからしてもらおうかねぇ!」
流石に痺れを切らしたレンセツは刀を構えながら勢いよくサキに向かって突っ込んでいく。
「全く、気が早いお嬢さんだ。まぁ、いいだろう。そこまで自信があるのなら今回は君で試すとしよう、この『ホーリーブレード』の性能を」
サキがそう言い、取り出したのは異常なまでに光り輝く剣だった。見ているだけで目がやられてしまいそうなくらい発光している。
「む、剣か。随分と眩しいが面白い、そんなおもちゃで我の刀が受けられるなら受けてみろ!」
レンセツはその光に目が眩みつつも刀を振るう、刀と剣がぶつかり合う。
「.....っ!なるほど、ツノを見るにお嬢さんは鬼なのだね。この歳でもこれだけの力、侮れないな」
少しの鍔迫り合いの後、サキはいとも簡単に弾かれた。なのに冷静すぎるほど淡々と分析している。
「む、聖属性の魔法をかけとるな。ちょっと手が焦げてしまった」
「気づいたか、この剣は魔族の弱点である聖属性の魔力が込められている。これによってあるだけで持続的に魔族にダメージを与え続けることができる、さらには人間にとっては回復となるのも利点だ。だが光が強過ぎて相手に位置が容易に気づかれるのが問題か」
レンセツが煙が出る手を見ながらそう言うとサキはまた長々と解説してくる。
「その光、そんじょそこらの魔族なら昇天ものじゃな」
「そうだとも、私は耐え続けるだけで良いのだ。魔王城付近の魔族どももこの光の前では弱くて検証も難しいかったのだが、君はよく耐える」
「大口叩いた割には戦い方が小賢しいのう。それにしても眩しいのう」
レンセツは半ば呆れた様子で剣から出る光を手で遮る。
「隙ありだ、お嬢さん!」
次の瞬間、レンセツが視界を手で覆ったのを見計らってサキは剣を振る。
「相手の隙をつかんとする考えは良いがーーー」
「っ⁉︎な、に.....」
「それが隙ではないこともある、未熟者め」
サキの剣が届くより早くレンセツはサキを斬った。サキの右肩から左腰にかけて赤い線が走る。
「こ、今回はこれくらいにしておくとしよう。さらばだ、次はすぐすっと魔王を差し出してくれると期待しておくよ」
サキがそう言ったと同時、その姿が透けるように消えた。同じく他の白衣たちも消えた。
「つまらんのう、もう終わりか。まぁ、護衛前のウォーミングアップにはなったかのう」