七十五話 駆け出すミロ
「どうだったかナ、楽しかったかナ?」
エフトに誘われてしばらくこの国の観光をした、のだが。
なんというか、自分たち龍族を讃えるようなものばっかりだったな。咆哮の崖(祖先の咆哮でできたバカでかい穴の空いた崖)やら巨龍の巣跡(言葉通り側から見たらただのでかい洞窟)やら二股の滝(これまた祖先が斬ったらしい見た目だけは名所っぽい滝)やら。
「あー、まぁ、お腹いっぱいだな」
さっきから名所は全て過去の龍族の功績ばかり、そこまではまぁ良いとしても問題なのはその場所その場所でいちいち由来やらどれだけすごいのかを熱弁されたのだ。
しかもこいつの話し方は未だに慣れんし、二倍で疲れる。
「.....?食べ物は何も食べてないと思うガ、そろそろどっか寄ってメシにしようかと思ってたけど腹が減ってないならまだいけるナ!」
「か、勘弁してくれ!もう十分楽しんだ、なぁ二人とも」
儂の言葉が通じなかった上に続行を宣言しやがった。これには思わず声が出た、しかも娘たちに共感を求めてしまった。
「知らねぇ、とりあえず疲れた」
「苦痛だった、父恨む」
二人とも疲れた様子でそう答える、なんか両方ともそっけない。
えぇ、儂さらに嫌われてないか?ミロに至っちゃ堂々と不穏な⁉︎
「む、やはり少し休憩が要りそうだナ。うまい店を知ってかラ、そこでメシにしよウ」
ジェリエとミロの回答に流石に察したらしく、一旦休憩としてくれるらしい。
よかった、だがこの後どうするか。これ以上あんなの聞かされたらたまったもんじゃないぞ。
「はぁ、やっと落ち着けーーーあれ?」
ミロが何かを呟いた、かと思ったら何かに気づいたかのように走り出す。
ミロが走るなんざ久しぶり、てかアイツあんなに早く走れるんだな.....ん?
「いや待て、どこへ行くミロ!」
「嘘だろ、ミロが走ってるぞ」
あまりにも珍しい光景に驚きを通り越して分析じみたことを始めてしまっていた、我に返りすぐに声をかける。その時チラッと聞こえたジェリエの声、そしてそこで見えた驚愕に引きつった顔。
「そ、そんなに驚くことか⁉︎」
あ、しまった。つい馴れ馴れしく、これはまたあれがーーー!
「え、いやだってアイツ、城にいた時も自分で移動してるとこだってほとんど見たことねぇんだぞ」
「あ、あれ?」
てっきりあの眼光で激しい言葉が返ってくるかと身構えたが、それはなかった。それだけ目の前の状況、ミロが自ら走ったことが異常なことなのだろうか。
まぁ、儂もあんまり見たことはないが.....そんなにか?
「二人とも何やってんノ?あの子、行っちゃうけど良いノ?」
「あ、そうだ。おい、待てよミロ!」
そんなこんな話していると、エフトが口を開いた。それを聞いたジェリエがミロを追って走り出す。
「あ、ジェリエ!すまんがエフト、観光は中止だ」
儂はエフトにそう言い残し、ジェリエの後を追う。
「おい、どうなってんだ。ミロの奴、全然追いつけねぇ!」
「ああ、そうだな。あの速さ、アイツまたこき使ってるな」
ミロを追ってジェリエとしばらく走るも全く追いつく気配なし、ミロは運動なんざ当然していないのであんなに早く走れる訳がない。
あれは明らかに使ってる、ほーらみろ思った通り体が浮き始めやがった。そろそろ足が疲れてきた頃合いだな、動かすのをやめやがった。
「え、は、浮遊かなんかの魔法か?ミロの奴、誰かに連れ去られてんじゃーーー!」
「いや違うぞ、アイツのあれは自分の意思でやってるんだよ」
浮遊で移動を始めたミロ、それを見て儂の隣で困惑するジェリエ。あれに儂は覚えがある。
にしても無駄遣いはするなと言っておいたのに、いやそもそもむやみやたらとこういうことする奴じゃない。そんなに大事なものでも見つけたか?
「あれ、なんな甘い匂いがしないか?」
「ああ、言われてみれば確かに」
先ほどから鼻孔をくすぐる甘い香り、ミロを追うにつれて強くなっているのが分かる。
この香り、前にも何度か嗅いだことあるやつだ。.....あ、思い出したぞ、チョコレートだ!ってことはミロはこの香りを嗅ぎつけて走り出したのか!
「あ、ミロが止まったぞ」
追いかけること数分、ジェリエが口を開いた。やっとミロが止まったらしい。
「やっとか、随分と移動したな」
いくら菓子とはいえ、ミロがあそこまで取り乱した理由は一体なんなのか。
にしても舐めてたな、ミロの使う魔法は知ってたがまさかあんなに速く移動できるとは思わんかった。ジェリエは案外平気そうだな、良かった。
「なんかデカい奴が菓子配ってんぞ」
ジェリエが言った通り、目の前では二メートル以上の男が群がる子供の魔族にチョコやらキャンディやらを差し出している。そしてそんな男に臆せず近づいていくミロ。
「おや、新しい子ですかな?」




