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七十四話 今度こそ普通に観光を

「やぁっとアイツと離れられた!」


 儂は思わずそんな声が出た、アイツというのは言うまでもないだろう。馬車を止めていざ観光へとなった時、メルルナが口を開いた。


 まさかメルルナが暗鬼と二人で観光しようとか言い出したときは驚いたし、絶対に認めんと言ってやろうとしたが。この人は任せて妹たちと楽しんで、なんて言われちゃあな。まぁ、儂は暗鬼を信用できんからルイナには一緒に行かせたが。


「うるせぇな!くだらない事叫んでねぇで、さっさと行けよ」


 そんな儂にかけられた言葉はあまりにも鋭かった、今にも貫かんとする眼力でこっちを睨むジェリエ。その胸にはスライム状態のニュイが抱かれてる、ジェリエから目を下に逸らすと潤んだ上目遣いが儂を癒してくれる。もちろん、一言も発することはない。


 あれ、思ったよりも良い状況じゃない?やっぱりあの時の言葉は気のせいだったのかもしれない。


「ぼりぼり.....うむ、んぐ」


 暗鬼にメルルナとルイナがついていった、あっちは三人だけ。ともなればコイツはこっちだ、儂とジェリエの会話には全く興味なさげに黙々と菓子を口に運んでいる。


 レンセツはやはりというか留守番だ、しかしまぁ前ごねやがったから一様聞いたが分かりきったことをわざわざ聞くことほど面倒なことはなかったな。


「と、とりあえず歩くか」


「..........」


「はむ、むぐ.....ん、分かった」


 なんとも言えない空気、片方はやたらと攻撃的だし片方は無関心。しかしどちらも儂にはちゃんとついてくる、イヤというわけではなさそうなのが余計に混乱する。


 ニュイは喋ってはくれんしなぁ、どうにか二人の気を引けるような何かを見つけんと精神がやられる。やっと楽しみだった娘との観光だ、絶対に良い思い出にしてやるぞ。


「なぁ、なんか食べたいものはあるか?見たいものでも良い、せっかくの旅行だ。やりたいことなんでもやらせてやろう!」


 いつまでも自分の娘にビビっていては楽しい旅行にはならない、まずは自分が楽しむ気持ちを持たなければ。儂は恐怖と気まずさを勢いで無理やり押さえ込む。


 頼む、なんか反応してくれ!


「.....じゃあ適当な名所行こうぜ」


「父、お菓子」


 ジェリエは予想外にもしおらしくなり、小さな声で呟くように口を開く。それに対してミロはいつも通りに遠慮なく要求してきた。


 ん、なんだジェリエのこの態度?さっきまであんなにキツイ口調だったのに、今度は俯いてこっちを見ようとしない。


「じ、じゃあ、観光行くか!」


「.....おう」


 次の儂の言葉にこれまた小さな声で一言。


「え、お菓子は?」


「それはついででも買えるだろ、てかお前はどこ行ってもそれなのか?」


 お菓子お菓子と、儂は呆れた声で呟く。


 ーーと、


「やーやー、そこにいるのさっきの鬼と一緒にいたおにーさんじゃないのサ」


 ジェリエたちとそんな話をしていると、なんか聞き覚えのある声に話しかけられる。


「.....お前、わざわざつけてきたのか?」


 儂は少し考えた後、声のトーンを下げて問いかける。その時、同時に声の主の方に目を向けるがそこにいたのはやはり入国の場所にいた青い方だった。


 確かエフトとか呼ばれてたな、まさかまた邪魔が入るのか?


「いんヤ〜?違うよ、警戒しすぎじゃないカ?もしかして後ろめたいことでもあるのかナ?」


「バカ抜かすな、あの場所からはかなり離れてるはずだ。たまたま、ぶらついてたらバッタリなんてことが起こるのはあり得ん」


 儂の問いにおどけた様子で答えるエフト、下手な誤魔化しにも見えるしわざとにも見える不気味な雰囲気。胡散臭さでは暗鬼に劣るが、警戒するには十分。


「.....やだなぁ、な〜んで気づくノ?アタシ、やっぱり頭が良い奴は嫌いかモ〜」


 しばらく黙ったかと思えば観念したといったふうな回答が返ってきた。


 は、頭が良い奴ってのは儂のことか?今のが頭が良いに入るならこの世は天才だらけになるぞ。


「で、本当のところはなんだ?」


「アンタ、あの暗鬼と一緒にいただロ?この時点で暗鬼の知り合いなのは確定、暗鬼が男と一緒にいるのは八鬼衆の奴か巌忽さん以外で見たことがなイ。暗鬼は男を嫌ってる、なら少なくとも八鬼衆以上の大物。つまり、アンタ有名人だろってわけサ」


 .....こいつ、語尾のイントネーションがおかしい。これまでは聞き流せていたのだろう、長文になってそれが顕著になったことで気づいてしまった。いつも喋っている言葉と違うせいか、違和感に思考が持ってかれる。聞き取れないことはないがストレスは間違いなく蓄積する、そんな喋り方。


「ま、まぁ、あながち間違ってはないな」


「有名人とは極力知り合っとくべキ、ってことでこの国の案内をぜひ任せて欲しいナって思ってネ!」

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