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七十話 待っていた娘

 近づくにつれて確信に変わる、間違いなくそこに立っているのはジェリエだ。


「アイツ、なんであんなところに」


 儂が少し疑問に思っている間に着々と近づいていく、すると何やらもう一人馬車から出てきた。


「.....ん、なんでアイツが!」


 その人物を見た儂は思わず、そんな声を出してしまった。心なしか声に力も入ってしまう。それもそのはず、儂はそいつに覚えがあった。


 なんであの鬼がジェリエと一緒にいやがる、あのーーー!ええと.....名前はなんだったか。


「なんとか鬼だったのは覚えてるが.....ええい!巌忽の奴、分かりにくい名前をつけやがって」


 儂はそいつの名前を口にしようとした瞬間、名前が名前なせいで瞬間的に言葉が詰まった。そのせいで儂の怒りも削がれてしまう。


 ああ、そうだ!暗鬼だ、思い出した。なんでアイツがジェリエと一緒に。


「.....アイツもこっちに気づいたか、なんかこっちに向かってーーー」


「おい、そこのにいちゃん!」


 暗鬼は儂の存在に気づくや否や、何故かこっちに突っ込んできた。しかも結構怒気の入った声で話しかけてきた。


 何をキレてんだ、こいつは。


「おい、暗鬼!なんでお前がーーー」


「なんや、ウチのジェリエちゃんをジロジロ見とんとちゃうで!もしなんかやましいこと考えとるんなら.....」


 儂の言葉が終わるより早く暗鬼は地を蹴り、御者台に飛び乗ってきた。儂はやむを得ず急停止させる。しかも暗鬼はその後、訳の分からないことを口にした。さらに右手が着物服の中に、おそらく武器を握っているのだろう。


 ん?こいつ、まさかとは思うが儂のこと忘れてる?


「な〜にだんまり決め込んどんねん!謝るなら今のうちやで?」


 儂が呆れてものが言えない間、そこまでかというほど捲し立ててくる。


「ちょっと落ち着け、暗鬼。儂を見て本当に誰か分からないか?」


「は、何を言うとんねん。ナンパのつもりなら古いで?」


 儂の言葉で暗鬼は少し平静を取り戻した様子を見せた、その結果そんな言葉が出てきた。儂のことを確認した上でピンとこなかったらしい。


 嘘だろ、忘れるか?確かにちょっとしか顔を合わせとらんが、結構衝撃的な出会いだったと思うんだがな。てか、魔王って時点でそうそう忘れんだろ。


「はぁ、呆れた。本当に覚えとらんのか、ジェリエの父親だ」


「え、お義父さん⁉︎」


 儂の言葉に驚いた様子でそう口にする暗鬼。


 待て、なに普通にお義父さん呼びしてやがる。ふざけてるのか?


「あ、あ〜、よう見たらあん時のにいちゃんやん!いやぁ、分からんかったわ。せや、シャンプー変えたやろ?せやせや間違いない、通りで気づかんかったわけや!」


 父親という単語を聞いてやっと思い出したらしい、なんのつもりか苦しすぎる言い訳がついてきた。


 髪型とか服装なら分かるが、シャンプー変えたからって認識できなくなるわけないだろ。それにお義父さんて呼ぶ割には態度が馴れ馴れしすぎるし。


「まぁ、それはどうでも良いが。わかってくれたならそろそろ離れてくれんか?」


「ああ、せやな。すまんすまん」


 もはやなにもいう気は失せた、とりあえず今はジェリエのところへ行きたい。と、


「父さん.....」


 暗鬼が離れたとほぼ同じくらいに前方からジェリエの声が、しかしその声はいつもの強気なものではなく弱々しい。しかもよく見たら表情も悲しそうだ。


 ん、今の.....ジェリエの口から出たのか?あの強いジェリエが.....まさか!


「お前、ジェリエに何かしやがったなぁ!」


 頭によぎったのは暗鬼の顔、儂は衝動的に暗鬼の胸ぐらを掴んでいた。


「ちょちょ、お義父さん。気持ちは理解できるが、誤解や!」


「じゃあなんでジェリエがーーーぬっ⁉︎」


 怒りのあまり怒気のこもった声で捲し立てようとしてしまった儂、しかし次にきた抱きつかれたような感覚で思わずその言葉を止める。


「..........」


「じ、ジェリエ?」


 一体何を思っているのか、ジェリエが静かに儂に近づいて抱きついてきたのだ。


「.....おかえり」


「ーーーっ⁉︎い、今お前」


「は?なんでもねぇ!そんなことよりニュイはどこなんだよ!」


 信じ難い一言、その後に儂の返した言葉にはいつものキツイ口調が戻ってきていた。さっきまでの悲しげな表情はどこへやら、鋭い目つきで威嚇してきた。儂の答えを聞きもしないで、儂の背後に向かって歩いていってしまう。


 『おかえり』、確かに聞こえだぞ。今のは一体なんだったんだ?コイツに何かされたわけじゃなかったってことか?


「次からは勝手に行かんと、相談するこっちゃな」


 意味がわからないといった様子を儂にさらに畳み掛けるように暗鬼まで意味不明なことを言って離れていった。何か呆れられていたような気がする。

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