八話 出発前のごたごた
「早くいくぞ!全く、お前のせいで予想外に時間を食ったじゃねぇか」
儂は魔王城の廊下をレンセツを引きずりながら早足で進んでいた。
本当にこいつは!やっと動いたと思ったらチマチマ歩きおって、なんで儂がこんなことを。
「おいよせ、そんな力任せに引っ張るでない!もっと年上を敬わんか、我はこう見えてお前より何百年と生きとるんじゃぞ」
背後からギャアギャアうるさい声が聞こえてくる。全く、年上だって言うならもっと年相応に大人しくなって欲しいもんだ。
「そんなことはお前に会った時から承知しとるわ!いつまでも威厳もクソもないこまい身体で年甲斐もなく落ち着きがないやつだってことはな」
「いつからじゃ、いつからなんじゃ!我にそんなこと言うようになりおって、昔はもっと可愛かったというのに」
なんか大きくなった子を見る母親みたいなこと言い出したぞ、昔って一体何十年前のことを言ってんだ。
「知らん、昔のことは忘れた。っていうか、良い加減自分で歩け!」
「お前、我から受けた恩の数々忘れたとは言わせんぞ!」
儂の話を聞いているのかいないのか、好き勝手に騒いでくれる。
「ああ、受けた恩以上にお前が儂に負った負債の方が遥かに多いこともな」
「ぐぬぅ.....!ああ言ったらこう言いおって」
悔しそうにそんなことを言うレンセツ。
それはお前だ!と、言ってやりたいがこれ以上問答してたらもっと遅くなってしまうな。我慢だ.....出来るかな?
「おい、さっきからなに黙っとるんじゃ?おい、聞いとるか?無言でさっきより強く引っ張るのやめてくれ、流石の我も痛くなってきた」
「.........」
後ろがまだうるさいが無視して進み、やっと魔王城の外に出られた。
「疲れた、まだルイナたちは来てないな。今のうちに馬車も用意しておくか。おい、お前もてつだーーー」
「...........」
儂は話しながらレンセツの方を見ると言葉が途切れる。それは何故か、レンセツが静かにそのなっがい刀を抜いて、殺気を放っていたからだ。
「どうした、レンセツ?」
「お前の娘が来ても、ちょっと出るのは遅れるかもしれんのぅ」
儂の問いにレンセツはそう答える、その間にも視線は別の方を向いている。
一体何があるというんだ、こいつは。儂は何も感じんぞ?いや訂正だ、こいつの殺気はずっと感じてたな。
「何を見てるんだ?儂には何も見えんが」
レンセツの目線の先を見て見るが、ただの道以外さっぱり何も見えない。一体全体、こいつには何が見えてるんだ?
「ほう?分からんか、まだまだじゃのう」
状況を理解できていない様子の儂を見てここぞとばかりに自分の方が上感を出し始めるレンセツ。
「さぁ、魔王城よ!我が新発明が貴様にどれほど効くか、試して見ようではないか!」
レンセツの言葉からしばらく経って何やら白衣を着た集団が現れた。
「本当に何か来やがった」
「ほらな、やはり我の方がまだまだ上ということじゃな。それが今、証明されたのぅ」
驚いた儂を見てレンセツはさらに得意げにそう言い切る。
ぐぬぅ.....!腹が立つがこればかりは儂の方が分かっていなかった、こいつに儂が言わされるとは。失念していたが、レンセツのおかげで今があったんだったな。儂の師といっても過言じゃない、性格に難はあれど強さは年相応、いやそれ以上。
「それにしてもあいつら、また来たのか」
儂は白衣の集団、その中でも一番前に立っている女性に覚えがある。
「あいつは我も知っとるぞ、一年ごとに魔王城を襲撃してくるやつじゃろ。まぁ、お前は馬車の準備でもしておけ。出発がなるべく遅れんよう斬ってくる、娘の心象が下がるのは避けたいじゃろう」
確か名前はサキだったか、兵器が完成するとそれを試すために魔王城まで攻め込んでくる厄介極まりない女だ。レンセツは儂にそう言ってそいつがいる方へと歩いていく。
かっこつけてるが、さて本当のところはどうせ、
「.....酒か?」
「さすが、よく分かっておる。契約は結ばれた時点で始まっとる、上手いのを期待しとるぞ」
儂の一言によって一気にレンセツの言葉の良さが消え失せた。
「そんなことだろうとは思った、好きにしろ。依頼したのは儂だ、ちゃんと買ってやる。って、もう聞こえとらんか。自分が聞いたくせに答えを聞かずに行きやがった」
答えを聞かずとも分かっていたのか、それとも有無など言わせないつもりなのかどちらにしても自由すぎるやつだ。
まぁ、良い。どっちだったにせよ、問題ごとを片付けてくれるなら儂はそれで良いしな。あいつなら安心だ、まず負けることはない。それにせっかく依頼したのだからしっかり働いてもらわんとな。
「さて、あっちはあいつに任せて儂は馬車の準備に取り掛かろうか」